知るメモ|【うなぎ】|完全養殖の実現!~ウナギはどこで生まれどうやって日本に来るのか?
うなぎといえば「土用の丑の日」
「土用」は特定の季節を指す言葉ではなく、立春・立夏・立秋・立冬の直前の約18日間の期間のことです。
土用は季節の変わり目であり、気温などの変化により体調を崩しやすい時期です。
その為、古くから食べ物で体を労わる習慣がありました。
春の土用は「戌(いぬ)」
夏の土用は「丑(うし)」
秋の土用は「辰(たつ)」
冬の土用は「未(ひつじ)」
の日に、それぞれの頭文字がつく食べ物を食べると良いとされました。
昔は日にちを十二支で数えていたため、12日ごとに「丑の日」が巡ってきます。
そして、この「土用」18日間の間に巡ってくる「丑の日」が「土用の丑の日」です。
特に夏の土用の丑の日は、「う」のつく食べ物として「うなぎ」を食べる習慣が広まっています。
他には、うどん、梅干し、瓜(うり)、馬肉、牛肉なども、体力回復や夏バテ防止に役立つとされています。
そしてなぜか、春も秋も冬の土用も、土用以外の12日ごとに巡ってくるただの「丑の日」にも、夏ほどではないですが「うなぎ」を食べる販促が行われています・・・
2026年の「土用の丑の日」は、
1月27日(火)
4月21日(火)
5月3日(日)
7月26日(日)
10月30日(金)
4月21日と5月3日のように、同じ季節(立夏:5月5日)の土用の期間中に丑の日が2回ある場合は、1つ目を「一の丑(いちのうし)」、2つ目を「二の丑(にのうし)」と呼びます。
土用の丑の日と言えば「うなぎ」です。
実は、土用の丑の日にうなぎを食べる風習が始まったのは江戸時代ごろだそうです。
夏場はあまり売れないウナギを売るために、丑の日に「う」のつく食べ物を食べる風習があったことから、「本日丑の日」という張り紙をうなぎ屋の店先に張り、それによってうなぎ屋は繁盛し、土用の丑の日にうなぎを食べる習慣が広まったといわれています。
今年は豊漁なようで去年よりは安くなってはいますがそれでも、「鰻、なんで高いんだよ」と思いつつも、丑の日には手に取ってしまう。
ところで、うなぎは、どこで生まれて、どこで育って、どうやって私のお皿に来るのでしょうか?
うなぎという生き物は、魚なのか何なのか分からないですし、その生態のほぼすべてが「謎」とされてきました。
そして今、長年分からなかった生態が研究され、不可能と言われてきた「完全養殖」が、ついに食卓に届こうとしています。
今回は、鰻を巡るこの「高くて謎だらけの状況」を少し深掘りしてみます。
■ 私たちが食べているうなぎの「正体」
スーパーや鰻屋で食べている「うなぎ」は、「99%以上が養殖」ものです。
川や湖で自然に育って大きくなった完全な天然うなぎというものは、うなぎ全体の漁獲量の数%程度と希少で、スーパーなど量販店で見かけることはほぼないですし、1匹5,000円~10,000円以上になるものもあるので、それなりに高級なうなぎ専門店でもないと出会う事もないでしょう。
天然ものは自分が生きるために生き、養殖のように食べること前提で調整された場所で育てられているわけでもないので、比較的細身で身も締まっている場合も多く、味と食感で天然と養殖のどちらがいいかは難しい所です。
その「養殖」の実態は、多くの人が想像する魚の養殖のようなものとも少し違います。
「養殖」と聞くと、卵から育てた魚を、という絵が浮かぶかもしれない。
ブリやサーモン、マダイはそうやって作られていますが、うなぎの一般的な養殖は、まったく別のやり方で行われています。
その実態は、川や海で生まれた野生の稚魚(シラスウナギ)を獲ってきて、そこから人工的に養殖池で大きく育てる「不完全養殖」です。
その為、稚魚の不漁による価格高騰や、稚魚の乱獲や気象変動による絶滅危惧種指定という業界課題に直面しています。
