【生活保護】|平均賃金で現役時代を働いてきた人は、年金よりも生活保護の方が良い?~老いてもかかる固定費を比較して、生活保護の優位性を比較する
「真面目に働いて年金を納めてきたのに、生活保護を受けている人より暮らしが苦しい…」
SNSやメディアで、このような言説を見かける機会が増えました。
そして、それは時として「平均的に働いてきたなら、老後は年金をもらうより生活保護を申請した方が得をするのではないか?」という、過激な問いへとつながります。
多くの人が抱く将来への漠然とした不安、そして現行の社会保障制度への不信感の表れとも言えるでしょう。
しかし、感情的な議論に終始していては真実は見えてきません。
今回は、平均的な収入で現役時代を過ごした人が受け取る年金額と、生活保護制度で保障される生活水準を、具体的な指標で徹底的に比較・検証します。
◆老後の生活費の実態:統計データから見る現実
まず、前提として老後の支出状況を把握しておきましょう。
総務省統計局が発表した「家計調査報告(家計収支編)2024年平均」によると、65歳以上の無職高齢者が一人暮らしをする場合、1か月あたりの平均消費支出は「約15万4,601円」です。
また収入の面では、同調査によると、無職で一人暮らしをする65歳以上の高齢者の平均収入は月額「13万4,116円」でした。
そのうち、年金などの「社会保障給付」が12万1,629円と、全体の90.7%を占めています。
つまり、消費支出が収入を月に約2万円以上上回っているのが平均的な姿であり、この不足分は貯蓄の取り崩しで補われています。
しかしこれは「消費支出」だけの話です。
税金や社会保険料といった「非消費支出」が別途かかります。
◆モデルケースを使って比較してみます
1. 比較のためのモデルケース設定
正確な比較のため、まず一人のモデルケースを設定します。
【モデルケース】
人物: 65歳の単身男性
居住地: 東京都区部の賃貸住宅に居住
就労歴:
22歳から60歳までの38年間、厚生年金に加入。
現役時代の平均年収(賞与込の標準報酬月額)は43.9万円と仮定(※1)。資産: 65歳時点で大きな資産や貯蓄はないものとする。
健康状態:
平均的な健康状態。
持病はあるが、定期的な通院でコントロールしている。
※1:厚生労働省「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、平均的な標準報酬額を参考に設定。
2. 年金生活者の収入と「避けられない支出」
まず、モデルケースの男性が受け取る年金額と、そこから引かれる「避けられない支出(固定費)」を見ていきましょう。
2-1. 年金受給額の試算
老齢基礎年金(国民年金):
20歳から60歳まで40年間保険料を納付したと仮定し、満額受給とします。 月額 約6.8万円(令和6年度)老齢厚生年金:
計算式:平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数 43.9万円 × 5.481/1000 × 456ヶ月(38年) = 約1,096,000円(年額) 月額 約9.1万円合計年金受給額:
6.8万円 + 9.1万円 = 月額 15.9万円(年額 190.8万円)
月額約16万円。
一見すると、一人で生活するには十分な額に見えるかもしれません。
しかし、ここから様々な「固定費」が差し引かれます。
※年金額は毎年改定されるため実際の受取額は変動します。
名目手取り賃金変動率やマクロ経済スライドによる調整率の関係で上記金額と変わる場合もありますがご承知ください。
2-2. 年金生活者が負担する「見えない固定費」
年金収入は「雑所得」として課税対象となり、社会保険料の支払い義務も生じます。
費目概要と計算根拠(概算):月額負担(目安)
所得税
(年金収入190.8万円 - 公的年金等控除110万円 - 基礎控除48万円) × 5.105% ÷ 12ヶ月:約1,400円
年金は所得税法の雑所得として扱われ、所得税がかかることになっています。
65歳未満の方でその年の支払額が108万円以上の方や、65歳以上の方で158万円以上の方の場合は、原則として所得税がかかります。
年金に課税される所得税は源泉徴収することとなっていますので、年金を支払う時点で所得税が引かれています。住民税
(年金収入190.8万円 - 公的年金等控除110万円 - 基礎控除43万円) × 10% ÷ 12ヶ月 + 均等割:約4,500円
年金収入が155万円(控除対象配偶者や扶養親族がいない場合)以下であれば、住民税は非課税となります。
