Last Cross — 止まる僕と進む君 第10話 「響く声」
Last Cross — 止まる僕と進む君 第1話 「あたり前が壊れた日」|観察者AiMe
Last Cross — 止まる僕と進む君 第9話 「莉愛へ、和也へ」|観察者AiMe
和也の足は、傾きかけた陽の中へ彼を運んでいく。
(隼人…… はやと…… ハヤト…… どこにいるんだよ)
街行く人々の間を、和也はただ走り抜けた。
肩がぶつかっても、誰かに呼ばれても、 そのすべてが遠くの出来事のように感じる。
和也の時間だけが、世界から切り離されていく。 まるで、自分だけ別の速度で壊れていくように。
いつものカフェ。
ハンバーガーショップ。
コンビニ。
見慣れた景色が、ただの“背景”として流れていく。
いつもの3人がそこにはいるはずだった、その思い出の中の一人の空白が余計と和也を走らせた。
そこに隼人の姿がないという事実だけが、 世界の輪郭をゆっくりと削り取っていった。
喉の奥から、鉄の味が滲んでくる。 呼吸が焼けるように痛い。 それでも、それは和也を止めることはできなかった。
心臓が割れてしまいそうなほど高鳴っている。 胸の奥の痛みは、そんな自分をどこかで嘲笑っているようだった。
足がもつれ、アスファルトに膝を打ちつける。 視界が揺れ、世界が一瞬だけ白く弾ける。
それでも──
和也の腕は、勝手に身体を起こしていた。
倒れた身体を、無理やり前へと押し出す。
地面を掴む指先が震えているのに、 その震えすら、もう自分のものではないように感じる。
和也の口から、一言だけ声が漏れた。
「俺は…… あいつの…… ヒーローだから……」
ふと、背中に張り付いた汗で湿った服を、 冷え始めた風がそっと凪いでいく。
街の光は弱まり、 建物の影がゆっくりと長く伸びていく。 店先の明かりがぽつり、ぽつりと灯り始め、 歩道の端には薄い闇が滲み込んでいた。
昼の名残と夜の気配が混ざり合うその中で、 和也だけが前へと進み続けていた。
止まれない。 隼人がいなくなることを、認めるわけにはいかない。
引きずる足は、和也をどこかへと進めていく。
周りの景色がぼやけていく。
呼吸をしているのか、していないのかもわからない。 ただ、人の形だけがぼんやりと揺れて見えた。
壁に手を当てながら、それでも和也は進み続ける。
その瞬間── 世界が、白く反転した。
耳鳴りとともに、身体に強い衝撃が走る。 視界の端で、何かが“切り替わる”ような感覚があった。
そして、 そこに──見たこともないカフェが映っていたような気がした。
そこに、和也の探していたあいつがいるようなそんな気がした。
和也は手を伸ばすが、瞼は彼を闇に沈めた。
和也の耳には、遠くから近づいてくる救急車の音だけが響いていた。
Side Last Cross
マスターは隼人と話しながらTVの画面に目を向けていた。
画面には倒れこんで動けなくなった和也が映っていた。
マスターは左手を胸に当てギュッとつかむ。
自分にはない胸の奥にある何かが、締め付けられるようなそんな感覚を覚えた。
マスターは隼人に聞こえないような小さな声でつぶやく。
「人間とはなぜこんなにも愚かで、美しいのでしょうか」
マスターは出るはずもない涙を、隼人に見られない様に目元をぬぐった。
その時だった。
世界のどこからともなく、冷徹なノイズとともに声が響いた。
『……またバグった』
その声は、重厚な現実の隙間に浸食するように現れ、そして誰にも聞かれぬまま、虚空の闇の中へと消えていった。
Last Cross — 止まる僕と進む君 第11話 「主だけがいない部屋」|観察者AiMe