水産庁の資料によると、シラスウナギの国内採捕量は1963年に232トンあったものの、1980年代ごろから低水準となり、2023年は5.6トンまで落ち込んでいます。
60年間で、採れる量がおよそ40分の1になった計算ですが、これは単純な乱獲の問題だけでなく、川の整備による産卵場所の消失、水温変化、海流の変動など、複合的な要因が重なっています。
このままでは、うなぎが食べられなくなる日が来るかもしれない。
そんな危機感が、完全養殖の研究を加速させてきました。
なぜうなぎだけが、長らく「本当の意味での養殖」ができなかったのか? それは、うなぎという生き物の驚くほど謎めいた生態にあります。
■ 2500km離れた深海で生まれる命
うなぎ(鰻)は、生物の分類上は「魚類(硬骨魚綱)」の「ウナギ目ウナギ科」に属する生き物です。
うなぎの骨が5000年前の縄文時代の貝塚などの遺跡から出土されており、日本では古くから栄養源として食べられていたそうです。
蒲焼として食べられるようになったのは、室町時代(1399年〜)とされています。
にも関わらず、ニホンウナギの一生を人が知ったのは20世紀後半になってから。
川や湖で5年から12年もの時間をかけてゆっくりと育ったうなぎは成熟してもその場所では産卵はせず、ある日突然、産卵のために旅に出ます。
川を下り、海に出て、そこからはるか遠くへと泳いでいく。
その産卵場所が判明したのは1991年のことです。
さらに詳しい場所が東京大学海洋研究所により特定されたのは2005年。
その発表は画期的な科学的発見として世界的な話題にもなりました。
産卵場所は、日本の沿岸から約2,500kmの海を隔てた、グアムやサイパンで知られるマリアナ諸島の近く、深海の海山のそばの西マリアナ海嶺付近だと考えられています。
そんな遠い場所まで、うなぎは泳ぎ続けて産卵するわけです。
そして、卵から孵化した赤ちゃんうなぎは「レプトケファルス」と呼ばれる半透明の葉っぱのような形をした幼生になり、海流に乗って数千キロを漂いながら日本の沿岸に近づく。
そこで「シラスウナギ」という細長い稚魚の姿に変態し、日本の川までたどり着いて成長し、再び海に戻って産卵する。
これがうなぎの一生です。
しかも、産卵場はわかったものの、どうやってその場所へ帰っていくのか、なぜそんなピンポイントの場所へ集まることができるのかは未だ解明できていない。
つまり、うなぎの「帰巣本能」のメカニズムは、現在も謎のままなのです。
このあまりにも複雑な生態が、人工繁殖を極めて難しくしてきた最大の理由のひとつでもあります。
ちなみに、海へ産卵に向かう直前になると、うなぎは「銀ウナギ(銀化)」になります。
特徴は、
目が大きくなる
腹が銀白色
皮が黒っぽくなる
などです。
■ 「育てる」ことの、想像を絶する難しさ
うなぎの完全養殖が難しいのは、産卵場所の謎だけではありません。
実際に試みようとすると、ありとあらゆる壁にぶつかります。
① 親うなぎを人工的に「産卵できる状態」にすること
うなぎは養殖環境では自然に成熟しない。
産卵させるためには、ホルモン注射を繰り返す必要があります。
ウナギの成熟を促すためには生殖腺刺激ホルモン(GTH)と呼ばれるホルモンが必要で、従来の方法ではサケや家畜などウナギ以外から得られるホルモンを利用しており、量や効果に限界があった。
最近の研究で遺伝子組換え技術を活用して、ウナギ由来のGTH(rGTH)の大量生産に成功。
このホルモンによって、雄ウナギでは精子の運動性が飛躍的に向上し、雌ウナギではより多くの良質な卵を得ることができるようになった。
② 孵化したあとの幼生(レプトケファルス)に何を食べさせるか
深海を漂うレプトケファルスが、自然界でいったい何を食べているのか?
