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第3話 会社員収入だけを信じられなくなった日

会社員収入は、強い。

毎月、給料が入る。
社会保険がある。
税金も天引きされる。
生活の予定を立てやすい。

だから、会社員収入を軽く見るつもりはない。

むしろ、会社員収入があったから、現金を貯められた。
生活費を払えた。
家賃を払えた。
積立もできた。
区分マンションを買う前の土台も作れた。

ただ、ある時から、会社員収入だけを信じることが怖くなった。

収入が、自分だけで決まらないからだった。

給料日は決まっている

給料日は決まっている。

毎月、同じように振り込まれる。
口座に数字が増える。
家賃が引かれる。
カード代が引かれる。
積立が引かれる。
残った現金を見る。

その流れは、かなり安定している。

生活は、安定しているように見える。

ただ、給料日に入ってくるお金は、自分の意思だけで決まっているわけではない。

評価がある。
異動がある。
賞与がある。
昇給がある。
人事がある。
上司が変わる。
部署が変わる。
会社の方針が変わる。

生活費は自分の口座から出ていく。

でも、その口座に入ってくるお金は、自分だけでは決められない。

そこに、違和感が残った。

評価は、生活費に直結する

評価は、紙の上の言葉ではない。

評価が変わると、賞与が変わる。
昇給が変わる。
次の異動が変わる。
任される仕事が変わる。
見られ方が変わる。

そして、生活費への見方も変わる。

毎月の固定費は、評価を待ってくれない。

家賃は出ていく。
通信費は出ていく。
保険料は出ていく。
医療費も出る。
交通費も出る。
食費も出る。

会社で何が起きても、生活は止まらない。

だから、評価が気になるのは、承認欲求だけではない。

生活があるから気になる。

賞与が減ったら、年末の現金が変わる。
昇給が止まったら、積立の余力が変わる。
異動で生活リズムが変われば、支出も変わる。

評価は、生活費に直結する。

そのことを、数字で見るようになった。

自分で決められないものに、生活を預けすぎていた

会社員収入だけを信じていた時期は、毎月の給料を前提に生活を組んでいた。

給料が入る。
そこから使う。
残ったら貯める。
余ったら投資する。

順番は、単純だった。

ただ、その順番だと、会社側の変化に弱い。

賞与が少ない。
昇給が小さい。
部署が変わる。
通勤が変わる。
役割が変わる。
残業が変わる。
手当が変わる。

1つずつは小さい。

でも、毎月の現金収支に入れると、生活の余白が削れる。

生活費は、性格の問題ではない。
気合いの問題でもない。
収入、固定費、手元現金の組み合わせで決まる。

その組み合わせのうち、収入の大部分を会社に寄せすぎていた。

そう見えた日があった。

会社を疑ったのではなく、構造を見た

会社が悪い、という話ではない。

会社員として働くことで、得ているものは多い。

毎月の給与。
社会保険。
信用。
職歴。
経験。
人との接点。
生活のリズム。

それらは大きい。

ただ、会社員収入は、完全に自分のものではない。

仕事をしているのは自分でも、評価するのは自分ではない。
生活費を払うのは自分でも、賞与を決めるのは自分ではない。
将来の支出を考えるのは自分でも、異動を決めるのは自分ではない。

このずれがある。

そのずれを見ないまま、生活を大きくすると危ない。

家賃を上げる。
固定費を増やす。
車を持つ。
保険を増やす。
毎月の支払いを増やす。
将来の予定を先に入れる。

会社員収入が続く前提なら、できることは増える。

ただ、その前提が少し揺れるだけで、生活の見え方が変わる。

会社を疑ったのではない。

構造を見た。

手元現金を見るようになった

そこから、手元現金を見るようになった。

いくら稼いだか。
いくら使ったか。
いくら残ったか。
何かあった時に、何か月止まらずに暮らせるか。

この順番で見るようになった。

年収ではなく、残る現金を見る。
月収ではなく、毎月の現金収支を見る。
気分ではなく、固定費を見る。
安心感ではなく、口座残高を見る。

生活防衛資金という言葉を知ったのも、この頃だった。

生活防衛資金は、生活が止まらないための手元現金。

会社員収入があるうちは、見落としやすい。
毎月入金があるから、危機感が薄くなる。

でも、収入が自分だけで決まらないなら、手元現金は自分で厚くする必要がある。

そう考えるようになった。

副収入は、派手な夢ではなかった

副収入という言葉には、少し派手な響きがある。

自由。
独立。
脱会社員。
好きなことで生きる。

そういう言葉とは、距離があった。

自分にとっての副収入は、もっと地味だった。

毎月の固定費を少し軽くするもの。
賞与に依存しすぎないためのもの。
評価が揺れた時に、生活をすぐ崩さないためのもの。
会社員収入を否定せず、生活の足場を増やすもの。

大きく稼ぎたいというより、1本しかない柱を増やしたかった。

給与。
配当。
家賃。
不動産の手残り。
記事。
テンプレ。
少額でも、別の入り口。

その発想に変わった。

収入源を増やす前に、固定費を見た

ただ、収入源を増やす前に、固定費を見た。

固定費が重いまま副収入を作っても、生活は楽にならない。

家賃。
通信費。
保険。
サブスク。
医療費。
交通費。
交際費。
食費。
税金。
積立。

毎月出ていくものを見た。

削れるもの。
削らないもの。
後回しにするもの。
残すもの。

そこを分けた。

会社員収入だけを信じられなくなった日は、会社員をやめたいと思った日ではない。

生活を会社員収入だけで組むのをやめようと思った日だった。

信じないことと、捨てることは違う

会社員収入を信じない。

そう書くと、強く聞こえる。

でも、捨てるという意味ではない。

会社員収入は使う。
信用も使う。
経験も使う。
毎月の給与も使う。
社会保険も使う。
職歴も使う。

ただ、それだけに生活を預けない。

信じないことと、捨てることは違う。

会社員収入を使いながら、生活防衛資金を持つ。
固定費を見直す。
月次CF、つまり毎月の現金収支を見る。
小さな副収入を作る。
資産を持つ。
記録する。

その方が、静かに続けやすい。

この日から、資産形成は生活設計になった

資産形成という言葉を、最初は増やす話だと思っていた。

投資する。
利回りを見る。
家賃を受け取る。
価格を見る。
残高を増やす。

それも資産形成の一部だと思う。

ただ、それだけではなかった。

資産形成は、生活設計でもあった。

毎月いくら使うか。
何を固定費にするか。
どれくらい手元現金を残すか。
会社員収入が揺れた時に、どこまで生活が止まらないか。
誰の評価に、どこまで生活を預けるか。

そこを見ることだった。

会社員収入だけを信じられなくなった日。

その日は、派手な日ではなかった。

口座を見た。
給与明細を見た。
固定費を見た。
評価を見た。
生活を見た。

そして、思った。

収入を増やす前に、生活の足場を増やす。

記録。

この連載の前後話は、創作大賞2026マガジンにまとめている。
このnote全体で記録していることは、プロフィールにまとめている。

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