知るメモ|【温泉】|硫黄臭い温泉は逆に体に悪くないのか?~「色と匂い」の科学で自分に合う泉質を見つけよう!
「温泉といえば、あの卵が腐ったような硫黄の匂い!」
そう思う一方で、
「こんなに強烈な匂いがするってことは、刺激が強すぎて逆に体に悪いのでは?」
と疑問を抱くこともありませんか。
その「匂い」や色こそが温泉の最大の魅力であり、同時に選ぶべき泉質を知る重要なサインです。
脱衣所にある「温泉分析表」をチラリと見てもその意味が分からないと、温泉の濃厚な個性が楽しめません。
今回は、温泉の色や匂いの正体を科学的に、あなたにとって「最高の温泉」を見つけるための深掘りガイドをお届けします。
◆知っておくべき「泉質」の基本
日本には現在、約3,000か所以上の温泉地があり、環境省の定義によると「一定以上の温度または特定の成分を含む地下水」を温泉と呼びます。
単純に熱いお湯ではなく、地中の岩盤や地熱から溶け込んださまざまなミネラルや化学成分こそが、温泉を温泉たらしめているのです。
この溶け込んだ成分の種類によって、泉質(せんしつ)が決まります。
現在の日本の法律(温泉法)では、温泉は10種類の泉質に分類されています。
それぞれ身体への効能も異なり、「どの成分が多いか」によって、匂い・色・肌触りが劇的に変わってきます。
温泉法による「温泉」の定義とは?
①温度が25℃以上
②指定された19種の成分(リチウム・炭酸水素ナトリウム・食塩・硫黄など)のうち1つ以上を一定量以上含むもの
と定義されます。
つまり、ぬるくても・無色透明でも成分があれば「温泉」。
逆に熱くても成分がなければ「温泉」ではありません。
温泉の泉質を決める10種類の分類
単純温泉:成分が比較的少なく刺激が弱い。肌にやさしい。
代表的な温泉地:下呂温泉、道後温泉塩化物泉:塩分を多く含み、保温効果が高い。「熱の湯」と呼ばれる。
代表的な温泉地:熱海温泉、別府温泉炭酸水素塩泉:重曹成分を含む。肌がすべすべになるため「美人の湯」とも呼ばれる。
代表的な温泉地:嬉野温泉、龍神温泉硫酸塩泉:傷や火傷の回復を助けるとされる。「傷の湯」。
代表的な温泉地:山中温泉、法師温泉二酸化炭素泉:炭酸ガスを多く含む。血行促進効果で知られる。
代表的な温泉地:長湯温泉、七里田温泉含鉄泉:鉄分を含み、湯が赤褐色になることが多い。
代表的な温泉地:有馬温泉(金泉)、増富温泉酸性泉:強い殺菌力を持つ。刺激が強め。
代表的な温泉地:草津温泉、玉川温泉含よう素泉:ヨウ素を一定量以上含む比較的珍しい泉質。
代表的な温泉地:白子温泉、九十九里浜温泉硫黄泉:温泉らしい硫黄臭が特徴。白濁することも多い。
代表的な温泉地:登別温泉、万座温泉放射能泉:ラドンなどの放射性物質を微量含む。
代表的な温泉地:三朝温泉、増富温泉
2014年の改定で「含アルミニウム泉」「含銅-鉄泉」が廃止され、「含よう素泉」が加わり、現在の10種類になりました。
これら泉質を大きく分けると3グループに分けられます。
単純温泉
塩類泉(塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉)
特殊成分を含む温泉(二酸化炭素泉・含鉄泉・酸性泉・含よう素泉・硫黄泉・放射能泉)
温泉施設の分析書に記載されている
ナトリウム-塩化物泉
カルシウム-硫酸塩泉
ナトリウム-炭酸水素塩泉
といった名称は、上記10分類をさらに細かく分類した「新泉質名」です。
「新泉質名」は、2002年の温泉法改正で導入された表示方法です。
従来は単に「塩化物泉」「硫黄泉」などと表示していましたが、実際には同じ塩化物泉でも主成分によって性質がかなり異なるため、どの成分が主体なのかを表示する方式になりました。
温泉を構成する主な成分は大きく分けると3種類です。
陽イオン
ナトリウム(Na⁺):日本の温泉で最も多い
カルシウム(Ca²⁺):硬めの湯になりやすい
マグネシウム(Mg²⁺):苦味成分の元
カリウム(K⁺):比較的少ない
鉄(Fe²⁺・Fe³⁺):赤湯の原因
水素イオン(H⁺):強酸性泉の原因
陰イオン
塩化物イオン(Cl⁻):塩化物泉
