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知るメモ|2026年【日本 EEZ 内での中国漁船拿捕】|なぜ中国漁業は他国で違法操業を続ける?~海上民兵という脅威

ニュースアプリの通知で見かけた「中国漁船を拿捕」という文字。
2026年2月12日、日本のEEZ内で活動していた中国籍の漁船が、検査を拒否し逃走、逮捕されたということです。
事実関係だけを見れば当然の法執行の話ですが、調べると世界各地で同じような問題が起きていると知ったとき、もっと大きな流れの一部なのではないかと感じてしまいます。
そして怖いのは、こうした出来事が少しずつ当たり前になってしまうことです。

これは本当に、ただの漁業問題なのでしょうか?


事件の概要

2026年(令和8年)2月12日。
日本の水産庁漁業取締船「白鷗丸」は長崎県五島市沖の排他的経済水域(EEZ)内で中国漁船1隻を発見しました。
該当船は中国虎網漁船「チオントンユィ11998」(海南省八所港籍)で、漁業監督官による立入検査と停船命令に従わず逃走したため、漁業主権法違反(検査拒否・忌避)の疑いで拿捕されました。

船長(中国籍・47歳)は現行犯逮捕され、乗組員は11人でした。
水産庁の外国漁船拿捕は今年初、同様の中国漁船拿捕は2022年以来とされています。
捜査支援として漁業取締船「なのつ」「むさし」「白萩丸」などが協力しました。

日本では、沿岸国が排他的経済水域(EEZ)で水産資源の管理・調整権を持ち、他国漁船が操業するには許可と立入検査への協力義務があります。
これに従わず逃走した場合、漁業主権法により取り締まりと拿捕が法的に可能です。


中国漁業の違法操業(IUU)と国際的な状況

● IUU(違法・無報告・無規制)漁業とは

IUU漁業とは、Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の3つが同時に成り立つ漁業活動を指し、取り締まりが難しく海洋資源の枯渇・生態系破壊・地域漁業への経済的損失をもたらす国際問題とされています。

中国は世界最大級の遠洋漁業船団を保有しており、その規模は約5万7,000隻に及ぶと推定されています。
海洋保全団体Oceana(2025年6月発表)の分析によれば、世界の可視化されている漁業活動の約44%を中国船団が占めています。

英国のポセイドン社などが発表する「IUU漁業指数(2025年版)」において、中国は調査対象152カ国の中で最下位(最もリスクが高い国)と評価されました。
これは、他国の排他的経済水域(EEZ)への侵入だけでなく、強制労働や公海での無規制な乱獲が常態化しているためです。


●中国漁船の海外での違法操業・衝突事例

① フィリピン周辺(南シナ海):軍事化する漁船団

2025年6月、南シナ海のフィリピンEEZ内にあるロズル礁周辺に、50隻以上の中国海上民兵漁船が集結しているのが確認されました。

ロズル礁に集結した50隻以上の船団は、一般的な漁船とは構造も目的も異なります。
これらは中国人民武装警察部隊海上民兵(PAFMM)と呼ばれ、以下の特徴を持ちます。

  • プロ仕様の装備:
    船体は鋼鉄製で、一般的な漁船よりも巨大かつ頑丈です。
    漁網や漁具を積んでいないケースが多く、代わりに強力な放水銃や通信設備を高度に備えています。

  • 国家による支援:
    中国政府から燃料補助金を受け、軍事訓練を受けた人員が乗り込んでいます。

  • 「居座り」戦術:
    実際に魚を獲るのではなく、特定の海域に長期間「錨を下ろして並んで停泊」することで、事実上の領土占拠を狙います。

2025年6月の事案がこれまでのものと異なっていた点は、その「組織的な攻撃性」にあります。

  • AIS(船舶自動識別装置)の意図的な停止:
    中国船団は位置情報を発信するAISを頻繁にオフにし、レーダーから姿を消す「ダークフリート(闇の船団)」として行動します。
    これにより、フィリピン沿岸警備隊による監視を困難にさせました。

  • 物理的な進路妨害:
    フィリピン側の巡視船が接近しようとすると、複数の民兵船が連携して進路を塞ぐ進路妨害を組織的に展開。
    衝突のリスクをあえて作り出し、相手を撤退させる心理戦を仕掛けました。

ロズル礁で最もショッキングだったのは、潜水調査で確認した生態系の壊滅的被害です。

  • サンゴの死滅:
    以前は豊かだったサンゴ礁が、広範囲にわたって白化・粉砕されているのが確認されました。
    破壊の理由としては、数十隻が同時に錨を下ろすことで、海底のサンゴを物理的に押し潰した事であると言えます。
    また、高値で取引される「オオシャコガイ」を根こそぎ採取するため、プロペラや水圧を使って海底を掘り返し、サンゴを破壊した疑いが濃厚です。

