【電線御三家】|次の半導体株か?~AIとEVで変わる勝者構造(フジクラ・古川電工・住友電工)
SNSに流れてきた「フジクラがストップ安」という内容。
決算が悪いのかと思って見ると十分な黒字で特別悪いわけでもない。
でも、投資家はそれでは納得しなかったようです。
「フジクラ」は「電線メーカー」です
電線メーカーと聞いて、どんなイメージを持つでしょうか?
地味、成熟産業、オワコン・・・そう思う人も多いと思います。
でも、この2年ほどの株価チャートを見ると印象が変わると思います。

フジクラの株価は2024年頃までは1株300円を下回る程度でしたが、2024年後半から値上がり始めます。
2025年に入って1,500円を超えたあたりから急騰し3000円を突破。
一時下げるものの、2026年に入ると再度上がりだして、5月14日に7,933円の高値を付けました。
電線御三家と言われるうちの一社、「古河電工」も25年半ぶりの株価最高値を更新。
「住友電工」も売上高4兆6,797億円、営業利益3,206億円と過去最高業績を叩き出した。
何が起きているのか?
答えは、「AI」と「EV」という2つのメガトレンドが、「電線」という100年以上の産業を根底から揺さぶっているのです。
今回は、フジクラ・古河電工・住友電工の電線御三家それぞれの歴史と強み、そして今何が起きているのかを深掘りしてみます。
◆「電線御三家」とは何か
電線御三家とは、日本の電線・ケーブル産業を長年にわたってリードしてきた3社「フジクラ(5803)」「古河電気工業(5801)」「住友電気工業(5802)」です。
電線と一口に言っても、その用途は幅広いです。
電力を送る電力ケーブル、情報を運ぶ光ファイバー、自動車の体内を駆け巡るワイヤーハーネス(電線の束)など、現代社会のあらゆるインフラに電線は使われています。
3社はそれぞれ異なる財閥の流れを汲み、長年にわたって競い合いながら日本の産業を支えてきました。
ところが近年、その「立ち位置」が大きく変わりつつあります。
「AI」と「EV」という世間のトレンドによって株価が明暗を分け、投資家たちの注目も集めているのです。
◆「フジクラ」地味な3番手から世界No.1へ
創業139年、電線業界の異端児
フジクラの歴史は1885年(明治18年)、藤倉善八氏が神田淡路町で「巻線」の製造を始めたことにさかのぼります。
当初は電線各種製品で住友電工・古河電工の後塵を拝し、高度経済成長期においても業界3〜5位に甘んじていた時代が続いた。
積極的な設備投資で市場を拡大した2社に対し、フジクラはある意味守りの姿勢を保っていた。
その後、電力事業を古河電工との合弁会社(ビスキャス)に移管し、自社の経営資源を光ファイバーと光通信に集中させるという大胆な選択をする。
これが後の逆転劇の伏線となった。
1976年、たった3人の研究チームが始めた挑戦
光ファイバー研究が始まったのは1976年のこと。
研究陣容はわずか3名。
当時、光ファイバーは「夢の通信媒体」と期待されながらも、ファイバー同士の接続が極めて難しいという致命的な課題を抱えていた。
フジクラの研究チームはここにビジネスチャンスを見出す。
「接続の問題を解くことが、大きなビジネスになる」
その着想が、のちに世界を席巻する光ファイバー融着接続機の開発へとつながっていくのです。
1977年10月、実用型融着接続機の1号機が完成。
1979年にワシントンで開かれた光シンポジウムに出展すると、展示場の片隅の小さなスペースに黒山の人だかりができた。
世界がその技術力を認めた瞬間だった。
現在、フジクラの光ファイバー融着接続機は世界シェア50%超のNo.1を誇る。
光ファイバー本体でも国内首位。
フレキシブルプリント基板(スマホやデジカメの内部にある薄型の回路基板)でも世界3位。
電線業界の3番手だった企業が、選択と集中によって世界トップクラスのニッチ王者へと変貌を遂げたのだ。
AI需要の直撃——光ファイバーが足りない
