知るメモ|【酸素】|地球の酸素の70%は海が作っている? ~小さなプランクトンが地球全体の生命維持システムに関わる問題!
今、私たちが吸っている空気に含まれる酸素はどこで作られたと思いますか?
多くの人が「森」や「植物」を思い浮かべるはず。
学校でも、植物が光合成で酸素を作ると習いましたし、環境問題ではアマゾンの熱帯雨林が地球の肺という表現をよく耳にします。
でも実は、地球の酸素のうち、およそ50〜70%は海の中で作られています。
しかも、その主役は顕微鏡でなければ見えないほど微小な生物「植物プランクトン」です。
1ミリの千分の一ほどの小さな生き物が、地球規模の生命維持システムを担っています。
今回は、海と酸素と地球の未来について、じっくりと考えてみましょう。
第1章:酸素と光合成の基本「知ってるつもり」を一度リセットしよう
空気の中身って、何?
私たちが毎日吸っている空気は、窒素(約78%)と酸素(約21%)が主な成分で、残りはアルゴンや二酸化炭素などです。
地球が誕生した約46億年前、大気中にはほとんど酸素が存在しませんでした。
その時の主成分は水蒸気・二酸化炭素・窒素で、今の大気とはまったくの別物。
現在の大気中に酸素が豊富に存在する理由は、ひとえに「光合成をする生物が誕生したから」です。
光合成とは、太陽のエネルギーを使って、二酸化炭素と水から有機物(糖)と酸素を作り出す化学反応です。
式で書くと:
6CO₂ + 6H₂O + 光エネルギー → C₆H₁₂O₆(糖)+ 6O₂
光合成をする生物が光を浴びて成長し、その副産物として酸素を空気中に放出する。
これが基本の仕組みです。
「光合成をする生物」は植物だけではない
ここで案外忘れているポイントがあります。
「光合成をするのは草や木だけ」ではないという事です。
海の中でも、陸上植物と同じように光合成をおこなう生き物がいます。
それが植物プランクトン(フィトプランクトン)です。
プランクトンというと「クラゲのような生き物」をイメージするかもしれませんが、それは動物プランクトンです。
植物プランクトンは藻類の仲間で、ケイ藻(珪藻)・渦鞭毛藻・シアノバクテリア(藍藻)などさまざまな種類があります。
いずれも単細胞または数細胞からなる微生物で、自力でほとんど泳ぐことができず、海流に漂いながら、太陽光の届く海面近くで光合成をしながら生きています。
大きさは種類によって異なりますが、多くは直径1〜数百マイクロメートル(1マイクロメートル=1ミリの千分の一)という極小サイズですので、裸眼ではまず見えません。
その小さな体が、地球の酸素の半分以上を作り出しているのです。
第2章:酸素の知っておきたい「収支」の話
数字で見る、海と陸の一次生産力
生態学では、植物が光合成で有機物を作り出す能力を「一次生産」と呼びます。
地球全体で、どの程度の一次生産がおこなわれているかを見ると、驚くべき数字が浮かび上がります。
海の植物プランクトンの年間純一次生産量は、炭素換算でおよそ500億トン。
これは陸上植物全体の一次生産量とほぼ同等です(環境省「海洋生物多様性保全戦略」より)。
つまり、地球の一次生産は「陸と海でほぼ半々」。
陸地が地球表面の約30%を占めるのに対して、海は約70%を占めますからもっと割合が多くても良い気もしますが、海はそのすべてで光合成できるわけではありません。
深海は光が届かないため、植物プランクトンが活動できるのは太陽光の届く「有光層」おおよそ水深200メートルまでの表層のみだからです。
その有光層で、植物プランクトンたちは黙々とそして猛烈な速さで光合成を続けています。
地球の酸素の50〜70%が海由来?
