AIでLINE「絵文字」305個を作った話——スタンプより先に、こっちをやるべきだった
プロローグ
正直に言う。
前回、「AIでLINEスタンプを作って、審査を通して、売るまでにやったこと全部」を書いた。あれから、もう一つ踏み込んだ。LINE絵文字を305個、AIで作ったのである。
そして気づいた。絵文字の方が、スタンプより10倍、費用対効果が高い。これは先に知りたかった。20年のITコンサルで「戦うべき市場を見誤ると、努力が全部無駄になる」と散々言ってきた自分が、LINEクリエイターの世界で同じ罠にハマっていた。今日はその話を書く。
スタンプで学んだことを、絵文字で検証した
前回の記事で書いた通り、スタンプを作って売った。承認された瞬間の興奮は本物だった。しかし、冷静にビジネスとして見ると、努力量に対する市場の狭さがずっと気になっていた。
スタンプ市場は、完全なレッドオーシャンである。既に人気クリエイターが固定化されている。検索で埋もれる。1セット40個作っても、単価120円で分配率は涙が出るレベルである。PMの視点で見れば、これは参入障壁は低いが、勝率が構造的に低い市場である。
そこで、ランチェスター戦略で言うところの「ずらし」を試した。スタンプではなく、絵文字に行く。これである。
絵文字市場が、実はおいしい理由
LINE絵文字を、ビジネスとして分解してみる。
第一の理由は、供給が圧倒的に少ないことである。スタンプクリエイターは星の数ほどいる。しかし、絵文字を本気で作っているクリエイターは、桁違いに少ない。理由は単純で、絵文字は地味だからである。キャラクター性を出しにくい。1つ1つが小さい。インパクト勝負ができない。だから、多くのクリエイターがスタンプに流れる。結果、絵文字市場は構造的に供給が薄い。
第二の理由は、「デコ文字」という、需要が尽きない定番領域があることである。LINE絵文字には、デコ文字という仕様がある。ひらがな・カタカナで161個、英数字で104個、これが実需そのものである。スタンプは気分で使うものである。しかしデコ文字は、毎日の文字入力の装飾として使われる。使用頻度が桁違いに高い。しかも、161個プラス104個で265個という必須枚数が決まっている。ここを埋められるクリエイターは、それだけで希少価値がある。
第三の理由は、305個という重さが、参入障壁になることである。絵文字とデコ文字のフルセットは、最大305個である。スタンプの40個と比較して、約8倍の制作量である。普通の個人クリエイターが、手描きで305個作るのは、現実的ではない。しかし、AIなら作れる。ここに、AIを使える個人の勝ち筋がある。
305個をAIで作る、という挑戦
正直、最初は「305個とか無理ではないか」と思った。スタンプ40個ですら、試行錯誤で1週間かかった。その8倍である。しかし、考え方を切り替えた。40個は手作業の延長、305個は設計と運用の勝負である。
これは、PMの仕事で言えば、10人月のプロジェクトと80人月のプロジェクトの違いである。40個なら気合いで何とかなる。305個は、設計しないと絶対に終わらない。だから、PMとして305個に向き合った。
ゆるかわサラリーマン絵文字——設計の全体像
今回、挑戦したコンセプトは「ゆるくて、かわいい、サラリーマンキャラの絵文字」である。理由は明確である。LINE絵文字の主要ユーザーは20代から40代の社会人であり、デコ文字の需要はビジネスシーンのトーク装飾にあり、「ゆるかわサラリーマン」はビジネスシーンで違和感なく使えるからである。ターゲットと用途を、設計段階で完全に一致させた。
制作物の全体像は以下の通りである。絵文字40個(横180×縦180px、感情表現・アクション)、デコ文字かなカナ161個(横180×縦180px)、デコ文字英数字104個(横180×縦180px)、メイン画像1個(240×240px)、タブ画像1個(96×74px)、合計305個とメインおよびタブ画像である。
AIプロンプト設計——統一感が最大の敵
305個を作るとき、一番の難題はキャラクターの統一感である。AIで1枚ずつ作ると、顔のタッチ、目の大きさ、体のバランスが、毎回微妙にズレる。40個ならごまかせる。305個だと、バラつきが目に見えて出る。
ここで、プロンプトの型を固めた。
キャラクター設定:
- ゆるくてかわいいサラリーマン
- 丸いフォルム、太めの線
- パステルカラー(肌色・スーツはライトグレー)
- 白背景
- 感情表現がはっきり(喜び・怒り・悲しみ・照れ・驚き・お願い・ありがとう)
- 日本向け、統一されたスタイル
- 高解像度、180×180px
絵文字タイプ:
{感情 or 文字}を表現する、単独のイラスト
このプロンプトを固定テンプレート化して、感情や文字だけを差し替えていく運用にした。PMの世界で言えば、変更管理の発想である。変えるべき変数と、固定すべき定数を分離する。これで305個のブレが、劇的に減る。
LINE申請用のタイトル・説明文(160byte / 80字以内)
日本語版(80字以内)は以下の通りである。
タイトル:ゆるかわサラリーマン絵文字
説明文(77字):毎日のトークをゆるく彩る、サラリーマンの絵文字とデコ文字。喜怒哀楽からお願い・感謝まで、ビジネスも雑談も全部これ1つでOK。
英語版(160byte以内)は以下の通りである。
Title: Chill Salaryman Emoji
Description (158 byte): Cute and chill salaryman emoji and decoration letters. Express emotions, thanks, and requests in daily chats. Perfect for work, friends, and family.