ここ数年、フジクラの業績を爆発的に押し上げているのがデータセンター向けの光ファイバー需要です。
生成AIの普及に伴い、世界中でデータセンターの建設ラッシュが起きている。
ChatGPTをはじめとするAIサービスは膨大な計算処理を必要とし、その計算結果を光の速さでやりとりするために、データセンター内には大量の光ファイバーケーブルが張り巡らされます。
しかもフジクラが強みを持つのは、単なる光ファイバーではない。
限られたスペースに4,000〜6,000本もの光ファイバーを詰め込んだ「超高密度光ケーブル(SWR/WTC)」です。
クモの巣状の構造により、従来の板状リボン型より格段に細く、データセンターの狭い空間に効率よく設置できる。
世界の著名企業への納入実績が多数あり、まさに「細さがウリ」の製品がAI時代のデータセンターにぴったりはまった格好です。
フジクラ社長の岡田直樹氏は「光ファイバーや融着機でも業界初・業界最高といった製品がいくつもある。領域を絞り込むことでトップになっている」と語る。
2020年度と比較した場合、2025年度の営業利益は5年で5.8倍という驚異的な成長を遂げている。
さらに米国サウスカロライナ州では1億5,500万ドルを投じた生産能力拡大プロジェクトも進行中です。
◆「古河電工」財閥の名門が「変貌」を遂げるまで
古河財閥の中核、120年以上の歴史
古河電気工業の歴史は1884年(明治17年)、古河市兵衛が足尾銅山の電線製造を始めたことに端を発する。
古河財閥の中核として、住友電工・フジクラと並ぶ電線御三家の一角を担ってきた。
長らく光ファイバーや電力ケーブル、自動車部品などを手がけてきたが、「稼ぐ力」という点では長年、収益性の低さが課題でした。
2024年3月期まで営業利益は横ばいから減少傾向が続き、ROE(自己資本利益率)も低水準で推移していた。
「変革なき老舗」
そんなレッテルを貼られていた古河電工が、ここ数年で劇的な変貌を遂げている。
構造改革と「選択と集中」
古河電工は中期経営計画に基づき、収益性の低い事業の整理と、成長領域への集中を進めてきた。
その成果が数字に表れてきたのが2025年3月期。
営業利益は前期比4倍以上に急増し、ROEも9.96%と大幅に改善。
2025年4月には株価が25年半ぶりの最高値を記録し、市場の注目を一気に集めた。
「冷やす技術」がAI時代の武器になる
古河電工のAI需要への関わり方は、フジクラとは少し角度が違う。
注目すべきはデータセンター向けの冷却技術だ。
AIの進化、とくに大規模なGPU(画像処理半導体)クラスターの稼働は、「発熱」という新たな課題を生み出している。
膨大な演算を行うGPUは猛烈な熱を発するため、効率的な冷却なしにはデータセンターは成立しない。
古河電工が強みを持つ高性能冷却システムは、もはや「部品」ではなくAIデータセンターの性能を左右する基幹技術へとその地位を高めています。
光通信分野でも、次世代規格「Beyond 5G / 6G」の実現に向けた高性能光通信網の需要が長期的な成長を担保する。
また光ファイバー業界の世界市場シェアでは、古河電工は世界3位にランクインしている(1位コーニング、2位ファイバーホーム)。
そのほかハードディスク用アルミ基板やリチウム電池用電材にも強みを持ち、IT・EV双方の恩恵を受けやすい事業ポートフォリオだ。
「変革途上の老舗」から「攻めの成長企業」へと評価が変わりつつある。
◆「住友電工」超巨大企業の「光と影」
1897年創業、日本最大級の総合電線メーカー
住友電気工業は1897年創業。
売上高5兆1,101億円、営業利益4,181億円、純利益3,695億円(2026年3月期)という、電線御三家どころか日本全体を見渡しても屈指の規模を誇る大企業です。
世界約40カ国で事業を展開し、従業員数は連結で30万人超。
光ファイバー、電力ケーブル、そして自動車用ワイヤーハーネスを柱とする巨大な総合電線メーカーです。
ちなみに住友電工には「人工ダイヤモンド製造」という珍しい事業もある。