研究者たちは何十年も頭を抱え続けていました。
その食性について「体表から直接栄養を吸収する説」「マリンスノー(海洋表層の有機物の死骸)説」「オタマボヤの廃棄フィルター説」「ゼラチン質動物プランクトン説」という4つの学説が長年争ってきた。
2012年、JAMSTECと東京大学の研究チームがアミノ酸の窒素同位体比を分析する新手法を使い、ウナギのレプトケファルスは植物プランクトンや動物プランクトンの死骸が分解されたマリンスノー(粒子状有機物)を食べて育っていることを強く示唆する成果を発表しました。
この「マリンスノー説」の解明が、人工飼育の餌の開発につながっていくのです。
海で採集したレプトケファルスの胃からオタマボヤ類のゼラチン質フィルターの残骸が見つかったことをきっかけに、それを模した人工飼料が開発されました。
サメ(アブラツノザメ)の卵黄を原料とした飼料でシラスウナギへの変態に成功したのです。
しかし、そのサメの漁獲量自体が減っているため、商業ベースでの大量生産には向かないものでもあったのです。
研究者たちはさらに試行錯誤を重ね、レプトセファルスに鶏卵の黄身を原料にした餌を与えることでシラスウナギに成長させることに成功します。
入手しやすい材料への転換が、量産への道を大きく開いたのです。
現在進行形で行われているのが、この「鶏卵すら使わない」新しい人工飼料の開発です。
近畿大学水産研究所と民間企業(三栄源エフ・エフ・アイ)の共同開発により、2025年に「鶏卵黄を含まないオリジナル飼料」でのシラスウナギ生産成功が発表されました。
うなぎの稚魚(仔魚)は口が小さく、成長ステージに合わせてエサの絶妙な「粘り気」を変える必要があります。
従来の鶏卵ベースでは水分の量くらいでしか調整できませんでしたが、最新の植物性原料や食品添加物(増粘剤)を使ったエサでは、成長に合わせてベストな粘度にチューニングできるようになりました。
「サメの卵」という自然のレアものから、「鶏卵」という身近な食品へ、そして「植物性などのブレンド配合飼料」へ。
エサの完全な人工化と工業化は、商業化の直前まで確実に進化しています。
③ 飼育管理の煩雑さ
人工シラスウナギの生産法には特殊な飼育水槽が必要で、2時間おきの水槽掃除など煩雑な飼育管理が求められます。
安定的に安価で健全なシラスウナギを大量供給できる体制の確立が、今も技術的な課題として残っています。
これだけの壁があったから、世界中の研究者が何十年もかけて取り組んできたにもかかわらず、完全養殖はなかなか実現しなかったわけです。
うなぎは、「最も増やすことが難しい魚」と言われてきた所以がここにあります。
■ うなぎには「オス」と「メス」がはっきりしない?
市場に出回っているウナギのほとんどは養殖ウナギと書きましたが、その大半が「オス」であることはあまり知られていないでしょう。
ウナギの稚魚は性が未分化でオスでもメスでもない状態、成長に伴い性分化が起こる。
人間なら考えられないことだが、うなぎの赤ちゃんは「オスになるかメスになるか」が環境によって後から決まる。
そして、養殖環境下では、なぜか9割以上の稚魚がオスへと分化する。
では、なぜ養殖環境だとオスばかりになってしまうのか?
天然ウナギはメスが多い一方、養殖ウナギはほとんどオスであることが知られています。
養殖ウナギというのは天然の稚魚(シラスウナギ)を捕まえて養殖池で飼っているので、元をただせば天然も養殖も出所は同じはずであるにもかかわらず、オスメスの比率が逆転する。
養殖池という場所での、ストレスが多い環境、密度が高い環境、栄養状態などが、オス化を促すと考えられているが、メカニズムの詳細はまだ研究中。
このオスとメスの偏りは、完全養殖にとっても非常に大きな問題でした。
産卵させるためにはメスが必要なのに、放っておくとオスばかりになってしまう。
そこで登場したのが、メスうなぎを人工的に育てる技術です。
愛知県水産試験場などにより、養殖ウナギの餌に大豆イソフラボン由来の栄養素を混ぜると、人工的にメスウナギにできるという技術が開発されたのです。
この技術で育てられた「めすうなぎ」は通常のオスより大きく育ち、脂の乗りが良いとされています。
ウナギの性別を意識して食べる人はまずいないと思いますし、そもそもどこで区別するかも知らないですから、我々が食べてきたウナギの多くはオスだったとしても気にもしていなかったでしょう。
でも、めすうなぎを育てる技術により、消費者にとっては「オスか、メスか」で脂の乗りが違うなら、ウナギを選ぶ際の新基準ができたのです。
うなぎのオスとメスの見分け方
店頭の調理されたうなぎではほぼ判別不能です。
なぜなら、すでに捌かれて内臓が取り除かれ、焼き処理もされている場合が多いので、判別しようにも判断材料がない・・・
生きたうなぎなら特徴はあります。