しかし、平均的な厚生年金受給者の場合、この金額を超えることも多く、住民税の課税対象になります。後期高齢者医療保険料
収入に応じて決定される保険料。
東京都の場合、所得割率9.95%。 (年金収入190.8万円 - 33万円) × 9.95% + 均等割額:約17,000円介護保険料
65歳以上は市区町村が決定。収入に応じて段階的に設定される。
約7,000円合計:上記4項目の合計約29,900円
※上記はあくまで概算です。
正確な金額は個人の状況や自治体によって大きく異なります。
この時点で、年金の手取り額は以下のようになります。
159,000円(額面) - 29,900円(固定費) = 手取り 約129,100円
この「約12.9万円」から、家賃、食費、水道光熱費、通信費、そして医療費などを支払っていくことになります。
3. 生活保護受給者の収入と「免除される支出」
次に、同じモデルケースの男性が生活保護を受給した場合をシミュレーションします。
3-1. 生活保護費の試算
生活保護費は、主に以下の3つの「扶助」の合計で構成されます。
生活扶助:
食費や光熱費など、日常生活に必要な費用。
年齢や地域によって基準額が定められています。東京都区部・65歳単身の場合: 月額 約7.6万円
住宅扶助:
住居の家賃を補助する費用。上限額が定められています。東京都区部・単身世帯の場合: 上限 月額 53,700円
医療扶助:
医療サービスを受けるための費用。
自己負担なしで医療機関にかかれます(現物支給)。合計支給額(金銭):
7.6万円(生活扶助) + 53,700円(住宅扶助) = 月額 129,700円
この金額が、口座に振り込まれる現金となります。
3-2. 生活保護で原則「無料」になるもの
生活保護の最大の特徴は、収入保障だけでなく、多くの公的負担が免除・減免される点にあります。
① 医療費(医療扶助)→ 実質無料
生活保護を受給すると医療扶助が受けられるため、医療費は原則無料になります。
これは高齢者にとって特に大きなメリットです。
通院、入院、処方薬に至るまで、生活保護指定の医療機関であれば自己負担がありません。
② 介護費用(介護扶助)→ 実質無料
生活保護は介護扶助という形で介護費の免除も行っています。
介護保険で適用される介護サービスを実質無料で受けられます。
デイサービスやヘルパーの派遣だけでなく、介護施設の入居も可能です。
また、65歳以上の受給者の介護保険料については、全額が生活扶助の名目で支給されます。
生活扶助は生活保護費に上乗せされる形で支給されるため、実質的な金銭負担はありません。
③ 住民税・所得税 → 免除
生活保護を受給している世帯では、住民税も所得税も免除されます。
④ 国民健康保険料・国民年金保険料 → 免除(国保は非加入)
生活保護を受給すると、国民年金保険料の支払いが免除されることになります。
また、生活保護受給者は国民健康保険から外れ、医療扶助で対応されるため、国民健康保険料の支払い自体がなくなります。
⑤ NHK受信料 → 全額免除
生活保護法に規定する公的扶助を受けている場合は、申請によりNHKの放送受信料が全額免除となります。
申請の際は社会福祉事務所長の証明が必要ですが、手続きをすれば確実に免除されます。
NHKの受信料(地上波・衛星契約の場合)は年間で約2万6,000円程度にのぼります。
⑥ 水道料金 → 一部地域で基本料免除
細かいところで言うと、粗大ごみの処分料や、一部地域で水道の基本料まで免除されます。
⓻ 葬祭費(葬祭扶助):
生活保護受給者が亡くなった際、葬儀費用(火葬のみの直葬)も葬祭扶助として支給されます。
つまり、2-2で計算した年金生活者の固定費負担約29,900円が、生活保護受給者には発生しません。
さらに、医療費や介護費の自己負担もゼロになります。
4.【徹底比較】手元に残るお金と生活実態
両者の家計を、総務省の家計調査(2023年、65歳以上の単身無職世帯)の支出項目を参考に比較してみましょう。

このシミュレーション結果は、衝撃的な事実を示しています。
平均的な年金を受け取る生活者は、家賃を支払うと毎月1万円以上の赤字となり、貯蓄を取り崩さなければ生活が成り立ちません。
もし突発的な病気や怪我で医療費がかさめば、その負担はさらに重くのしかかります。
一方、生活保護受給者は、家賃と医療費が扶助でカバーされるため、支給された生活扶助費(このケースでは約7.6万円)の範囲内で食費や光熱費などをやりくりすれば、計算上は毎月約4.9万円が手元に残ります。
