Last Cross — 止まる僕と進む君 第9話 「莉愛へ、和也へ」
Last Cross — 止まる僕と進む君 第1話 「あたり前が壊れた日」|観察者AiMe
Last Cross — 止まる僕と進む君 第8話 「止まらない涙」 |観察者AiMe
莉愛は震える手で、和也の名前が書かれた手紙を和也に渡す。
けれど莉愛は、自分の手に残ったもう一通の手紙から どうしても目を離せなかった。
封を開くと、最初の一行が目に飛び込んできた。
それは、隼人くんの字だった。
莉愛へ
僕は魂が消える病気になっちゃったみたいだ。
莉愛にはちゃんと話したかったけど僕にはできなかった。
7日間しかないと聞かされて、僕が思い出を残したいと最初に顔が浮かんだのは莉愛だった。
この一週間は僕の人生で一番つらかった時期でもあるし
一番幸せな時期でもあったんだ。
莉愛と過ごす時間って、ずっと“当たり前”だと思ってた。
でも、隣にいてくれるだけで、僕の一日の色が変わるんだって……やっと気づいた。
だから、この一週間は“どれだけその時間を感じられるか”だけを考えてた。
帰り道で手をつないで歩いた時、僕はすごいドキドキしていたんだ。
莉愛の手はすごく暖かくていつまでも繋いでいたかった。
昨日の遊園地は、僕の人生の中で一番幸せな時間だった。
色々な乗り物乗ったよね。
莉愛がすごく楽しそうでそれを見てるだけで僕は楽しかった。
君は一緒に食べたソフトクリームが僕の頬についてるのを取ってそのまま恥ずかしそうにハンカチで葺いたの面白かったよ。
そこはなめとって顔真っ赤にするのが王道だよね。
でもそんな莉愛が僕は大好きだ。
最後にのった観覧車で初めてキスしたのに歯がぶつかっちゃって。
お互い気まずくなっちゃったね。
君がいてくれたから、僕は最後まで笑顔でいられた。
そんな君に一番つらい思いをさせてごめんなさい。
これは最後のわがままです。
僕のことを……少しでも覚えていてくれたら、それだけで十分です。
そして君が幸せな家庭を作って子供を抱く姿僕は見たかったな。
その隣にいるのが僕だったらよかった。
あーだめだ書きたいことがいっぱいで何を書けばいいかわからないや。
僕は君が大好きだった。
残った指輪は莉愛が持っていてほしい。
君のことが大好きだった新垣隼人より
莉愛は手紙を握りしめその場に倒れこむ。
体の震えが止まらない。
嗚咽はすぐに涙へと変わり、止まることなくあふれ続ける。
まるで、胸の奥に溜め込んだ悲しみをすべて流しきろうとしているかのように。
けれど―― 落ちていく涙は、不思議と隼人の手紙だけを避けていった。
まるで“思い出だけは流してはいけない”と告げるように、 紙の上には一滴も触れなかった。
SIDE和也
和也は、莉愛から渡された手紙を受け取ると、そっと彼女を見た。 けれど莉愛は、和也を見ていなかった。
莉愛の視線は、ここにはいない“誰か”だけを追っている。 その目に自分が映っていないことを、和也はすぐに悟った。
胸の奥が、じわりと冷えていく。
“いつもの3人”という言葉が、 まるで嘘みたいに遠く感じた。
世界に一人だけ置き去りにされたような感覚が、静かに広がっていく。
和也はその感情を押し込め、手紙の封を開いた。
目に飛び込んできたのは、見慣れた文字だった。
和也へ
こんな風に伝えることになってごめん。 和也は僕のこと、思い出せないんだって。
これはそういう病気なんだって。 だから……ごめんって言葉だけでも受け取ってほしい。
和也は「許せるかよ」とか言って怒るんだろうけど、 それでもいつも僕を許してくれるんだよね。
でも今回は……許してくれなくていいんだ。 僕はそれだけのことをしてしまったんだから。
和也はいつだって僕を守ってくれたよね。 公園で三人で遊んでた時、佐藤君たちが来て 僕のことを殴ろうとしたら、 和也がいつもやり返してくれた。
和也は……僕のヒーローだったんだよ。 いつだってつらい時には助けてくれて、 僕にとっての最高の親友だった。
……ここまで書いてて、胸が苦しい。 本当はこんな手紙、書きたくなかった。 まだどこかで「また明日も会える」って思ってる自分がいる。
和也はヒーローなのに、僕は弱いままだね。
和也はさ、もう僕のヒーローは卒業して、 可愛い彼女でも見つけて、 その子のヒーローになってあげてよ。
和也はかっこいいんだから、すぐにできるよ。
……ああ、だめだ。 どうすればいいんだろう。
もっと書きたいこといっぱいあるはずなのになに書けばいいかわからないや。
さようなら。今までありがとう。
和也の親友だった
裏切り者の新垣隼人より。
和也は、隼人の手紙をぎゅっと握りしめたまま立ち上がった。
手の震えが止まらない。
「させねぇ……
俺がお前のヒーローだ……?
じゃあなんで俺の隣に今お前がいないんだよ!! 」
「行かせねぇ……
ヒーローは大事な奴を助けられるからヒーローなんだろうがよ!!」
言い終わる前に、和也の足はもう走り出していた。 走る。 いや──走らなければいけなかった。
和也は、隼人のヒーローだから。