炭酸水素イオン(HCO₃⁻):炭酸水素塩泉
硫酸イオン(SO₄²⁻):硫酸塩泉
硫化水素イオン(HS⁻):等硫黄泉
特殊成分(一定量以上含まれる場合)
硫黄:含硫黄
鉄:含鉄(Ⅱ)、含鉄(Ⅲ)
よう素:含よう素
水素イオン(pHが低く酸性基準を満たす):酸性
二酸化炭素(遊離二酸化炭素が多い):二酸化炭素泉
ラドン(放射能泉基準を満たす):放射能泉
この組み合わせが、においと色を生み出しています。
新泉質名は基本的に
「(特殊成分・特殊性質)+主成分陽イオン+主成分陰イオン+泉」
で表記されます。
例えば、
ナトリウム-塩化物泉
含よう素-ナトリウム-塩化物泉
含鉄(Ⅱ)-カルシウム-硫酸塩泉
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩泉
などです。
「特殊成分=必ず泉質名に入る」わけではなく、法律で定められた基準値を超えた場合にのみ名称へ付加されます。
そのため同じ塩化物泉でも、
ナトリウム-塩化物泉
含よう素-ナトリウム-塩化物泉
含鉄(Ⅱ)-ナトリウム-塩化物泉
など複数のバリエーションが存在します。
温泉分析書を読むときは、
先頭の「酸性」「含硫黄」「含鉄」「含よう素」を見る
次に陽イオン(ナトリウム、カルシウムなど)を見る
最後に陰イオン(塩化物、炭酸水素、硫酸)を見る
という順番で読むと、その温泉の特徴がかなり把握できます。
pHの数値、主要成分の濃度(mg/kg)なども記載されており、「源泉掛け流し」「循環ろ過」の違いも記載されていることが多く、成分の鮮度を判断する手がかりになります。
温泉に行った際は、ぜひ立ち止まって読んでみてください。
◆硫黄の匂いの正体と、体への本当の影響
温泉といえば「卵が腐ったような匂い」を思い浮かべる方も多いでしょう。
これが硫化水素(H₂S)の匂いです。
草津温泉・箱根・登別など名高い温泉地の多くがこのにおいを持ちます。
硫化水素は「毒ガス」でもある
硫化水素は濃度が高まれば有毒ガスです。
火山ガスによる死亡事故でも知られており、1ppm程度でもあの独特の臭いを感じ、100ppmを超えると嗅覚麻痺、高濃度では死に至ることもある危険な物質です。
しかし、温泉で私たちが感じる濃度は、ほぼ安全な範囲内に管理されています。
問題は、源泉が溢れ出ている洞窟状の浴室や、換気の悪い密閉空間で長時間浸かり続けるケースです。
「硫黄臭が強い=強力な効能がある」と感じて長湯をするのは危険です。
硫黄泉が人気な科学的理由
硫黄泉には、皮膚への角質溶解作用があります。
硫化水素や亜硫酸が皮膚の角質層に働きかけ、いわゆる「美人の湯」とも言われる肌のすべすべ感をもたらします。
また、末梢血管を拡張させる作用があるため、血行促進・動脈硬化の予防・高血圧改善などが期待されます。
さらに近年の研究では、硫化水素ガスが低濃度で細胞保護・抗酸化作用を示すという報告も出ています。
一時は「毒」としか見られなかった成分が、今では「生体シグナル分子」として注目されているのです。
臭いから逃げずに、正しく付き合うことで恩恵が得られるのが硫黄泉です。
◆温泉の色「茶色・白・緑・黒」の意味
温泉の色は、成分が光に反応したり、空気に触れて酸化したりすることで生まれます。
湧き出た直後は無色透明でも、時間がたつと白濁や着色が起きることもあります。
色の変化は「成分が生きている証拠」とも言えます。
お湯の色と主な原因成分
白濁・乳白色:硫黄・硫化水素
草津・乳頭・那須
皮膚疾患・血行促進
湯船に出た瞬間に酸素に触れ、硫黄の粒子が白く変化します。
これぞ温泉!という贅沢な気分を味わえます。
「白ければ白いほど効く」というイメージがありますが、これは「濃度が高い」を意味することもあれば、単純に「空気に長く触れた」だけということもあります。
白濁の強さ=効能の強さ、とは必ずしも言えません。茶色・赤茶色: 鉄分(鉄イオン)
有馬(金泉)・城崎
貧血・神経痛・筋肉疲労
鉄分が空気に触れて酸化した「鉄の錆(サビ)」の色。
保温効果が抜群で、冷え性に悩む人には最高のパートナー。黒・灰黒色: 腐植質(フミン酸)