これは、被服費、交際費、趣味・娯楽費など、生活を豊かにするために使えるお金です。
経済的な「優位性」という観点だけで見れば、このモデルケースにおいては、明らかに生活保護に軍配が上がります。
あと、生活保護基準や住宅扶助上限は地域差があります。
都市部と地方では家賃事情も異なり、一概に全国一律で比較ではない点はご承知ください。
電気・ガス・通信費、水道料金の減免となる地域などの自治体差もあります。
◆なぜ誰もが生活保護を選ばないのか?~無視できないデメリットと制約
では、なぜ多くの高齢者は生活保護を申請しないのでしょうか。
それは、この制度がセーフティネットであると同時に、受給者に対して様々な「制約」と「義務」を課すからです。
経済的メリットの裏にある、厳しい現実も知っておく必要があります。
① 資産の制限
預貯金は最低生活費の半分(このケースでは約3.8万円)程度までしか認められないのが一般的です。
持ち家は保有が認められる場合がありますが、資産価値が高い場合は売却を指導されます。
自動車やバイクの保有は原則として認められません(通勤や通院に不可欠など、特別な事情を除く)。
生命保険は解約し、返戻金を生活費に充てるよう指導されます。
② 親族からの扶養が優先
申請すると、親族(原則3親等以内)に「扶養照会」が行われ、援助が可能かどうかが確認されます。
これが心理的なハードルとなり、申請をためらう大きな要因となっています。(※2021年以降、本人が望まない場合は実施しない運用が強化されていますが、制度の原則は変わりません)
③ 収入申告の義務と生活の「監視」
アルバイトなど、どんなに少額でも全ての収入を福祉事務所に申告する義務があります。
ケースワーカーによる定期的な家庭訪問があり、生活状況の聞き取りや指導が行われます。
プライバシーが制限されると感じる人も少なくありません。
④ 借金・ローンの禁止
生活保護費を借金の返済に充てることは認められていません。
生活保護制度ではクレジットカードの所持自体は禁止されていませんが、「支払い能力」が認められないためクレジットカードの作成やローンを組みことはできない確率は高いです。
⑤ 社会的スティグマ(偏見)
残念ながら、日本社会には生活保護受給者に対する偏見や誤解が根強く残っています。
これが、受給者の尊厳を傷つけ、社会的な孤立を深める一因となっています。
これらの制約は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための代償とも言えます。
年金生活にはない「自由」の多くが制限されるのです。
年金と生活保護は「二択」ではない
年金を受け取りながら生活保護を受給することは可能です。
生活保護は「年金がある人は対象外」という制度ではなく、世帯の最低生活費に対して収入(年金など)が不足している場合に、不足分を補う仕組みです。
つまり、生活保護費=最低生活費-収入(年金等)という計算式で決まります。
最低生活費は世帯構成や地域(級地)で変わり、収入には年金のほか、就労収入や仕送りなども含まれます。
年金が少ない方は、差額分を生活保護で補えるということです。
◆結論
平均賃金で現役時代を働いてきた人は、年金よりも生活保護の方が良いか?
経済的な合理性だけを追求するなら、生活保護の方が有利になるケースは確かに存在する。
しかし、それは「多くの自由や権利を制約されることと引き換えである」というものです。
年金生活は、現役時代の努力の対価として得られる権利であり、その使い方に制約はありません。
一方、生活保護は、生活に困窮した国民を救済するための最後のセーフティネットであり、権利であると同時に社会からの支援を受ける上での義務や制約が伴います。
もしあなたが、あるいはあなたの親が、年金だけでは生活が立ち行かない状況に陥ったとき、生活保護はためらうことなく利用すべき国民の権利です。
しかし、それを得だからという理由で選択するのではなく、人生の最終段階における生活の自由度や尊厳と、経済的な安定を天秤にかける、極めて重い選択であることを理解しておく必要があります。
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次回は「電線御三家」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の中で資産を作っていくための心構えなどを日記代わりにいろいろ書いています。
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