1982年に1.2カラットの人工ダイヤ製造に成功し、現在も製造を続けているのはあまり知られていない豆知識です。
ワイヤーハーネスとは何か
ワイヤーハーネスとは、自動車の内部を走る電線の束のこと。
エンジン、スピーカー、ライト、センサーなど車内のあらゆる機器を電気でつなぐ、いわば「自動車の神経・血管」です。
現代の自動車1台には数百〜数千本にも及ぶ電線が使われており、それを正確に、かつ高品質に製造・供給する技術は非常に高度な事です。
住友電工のワイヤーハーネス事業は世界トップクラスのシェアを誇り、グループ会社「住友電装」が31カ国・23万人の従業員を率いて生産する。
売上の5割超がこの自動車部品事業で占められており、「電線メーカー」というより「自動車部品メーカー」と表現した方が実態に近いほどでしょう。
EVがもたらすチャンスとリスク
住友電工にとって、EVシフトはシンプルに「チャンス」です。
なぜなら、EVはガソリン車よりも多くのワイヤーハーネスを必要とするから。
ガソリン車のエンジンは燃料の爆発力を使うが、EVはバッテリーからモーターへ大電流を流す。
大電流には太く、複雑なケーブルが必要で、その分だけワイヤーハーネスの量と単価が上がる。
Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域でも、すべてワイヤーハーネスの高度化を促す。
住友電工はすでに車両の約12%の軽量化を実現するアルミワイヤーハーネスの量産にも着手しており、EV時代に向けた準備は万全です。
一方でリスクも存在する。
主要取引先がトヨタをはじめとする日系自動車メーカーに集中しており、米国の関税政策や自動車販売の動向に業績が左右されやすい。
2025年以降、米国の関税政策による影響で主力のワイヤーハーネス事業に減益リスクも指摘されています。
これが、フジクラ・古河電工と比べた際の「住友電工の弱み」でしょう。
◆「次の半導体株」なのか?三社を比較する
ここまで読んで投資先として「どこが一番お得なの?」と思った方も多いでしょう。
フジクラ
売上規模:中
AI需要:◎(光ファイバー)
EV需要:△(一部)
収益性:高(ROE高)
リスク:米関税・競合
光ファイバー需要がAI投資と直結しており、データセンター建設ラッシュが続く限り恩恵を受け続ける。
ただし、すでに株価は大きく上昇しており、期待値がかなり織り込まれている点は注意が必要だ。
古河電工
売上規模:中
AI需要:○(冷却・光通信)
EV需要:○(電材・ハーネス)
収益性:改善中
リスク:構造改革の継続
かつての低収益体質から脱しつつあり、AI需要(冷却・光通信)とEV需要の両方にまたがるポートフォリオを持つ。
まだ伸びしろがあるという見方もある。
住友電工
売上規模:大
AI需要:△(間接的)
EV需要:◎(ワイヤーハーネス)
収益性:中(規模が大きい)
リスク:自動車依存・関税
規模が圧倒的で財務基盤も堅牢だが、自動車依存が高く、関税リスクや日系自動車メーカーの動向に左右されやすい。
ただし、EV化が本格的に進む局面では恩恵が最も大きくなる可能性もある。
投資家たちが「電線株」に注目する本当の理由
「半導体株」と「電線株」の違いは何か。
半導体はAIの「頭脳」だが、電線はAIの「神経」のようなもの。
エヌビディアのGPUがどれだけ進化しても、そのGPUを結ぶ光ファイバーがなければデータは伝わらない。
データセンターに電力を供給する電力ケーブルがなければ、AIは1秒も動かないです。
半導体株は2023〜2024年に大きく上昇し、すでにバリュエーション(株価の割高・割安感)が高い。
その一方、電線株はまだ「地味な産業」というイメージが先行し、相対的に見直しの余地があると見ている投資家も多いでしょう。
実際、電線・ケーブル業界の世界市場規模は2029年に向けて年平均7%で成長すると見込まれており、光ファイバー単体でも2024年の818億ドルから1,161億ドルへの拡大が予測される。