タイトルにも入れたこの内容、なぜ数値に幅があるかというと、これは地球全体の酸素放出量を正確に測定することが非常に難しいためです。
海は広大で、海域によって植物プランクトンの量も光合成の活発さも大きく異なります。
また、プランクトン自身も呼吸をして酸素を消費するため、「生産量」と「正味の放出量」は異なります。
さらに、海水中の酸素は海面を通して大気にも供給されますが、その割合の計測も複雑です。さまざまな研究や計測手法によって推計値に違いが出るため、「50〜70%」という幅が生まれるのです。
ただし、どの研究でも「海の貢献が陸上植物を上回る、または同等以上」という点では一致しています。
「アマゾンは地球の肺」は正確ではない?
アマゾンは地球全体の熱帯林のほぼ半分を占めていて、二酸化炭素を吸い込む量が多いことから「地球の肺」という表現は有名ですが、実はこれは科学的にやや正確さを欠く表現です。
熱帯雨林のような森林は、確かに大量の酸素を生産しています。
しかし同時に、木や草・土壌中の生物の呼吸や有機物の分解によって、ほぼ同量の酸素を消費してもいます。
極端にいえば、成熟した森林は「酸素の生産者」でもあり「酸素の消費者」でもあるため、大気中の酸素濃度への正味の貢献は限定的とも言えます。
実は、海で作られた酸素もほとんどは海の中に住む生き物(魚や微生物)の呼吸や、有機物の分解によってその場で消費されてしまいます。
植物プランクトン自体も死んで海底に沈み、分解される過程で酸素が使われます。
私たちが今吸っている大気中の酸素は、数億年という長い地球の歴史の中で、光合成による「生産」が「消費」をわずかに上回り続け蓄積されてきた、実は遺産のようなものなのです。
第3章:植物プランクトンの知られざるパワー
地球の歴史を変えた先駆者たち
植物プランクトンの一種である「シアノバクテリア(藍藻)」は、地球史上最大の「酸素革命」を起こした生物です。
今から約27億〜24億年前、当時の海で爆発的に増殖したシアノバクテリアが大量の酸素を大気中に放出しました。
「大酸化イベント」と呼ばれるこの出来事により、無酸素だった地球大気に酸素が蓄積し始め、後の生物進化の土台が作られました。
現在も地球上で最も光合成活性が高い生物群のひとつがシアノバクテリアです。
海洋表層に「プロクロロコッカス」という超微小なシアノバクテリアが無数に漂っており、熱帯・亜熱帯の海域での酸素生産に大きく貢献しています。
ちなみに、このシアノバクテリアなどの植物プランクトンの死骸が深海で分解されず何千万年も堆積し、その有機物が地熱による熱分解を経て作られたものが原油です。
この古代から続く生命が、今の私たちの生活を支えているのです。
数の暴力――地球規模の「小さな工場」
植物プランクトンが膨大な酸素を生産できる理由は、その数と増殖速度にあります。
1リットルの海水に含まれる植物プランクトンの数は、海域や季節によって異なりますが、数十万から数百万個体に達することがあります。
地球全体の海を考えるとその数は天文学的な規模になります。
さらに、植物プランクトンは条件が整えば数日で個体数を倍増させる「爆発的増殖(ブルーム)」が可能です。
春先の北太平洋や北大西洋では、栄養塩と光が揃う時期にブルームが起き、激増した植物プランクトンのよって海の色が緑がかって見えることがあります。
これははるか上空の人工衛星からも確認できるほどの現象です。
「生物ポンプ」酸素だけでなく炭素もコントロールする
植物プランクトンが注目されるのは酸素生産だけではありません。
地球温暖化の鍵を握る「炭素循環」にも深く関わっています。
植物プランクトンは光合成で二酸化炭素を取り込み、有機物に変換します。
海洋の植物プランクトンが光合成を通じて取り込む二酸化炭素の量は、炭素換算で年間450億〜500億トンにも達します
これは陸上植物全体の吸収量にほぼ匹敵する規模です。
その有機物が動物プランクトンに食べられ、そのまた死骸や糞が深海へと沈んでいきます。
これを「生物ポンプ」と呼び、深海に沈んだ炭素は、数百〜数千年にわたって海底に封じ込められます。
生物ポンプが正常に機能しているからこそ、大気中の二酸化炭素濃度が一定に保たれ、地球の気候が安定しています。