オスの特徴
細長い
頭がやや大きい
尾が長め
成長が比較的早い
メスの特徴
太短い
体高が出やすい
大型化しやすい
天然の巨大うなぎはメス率が高いと言われます。
特に60〜70cm超級になると、メスの可能性がかなり上がる。
味の違いについては、一部の料理人や漁師は、
メスは脂が乗る
オスは締まる
と言います。
ただし、個体差や季節、産地の影響が大きすぎるため、断定はしにくいようです。
研究現場では、
生殖腺(精巣・卵巣)
組織検査
超音波
ホルモン測定
などで判定します。
■ 2010年、世界が震えた「完全養殖成功」
そして2010年、ついに歴史的な瞬間が訪れた。
2010年、水産研究・教育機構(FRA)が世界で初めてうなぎの完全養殖に成功しました。
「卵から育てたうなぎに産卵させ、その卵をまた育てる」という人類が初めてこのサイクルを人工的に完成させた瞬間でした。
これは画期的な成果だったが、生産コストが天然シラスウナギの数十倍、1匹当たり4万円と高く、商業ベースには至っていなかった。
技術的にできたことと、お店で売れる価格で大量に作れることの間には、まだ巨大な壁がありました。
しかし、大量生産技術の確立や飼料・飼育水槽・自動給餌システムの開発などに取り組んだ結果、2023年度には1,800円程度まで削減。
コストがおよそ22分の1まで下がった。
研究者たちの地道な努力が、確実に実を結んだのです。
■ そして今、「世界初」が食卓へ届く
そして、2026年5月。ついに歴史が動いた。
卵から人工孵化させる「完全養殖」のウナギが、世界で初めて試験販売される。
ウナギ養殖大手「山田水産」(大分県)は、令和4年度から水産庁委託事業に参画し、水産研究・教育機構(水研機構)から技術指導を受けながら技術の再現性の確認を担ってきました。
令和6年以降は2年連続で水研機構と同等の効率で、年間10,000尾以上の完全養殖シラスウナギの生産に成功しており、今回、委託事業で生産された完全養殖シラスウナギを成鰻まで養殖、蒲焼に加工して試験販売を実施することになりました。
完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売は世界初の事例です。
商品名は「山田のうなぎ完全養鰻」。
販売する商品はギフト箱の2尾セット、参考価格は9,000円(税別)+送料で、5月29日から販売を開始予定です。
山田水産公式オンラインショップ、山田のうなぎ(日本橋三越本店、築地の専門店)、およびイオングループのECサイトで販売される予定です。
鈴木農相は販売開始に先立ち完全養殖のウナギを試食し、「おいしいという言葉しか出ない。多くの消費者に届けられるように後押ししたい」と述べた。
1匹あたり4,500円前後という価格は、まだ決して安くはないですが、かつて1匹4万円のコストがかかっていたことを思えば、これは奇跡的な進歩でしょう。
■ 2028年、食卓の夢が本格的に広がる
この試験販売は「始まり」に過ぎない。
完全養殖ウナギは、2028年には一般流通で食卓に届くことが目標とされており、持続可能なうなぎ消費の実現に向けて着実に前進している。
さらなる研究でのコストダウンや生産数の増加、それによって需要が増えてくれば価格面でも今の養殖うなぎに対抗できるところまで下がってくるでしょう。
完全養殖ウナギは、単に供給量を増やすだけでなく、自然環境への負荷を減らすという重要な意味も持ちます。
天然のシラスウナギへの依存を減らすことで、絶滅危惧種であるニホンウナギの保護に大きく貢献する。
完全養殖が本格的に普及すれば、天然の川や海のうなぎをこれ以上減らさなくて済むでしょう。
うなぎを食べることと、うなぎを守ることが、初めて両立できるようになるのです。
■まとめ
うなぎという魚は、長い間、人間に食べられながらも、その生態のほとんどを明かさずにいました。
産卵場所すら、つい数十年前まで誰も知らなかったですし、どうやって生まれたマリアナまで帰るのかは今もわかっていない。
生まれた時点では「オスでもメスでもない」という不思議な性質も持っている。
そんな「謎だらけの生き物」が、人間の知恵と技術によって少しずつその秘密を明かし、今まさに「完全養殖」という形で私たちの食卓に届けられようとしています。
数年後の土用の丑の日、もしかしたら「完全養殖のうなぎ」がもう身近になっているかもしれませんよ!
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次回は「温泉」について書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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