  • 意図的な不毛化:
    生態系を破壊することで、フィリピン人漁師がその海域で漁を続ける経済的価値を奪う「焦土作戦」の一環であると分析されています。


② 南米沖(アルゼンチン・ペルー):EEZ境界での「ダークフリート」

2025年12月、アルゼンチン沖の公海境界線上に350隻以上の中国漁船が展開しました。

アルゼンチン沖の公海とEEZの境界付近には、大陸棚が広がり栄養が豊富な「ブルーホール(Agujero Azul)」と呼ばれる海域があります。

この狭い境界線上に350隻を超える中国漁船が、まるで「光の壁」のように並んで展開しました。
これらは主にイカ釣り漁船ですが、EEZ内に「1マイルだけ侵入しては戻る」といった、アルゼンチン海軍の監視をあざ笑うような挑発行為を繰り返しています。

監視団体Global Fishing Watchの報告によれば、これらの船の約70%が、境界線付近でAIS(船舶自動識別装置)を意図的にオフにするダークフリート化をしています。
これにより、衛星からは消えた状態になり、密漁を行っても証拠が残りにくい状況を作り出しています。
この漁船の動きは、単なる漁業の枠を超えた「軍事・科学的野心」を浮き彫りにしました。

  • グリッド状の航行パターン:
    通常、イカ釣り漁船は集魚灯を灯して海流に漂うか、ゆっくりと移動します。
    しかし、中国漁船は完璧な平行線を描く「グリッド状(格子状)」の航行を数日間にわたって繰り返しました。
    この動きを「海底地形の精密なマッピング(測量)」あるいは「潜水艦探知のための音響データの収集」である可能性が高いと指摘しています。

  • デュアルユース(軍民両用):
    中国の遠洋漁船の一部は、漁業を隠れ蓑にした「情報収集船」としての役割を与えられているという疑惑が、この具体的な航行データによってより現実味を帯びることとなりました。


③ 韓国(黄海):相次ぐ拿捕と衝突

2025年12月2日から7日にかけて、韓国の海洋水産部と海洋警察庁は、黄海の排他的経済水域(EEZ)において「年末特別合同集中取締り」を実施しました。

  • 拿捕の実績:
    この期間中だけで、韓国EEZ内での違法操業が確認された中国漁船6隻を拿捕しました。
    主な違反内容:
    実際に捕獲した量よりも大幅に少ない数値を日誌に記入し、資源管理を逃れる行為。
    正式な許可を得ず、あるいは魚倉(魚の保管庫)の容積を偽るための改造を行っていました。
    また、済州島周辺では15張の違法な刺し網を強制撤去しています。

黄海で問題となっているのは、中国漁船が用いる「根こそぎ」の漁法です。

  • 連結底引き網(ペア・トロール):
    2隻の漁船が巨大な網の両端を引き、海底を引きずる手法です。
    網の目が非常に細かく、稚魚(子供の魚)までも一網打尽にします。

  • 「虎網(トラアミ)」:
    集魚灯で魚を集め、巨大な網で包囲して引き揚げる漁法。
    これにより、特定の海域の魚種が一時的に絶滅に近い状態まで減ることが危惧されています。

  • 被害の規模:
    2026年1月の事案では、わずか2隻の漁船から1.2トンもの違法な稚魚の漁獲が押収されました。
    韓国政府はこれを「未来の資源を盗む行為」として極めて重く見ています。

中国漁船は、拿捕を逃れるために組織的に武装し、韓国海警の隊員に対して激しい抵抗を試みます。

  • 鉄パイプと鋭利な凶器:
    船体に鉄串やフェンスを設置して海警の乗り込みを物理的に阻止するほか、鉄パイプや斧を振り回して抵抗することが常態化しています。

  • 取締り中、韓国海警の隊員が荒れる海上で中国漁船に飛び移る際、激しい抵抗と波の影響で負傷する事案が報告されています。

  • 「罰金プール」の存在:
    李在明(イ・ジェミョン)政権下の分析によると、中国漁師たちは「罰金互助会」のような仕組みを作っており、1隻が捕まっても仲間内で罰金を出し合うため、従来の罰金では抑止力にならないという構造的な問題が指摘されています。

韓国政府はこれまでの「受動的な取締り」から「攻めの姿勢」へと方針を転換しました。

  • 非寛容原則:
    激しく抵抗する漁船に対しては、艦載砲の使用や船体への体当たりを含めた実力行使を躊躇しない新たな交戦規定(ROE)を強化しています。

  • 罰金額の大幅引き上げ:
    10隻が共同で出資しても支払いきれないレベルまで罰金を加算し、再犯を防ぐ法整備が進められています。

  • 無人機(ドローン)の活用:
    2025年から、空中ドローンが違法操業の証拠を上空から撮影し、逃走する前に高速ボートで包囲する連携作戦が本格運用されています。


◆なぜ中国は遠洋に出るのか

① 国内需要が増え続けている

中国は世界最大の水産物消費国であり、国民のタンパク源として魚介類の需要が高いことが背景にあります。
中国政府が公表した資料によれば、今後も国内での水産物需要は増加傾向にあり、2033年には輸入量が2023年比でほぼ倍増すると予測されています。
これは人口規模と食生活の変化に伴うものであり、国内だけで供給が追いつかない現実が遠洋進出の一因です。