植物プランクトンは、酸素工場であると同時に、地球規模の「炭素貯蔵システム」の根幹を担っているのです。
第4章:今、海の生命維持システムに危機が迫っている
温暖化が脅かすプランクトンの生息環境
現在の地球温暖化は、植物プランクトンの生態系を着実に脅かしています。
植物プランクトンの光合成に必要なものは、太陽光と栄養塩(窒素・リン・鉄などのミネラル)です。
海の表層には太陽光が届きますが、栄養塩は深い層から湧き上がってくることで補給されます。
この「深層水の湧昇」が、植物プランクトンの生産力を左右するのですが、地球温暖化によって海水温が上昇すると、表層と深層の温度差が大きくなり、水の混合が妨げられます。
その結果、深層から栄養塩が供給されにくくなり、植物プランクトンが育ちにくい環境になっているのです。
また、温暖化が進むと植物プランクトンの分布域が極域方向に移動し、現在の中・低緯度海域では植物プランクトンが減少する可能性が複数の研究で指摘されています。
海の酸性化という別の脅威
温暖化と並んで深刻なのが、海洋酸性化です。
大気中の二酸化炭素が増えるにつれて、海はその一部を吸収します。
海に溶け込んだ二酸化炭素は炭酸となり、海水のpHを低下させます。
産業革命前と比べて、現在の海のpHはすでに約0.1低下しており、このまま排出が続けば今世紀末にはさらに0.3〜0.4低下すると予測されています。
酸性化が進むと何が起きるか?
植物プランクトンの一種である渦鞭毛藻などの遊泳スピードが低下し、光合成に必要な海面近くへの浮上が難しくなることが実験で明らかになっています。
また、炭酸カルシウムの殻をもつプランクトン(円石藻など)は、酸性化が進むほど殻を形成しにくくなりその数の減少が進むなど、生態系全体に連鎖影響を及ぼす可能性も高いです。
マイクロプラスチック問題
さらに見逃せないのが、マイクロプラスチックの問題です。
現在の海には、プラスチックが細かく砕けた直径5ミリ以下のマイクロプラスチックが大量に漂流しています。
植物プランクトンはこのマイクロプラスチックを誤食したり、表面に付着されて光合成の効率が低下したりすることが報告されています。
動物プランクトンがマイクロプラスチックを大量に摂取すると、それが海洋全体の酸素消費に悪影響を与えるという研究結果も出ており、プラスチック問題は「海の酸素生産と消費」という点でも深刻に受け止める必要があります。
環境問題を「自分ごと」として考えるために
「温暖化を止めなければ」「プラスチックを減らさなければ」それは大切なことです。
でももう少し深いところで考えてみましょう。
私たちが環境問題として語るとき、普通は「目に見えるもの」を中心に話が進みます。
伐採などで消える森林、流出する石油、ゴミだらけの海岸。
しかし地球の酸素の半分以上を作っているのは、ここまで書いてきたように肉眼では絶対に見えない微生物です。
見えないから大丈夫ではなく、「見えないから気づきにくい」というのが、この問題の本質的な難しさです。
エネルギー消費を見直し、車より公共交通、肉より植物性食品を選ぶ、といった行動が積み重なれば、大気中のCO₂濃度の上昇を抑え、海の化学的環境を守ることにつながります。
プラスチックボトルや使い捨て容器を避け、繰り返し使えるものを選ぶ行動が、海洋への流出を減らします。
海洋保護区の設置や持続可能な漁業への支持、海洋汚染を規制する政策への関心を持つことも、地球の生命維持システムを守る行動のひとつです。
おわりに
地球の生命維持システムは、目に見える壮大な自然だけで成り立っているわけではない。
その土台には、顕微鏡でようやく見えるかどうかという、無数の小さな生命の営みがある。
植物プランクトンは、誰に感謝されるわけでもなく、毎日光を浴びて、二酸化炭素を吸い込んで、酸素を吐き出し続けています。
約27億年前から今も変わらず。
そう思うと、深呼吸がちょっと違って感じられませんか?
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次回は「Aer」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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