命名規則とファイル構成
LINEの審査は、ファイル名の厳格さも重要な通過条件である。
release_package/
├── main.png (240×240px, 透過PNG)
├── tab.png (96×74px, 透過PNG)
├── 001.png (180×180px, 透過PNG)
├── 002.png
├── 003.png
...
├── 305.png
001.pngから040.pngは絵文字(感情・アクション)、041.pngから201.pngはデコ文字(ひらがな・カタカナ161個)、202.pngから305.pngはデコ文字(英数字104個)という構成である。
Manusへの指示(一括運用のコツ)
- キャラクター:上記プロンプトで統一
- サイズ:横180×縦180px
- 背景:完全透過PNG
- ファイル名:001.png 〜 305.png(3桁ゼロ埋め)
- メイン画像:240×240px、tab画像:96×74px を別途生成
- 完成後、release_package.zip にまとめる
ポイントは3桁ゼロ埋めである。1.pngではなく001.pngとする。これをやらないと、並び順がバラバラになる。
審査で落ちやすい、絵文字ならではの罠
スタンプ審査と、絵文字審査は、罠が違う。
第一の罠は、透過処理の抜け漏れが致命的であることである。絵文字はサイズが小さい(180×180px)。1ピクセルでも白背景が残ると、トーク画面で超目立つ。Manusで透過処理してもらった後、必ず全枚数を目視チェックする。これはPMで言うレビュー工程である。省略すると確実に審査で落ちる。
第二の罠は、デコ文字の文字の読みやすさである。161個のひらがな・カタカナ、104個の英数字、これらは文字として認識できることが最優先である。装飾しすぎると、審査で「文字として機能していない」と判断される。可愛さと可読性のバランスが、設計の肝である。
第三の罠は、キャラクターの統一感チェックである。LINEの審査側は、全305個をまとめて見ている。1枚だけ浮いているキャラがあると、「統一感がない」と指摘される。これを防ぐには、最後に305個を一覧で並べて、自分の目で確認するしかない。
絵文字とスタンプ——ビジネス視点での比較
PMの視点で、両者を冷徹に比較する。制作難度(AI活用時)は、スタンプが中、絵文字が高(統一感の維持)である。市場の競合は、スタンプが激戦、絵文字が相対的に少ない。使用頻度は、スタンプが気分で使う、絵文字が毎日の文字入力である。検索での見つけやすさは、スタンプが埋もれやすい、絵文字がデコ文字需要で拾われやすい。参入障壁は、スタンプが低い、絵文字が高い(枚数の重さ)。費用対効果は、スタンプが低い、絵文字が高い。
正直、スタンプに手を出す前に、絵文字をやるべきだった。
20年のPMが、絵文字作成で再確認した原則
この305個プロジェクトで、改めて確信した原則がある。
第一に、「戦う市場を選ぶ」ことが、努力量より10倍重要であることである。スタンプで40個作る努力と、絵文字で305個作る努力、後者の方が量は多い。しかし、市場が空いているから、成果につながりやすい。これは、ITコンサルのキャリアでも全く同じである。「流行の領域で平均」より、「空いている領域で特化」の方が、生き残る。
第二に、「AIを使える個人」は、量が武器になることである。人間が手描きで305個作るのは、事実上不可能に近い。しかしAIを使えば、設計さえ固めれば、量産できる。この非対称性が、個人クリエイターの最後の勝ち筋だと、305個作り終えて確信した。
第三に、「統一感」は、設計段階で9割決まることである。305個作ってから統一感を出そうとすると、地獄である。最初のプロンプトで型を固めた瞬間に、結果の8割は決まっている。これは、プロジェクトの要件定義と全く同じ構造である。
有料版のご案内
本記事で実装したAI活用ノウハウは、PMとしての設計思想と運用技術の合算で成立している。本記事のような個別実装ノウハウの背後にある「PMが20年で積み上げた技術の全体像」を体系化した有料記事を公開している。炎上対応、ステークホルダー管理、AI活用、リモート、育成、業界別の実務技術を全8章で網羅した完全インデックス版である。LINE絵文字305個プロジェクトのような個人実装案件にも、企業案件にも応用可能な技術の全目次として、合わせて読むことを推奨する。
有料版「20年PMが全技術を詰め込んだ実務完全インデックス」(価格1,980円)
配布ファイルの話
リリース用ZIPファイルは、以下の構成で作成する。
salaryman_emoji_release.zip
├── main.png
├── tab.png
├── 001.png 〜 305.png
└── README.txt(申請時のメモ)
Manusで一括生成した後、透過処理、リサイズ、命名、ZIP化を全部一気にやらせる運用が最速である。
エピローグ
前回のスタンプ記事は、「AIで作って売るまで」の全記録だった。今回の絵文字記事は、市場選びで全部変わるという話である。
AIを使える、305個の重さを設計で乗り越える、供給が薄い市場を選ぶ、この三つが揃ったとき、個人クリエイターでも、スタンプ激戦区を避けて、じわじわ売れる商品を作れる。絵が描けなくても、AIがいる。手が速くなくても、設計で補える。市場が飽和していても、ずらす先はある。
本記事で展開した「AI×ニッチ市場×個人クリエイター」の実装ノウハウは、現在整備中の書籍化構想「shiracoの20年PM実践録」の派生章として、AI実装記事群の中核に位置づけている。LINEスタンプ編、LINE絵文字編に続き、AI作曲、AI議事録自動化、Gemini×NotebookLM活用など、AIを使える個人がニッチ市場でどう戦うかという主題で章立てを進めている。続編記事および書籍化進捗は本アカウントで随時発信している。
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LINEスタンプを実際に作った全記録
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