見出し画像

🌸経営未来手帳・第213号「未来ビジョンとPDCA」―トヨタ・松下も実践した、未来から逆算する経営思考

🌸経営未来手帳・第213号「未来ビジョンとPDCA」―トヨタ・松下も実践した、未来から逆算する経営思考


(執筆:安村明史/ビジネス能力開発株式会社)
今日は土曜日なので「未来へつながる物語」をお届けします。
今回は、トヨタと松下幸之助の事例から、実現したい未来を先に描き、現在の行動を決める経営思考を読み解きます。


■はじめに

経営者は、売上、利益、人材不足、取引先からの要請など、目の前の問題に追われています。
しかし、現在の問題だけを見ていると、経営は「今日を乗り切ること」に終始します。
「どのような未来を実現したいのか」
その未来を先に決め、現在に戻って必要な行動を考える。これがバックキャスティングです。
未来は、現在の延長線上に自然に現れるものではありません。経営者が先に方向を定めることで、今日、何を変えるべきかが見えてきます。


■未来を先に描くトヨタの経営

トヨタは、2050年の理想社会を起点に、水素技術やカーボンニュートラルに向けた開発を進めています。
今日できることを積み上げるだけではなく、実現したい社会から逆算して、
「どの技術を育てるのか」
「どの事業に投資するのか」
「どのような人材が必要なのか」
を考えています。
未来を描いてから動く。これがバックキャスティングの基本です。


■未来を起点に動く「F-PDCA」

私は、この考え方を経営者向けに「F-PDCA」として整理しています。
F:成功した未来を定義する
P:実現に必要な計画を立てる
D:今日の行動に移す
C:未来と現状のズレを確認する
A:行動を修正し、再び動く
通常のPDCAとの違いは、最初に未来を意味する「F」を置くことです。
未来が曖昧なままPDCAを回しても、目の前の業務改善に終わります。
「会社を、どのような姿にしたいのか」
「社員や顧客に、どのような未来を届けたいのか」
成功した未来を具体的に言葉にすることで、現在の行動に方向が生まれます。


■松下電器に突きつけられた「20%値下げ」

昭和36年、松下通信工業はトヨタ自動車から、
「半年で合計20%、価格を下げてほしい」
という厳しい要請を受けました。
当時、カーラジオ事業の利益は、わずか3%程度。幹部たちは「到底、無理だ」と頭を抱えます。
その場を訪れた松下幸之助は、トヨタの要請を単なる値引き要求とは捉えませんでした。
トヨタも、日本の自動車産業を守り、世界と競争するために必死で努力している。
その事情を踏まえ、幸之助は言いました。
「まず、できないという考えを捨てなさい」
性能を落とさず、価格を下げ、なお利益が出る製品をつくるよう求めたのです。


■部分改善ではなく、ゼロから設計する

20%の値下げは、部品を少し安く仕入れる程度では実現できません。
技術者たちは、
・部品点数の見直し
・製品設計の抜本的な変更
・工程の再設計
・生産ラインの刷新
に取り組みました。
その結果、約1年後には20%の値下げに応じながら、適正な利益を確保できる新型カーラジオを開発したとされています。
「今のやり方を、どう改善するか」ではなく、
「実現したい結果のために、何をゼロから設計し直すか」
と考えたことが、不可能に見えた課題を突破させました。


■「できない」で思考を止めない

松下幸之助の言葉は、現場に無理を押しつける精神論ではありません。
「できない」と決めた瞬間に、思考は止まります。
一方で、
「どうすればできるのか」
「何を変えれば可能になるのか」
「前提そのものを見直せないか」
と問い直すことで、新しい知恵が生まれます。
経営者の役割は、答えを押しつけることではありません。
実現したい未来を示し、古い前提を外し、現場が考えられる条件をつくることです。


■相手の立場に立つ「共存共栄」

この事例には、松下幸之助の「共存共栄」の思想も表れています。
20%の値下げを、自社の利益を奪う要求とだけ捉えるのではなく、その背景にあるトヨタの事情を理解しようとしました。
未来ビジョンとは、自社だけが勝つ未来ではありません。
顧客、取引先、社員、地域社会とともに発展する未来を描くことです。
相手の立場を理解したからこそ、値下げを「損失」ではなく、新しい製品と工程を生み出す課題として捉え直すことができました。


■編集後記

経営をしていると、できない理由はいくらでも見つかります。
お金がない。人がいない。時間がない。経験がない。
しかし、松下幸之助の事例が示しているのは、制約を無視することではありません。
実現したい未来を先に決めることで、制約の見え方を変えることです。
「20%の値下げは不可能」と考えれば、そこで思考は止まります。
「性能を落とさず、利益を残して20%値下げする」と未来を決めれば、製品設計や工程そのものを見直す必要が見えてきます。
未来を決める。
現在の前提を疑う。
相手の立場を理解する。
ゼロから設計し直す。
一度、現在の制約を横に置き、
「すでに実現したとすれば、私たちは何を変えたのだろう」
と考えてみる。
未来から現在を見ることで、これまで見えなかった一手が浮かんでくることがあります。


■今日の問いかけ

あなたの会社が3年後、理想の姿を実現しているとすれば、何が変わっていますか。
その未来から見たとき、今日、見直すべき前提は何でしょうか。


■ネコのつぶやき

「できない理由より、できた後のご褒美を考えた方が、ネコは動くにゃ」


第5弾🌸「初めての方へ|目的別に読む3選」

https://note.com/quiet_gnu5848/n/ned3665205314


🌸経営未来手帳の編集長が選んだ40選はこちら

―経営者が未来を読むための“構造地図”
https://note.com/quiet_gnu5848/n/n3596a857d755


■感想をぜひお寄せください

yasumura@biz-noukai.com まで。
いただいた感想には、必ずお返事いたします。


■次回8月9日予告

「記憶の本質は“思い出す力”である」
―田中角栄が示した検索脳の凄みと、私たちが鍛える方法」


■安村 明史

経営未来手帳
組織・経営の相談役:静かに伴走する役割
「疲れた経営者が、少し言葉を預けられる場所として。」
#経営者の深夜食堂

■付録


     

いいなと思ったら応援しよう!