これはAI需要だけでなく、新興国の通信インフラ整備や次世代通信規格(6G)への移行も後押しする。
また、地政学リスクという観点も見逃せない。
日本の電線御三家は欧米や中国のメーカーと比べて技術水準が高く、特に光ファイバー融着接続機(フジクラ)やワイヤーハーネス(住友電工)では世界トップクラスのシェアを持つ。
米中対立が深まる中で「信頼できるサプライヤー」として日本企業への需要が高まる、という視点も一部で語られている。
フジクラ、過去最高益でもストップ安「期待値の重力」が招いた急落
2026年5月14日、フジクラが2026年3月期の通期決算を発表した直後、株価は制限値幅の下限であるストップ安水準(前日比1,500円安・▲19.1%)まで急落。翌15日も続落し、一時は5,700円台まで下げました。
2026年3月期の通期実績は純利益1,572億円と5年連続の最高益更新、営業利益1,887億円(前期比+39.2%)、売上高は創業以来初めて1兆円を突破しており、数字だけ見れば申し分ない内容にもかかわらずです。
問題は「過去」ではなく「未来」にあります。
同時に発表された2027年3月期の会社予想の営業利益2,110億円が、市場予想の平均2,871億円を約761億円下回った。
純利益も前期比1%減の1,560億円という見通しで、予想の1,955億円に届かなかった。
なぜ来期予想は保守的になったのか?
背景には複数の要因があり、光ファイバーの増産を急ぐ中で、水素など一部原材料の調達が追いつかない懸念が示され、供給側に制約が生じている。
加えて、関税政策をめぐる環境変化への言及があり、追加関税に備えた引当金も計上されている。
需要が消えたのではなく、むしろ需要が強すぎるために供給が追いつかない、という構造的な問題が発生してきている。
フジクラは日米で光ファイバー・ケーブルの生産能力を現状の最大3倍に拡大する計画を進めており、中長期の成長ストーリー自体は変わっていない。
会社側はデータセンター向けの強い需要が続くと見ており、需要が崩壊したわけではない。
問題は、株価がその強さをすでにかなり先まで織り込んでいたところへ、「思ったより伸びない」来期予想がぶつかった点だ。
つまり、今回の急落は「悪い決算」ではなく、「高すぎた期待に届かなかった決算」による失望売りが起きている状況です。
今後は第1四半期の進捗と上方修正の有無が最初の判断材料となる。
会社予想が保守的すぎたと証明されれば株価は回復に向かう可能性があるが、供給制約や関税問題が長引けば重さが続く展開も想定される。
今回の下落が一時的な「期待値の調整」で終わるのか、それともAI関連の期待修正の始まりなのか・・・その答えは今後の業績と受注動向が示していくでしょう。
◆まとめ
「電線」は、もう地味じゃない
100年以上にわたって日本の産業を足元から支えて電線は、地味で目立たないがなくてはならない存在。
そこにAIとEVという2つのメガトレンドが加わり、その構図を根本から変えつつある。
関税問題、中国EV企業の台頭、技術革新のスピードなど、リスク要因も山積している。
ただひとつ確かなことは、AIとEVが本格化する時代において、「電線」という産業の重要性はますます高まっていくということでしょう。
半導体の次の主役は何かの答えのひとつが、139年の歴史を持つ「電線御三家」なのかもしれないですよ!
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次回は「AIバブル」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の中で資産を作っていくための心構えなどを日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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