中国の遠洋漁業は大規模ですが、これは単に海外で漁獲して輸出するためだけではなく、国内向け需要を満たすために遠くまで出ている側面があると報じられています。
特にサバ類やマグロのような人気食材は輸入に依存する部分が大きく、国内市場への供給不足が遠洋漁業の推進力になっています。


② 近海資源の枯渇・制限による遠洋進出

中国沿岸域の漁業資源は、過去数十年にわたって過剰漁獲や資源減少の問題に直面してきました。
近年、政府は漁船数の削減や漁獲制限の強化など「持続可能性重視」の政策を進めていますが、これは裏を返せば国内海域だけで漁獲量を維持することが困難な状況を意味しています。

例えば、中国政府は2020年代初頭から沿岸漁船を削減し、漁獲制限を設けているものの、それでもなお国内近海だけで需要を満たせないため遠洋へ進出する構造的要因が存在します。
漁場が限られる近海資源では、対象魚種の減少に対応しきれず、遠洋での漁場開拓に向かわざるを得ない状況が続いています。


③ 国家補助金・政策支援

中国の遠洋漁業が大規模に拡大した背景には、政府による補助金や政策的支援が関係しているという分析があります。
例えば、英NGO Planet Tracker の報告書では、遠洋漁業を営む企業は多額の政府補助を受けているため、薄利の漁業でも採算を維持できていると指摘されています。
燃料補助金や漁業企業への財政支援によって、遠洋漁船が運営可能になっているという現実があります。

また、補助金は単に操業コストを下げるだけでなく、遠洋漁業企業が国内外で捕獲した魚を国内市場に戻すインセンティブにもつながっています。
一部の遠洋船団は中国国内港に漁獲物を送ることで、地元港の水産加工・貿易拠点化を政府と協調して進めています。


◆漁船か、準軍事組織か「海上民兵」問題

「海上民兵」は、外務省や中国政府が公式に認めているような軍隊ではありませんが、専門家・軍事アナリストは中国の漁船群が中国政府・人民解放軍の戦略的役割を担う可能性を指摘しています。

特に海外の研究者や機関は、海上民兵を次のように整理しています。
法的には漁業を行う漁船であるが、国家や軍(人民解放軍)と密接に連携・統制されている可能性があり、戦略的にグレーゾーンの戦力として用いられることがある。
正規軍ではないものの、緊張時に役割を果たす戦力になり得るでしょう。


●船団が単なる漁船ではないとされる理由

組織化された大規模集結

最新の衛星データ分析では、2025~2026年にかけて東シナ海で中国漁船が組織的に大規模に集結している動きが確認されています。
2025年12月と2026年1月の例では、最大約2,000隻規模の船団が 南北470km以上にわたり壁のように密集していたという報道が出ています。
これは通常の漁業活動では考えにくい統制された隊列です。
こうした直線や矩形状の集結は単なる漁業を超えるものとして、一部の専門家は「海上民兵が集結・活動している可能性がある」と分析しています。

② グレーゾーン戦略としての利用

専門家は、中国の海上民兵が 正規軍ではなく、しかし国家戦略に影響力を持つ存在」 として使われている可能性を議論しています。
具体的には・・

  • 実際の軍艦を出さずに特定海域へ圧力をかける

  • 他国の警戒を高め、緊張を生み出す

  • 領有権や支配権を示すプレゼンスとして用いる

といった役割がその一端です。
CNNの過去報道では、フィリピン領域内での漁船集結が 漁業目的ではなく、政治的・戦略的に示威行為として使われている可能性 が指摘されています。このような“平時は民間、緊張時は戦略資産 という存在感が、まさに 「グレーゾーン戦力」 として各国が警戒する根拠になっています。

③ 公式否定と非公式連携

中国政府は海上民兵の存在を明確には認めていません。
外務省や国営メディアは、しばしば「単なる漁船だ」と説明しています。

しかし、研究者による分析では、民兵組織は地方レベルの指導部を持ち、人民解放軍の地域軍区とリンクして命令・調整が行われる可能性がある。
指定された漁業会社などが民兵として機能しているという点が指摘されています。
つまり、名目上は漁船であっても、 船舶運航や集結の仕方、隊列行動などが統制された動きをしている可能性がある という解釈です。

なぜ各国が警戒するのか

漁船なのに戦艦より危険だとまでは言いませんが、海上民兵は以下のような 複合的な特徴から警戒されています。

  • 普通の漁船とは異なる統制された行動

  • 正規軍艦艇として明示されないため対応が難しい

  • 海域支配の意思を間接的に示す可能性がある

  • 他国の沿岸警備や軍の対応の瞬発力を試す存在になる

このように、海上民兵は 単なる漁業の延長ではなく戦略的意図を持つ可能性がある存在として論じられており、国際情勢・海洋秩序の議論では重要な論点となっています。


参考出典(本文内で参照したもの)

  • 水産庁公式発表(2026年2月13日)

  • Environmental Justice Foundation 報告

  • AP通信報道

  • Korea JoongAng Daily

  • FAO 港湾措置協定(PSMA)

  • 米国防総省関連分析

  • 国際海洋法学術論文


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次回は「バレンタインデー」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。

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