黒川・十勝川
保温・保湿・リラックス
数万年前の地層(泥炭層や亜炭層)に閉じ込められた「太古の植物」が、長い年月をかけて微生物に分解され、泥状になったものです。
世界的に見ても非常に珍しい。
無機質な成分(硫黄や鉄など)と違って、角質を溶かす力が強すぎず、非常に保湿力が高いのです。
見た目は衝撃的ですが、むしろ刺激は少ない部類です。緑・青緑色: 硫酸塩・鉄・銅
奥飛騨・蔵王
神経痛・末梢血管拡張
地中の成分が複雑に混ざり合い、光の反射で緑色に見えます。
肌のハリを取り戻す「美肌の湯」として有名です。無色透明: 単純泉・塩化物泉
箱根湯本・道後
保温・神経安定・疲労回復
成分が薄いわけではありません。
癖がなく、肌に優しい「万能泉」です。
◆「強い温泉」ほど注意が必要なケース
「成分が濃い=良い温泉」「強いにおい=よく効く」というイメージは、半分正しく、半分は誤りです。
強い温泉は作用が強い分、「禁忌症」入ってはいけない条件も厳しくなります。
すべての温泉に共通する一般的な禁忌症
急性疾患(発熱・感染症など症状が強い時期)
活動性の結核、悪性腫瘍
重篤な心臓病・腎臓病・呼吸器疾患
出血性疾患(出血中・術後まもない時期)
妊娠初期・末期(とくに硫黄泉・酸性泉は要注意)
硫黄泉・酸性泉に特有の注意
硫化水素は密閉空間で蓄積します。
換気が悪い浴室では、長時間浸かると頭痛・めまい・吐き気を引き起こすことがあります。
また、金属アレルギーのある方は、酸性の泉質によって金属イオンが溶け出すことで反応が出やすい場合もあります。
pH 2前後の強酸性泉では、金属製のアクセサリーが腐食します。
温泉に入る前に貴金属を外すのは、単なるマナーではなく化学的にも必要です。
「湯あたり」は何が起きているのか?
温泉に初めて入った翌日などに倦怠感・発疹・下痢などが出ることを「湯あたり」と言います。
これは一般的に、体が温泉の成分に適応しようとする好転反応と説明されることが多いですが、科学的にははっきりとしたメカニズムはまだ解明されていません。
確かなのは、
①長湯による体力消耗
②刺激の強い泉質による皮膚・粘膜への炎症反応
③自律神経の急激な変化
この3つが複合的に影響しているという点です。
「湯あたりは好転反応だから続けて入るべき」という俗説は危険で、症状が強い場合は入浴を控え、水分・休息をとることが先決です。
◆自分に合う温泉の選び方・チェックリスト
においと色を手がかりに、自分の体調・目的に合った温泉を選ぶための考え方を整理します。
温泉は「効能書きに書いてあるから大丈夫」ではなく、その日の自分の状態を確認してから入ることが基本です。
目的別・泉質の選び方
悩み・目的 :おすすめの泉質
冷え性・温まりたい :塩化物泉・二酸化炭素泉
避けたい泉質:強酸性泉(刺激大)美肌・肌荒れ: 硫黄泉・重曹泉(炭酸水素塩泉)
避けたい泉質:強酸性泉(乾燥悪化の可能性)疲労回復・リラックス :単純温泉・炭酸水素塩泉・黒湯
避けたい泉質:強刺激の硫黄泉・酸性泉神経痛・筋肉痛: 硫酸塩泉・塩化物泉・鉄鉱泉
避けたい泉質:強酸性(傷口への刺激)皮膚疾患(水虫など): 酸性泉・硫黄泉
避けたい泉質:単純温泉(殺菌力が低い)高血圧・血行不良: 二酸化炭素泉・硫黄泉
避けたい泉質:塩化物泉(塩分による負荷)
温泉に入る前のセルフチェック
体温・体調は普通か(発熱・体調不良時は不可)
食後すぐ・飲酒後ではないか
皮膚に傷・炎症・かぶれがないか(酸性泉・硫黄泉は特に注意)
薬を服用しているか(成分との相互作用に注意)
心臓・血圧の持病があるか(急激な温度変化に注意)
妊娠中ではないか
入浴中のポイント
まず「かけ湯」をして体を慣らす
最初は3〜5分の短時間浴から。強泉質なら1〜2分でも十分
においが強い浴室では換気を確認し、頭部が低くならないよう注意
入浴後は水分をしっかり補給(発汗で失われる水分は200〜500ml)
強い泉質(硫黄泉・酸性泉)はシャワーで軽く流すことも
◆まとめ
硫黄の匂いは、化学的には危険を持つ物質のサインです。
しかし、適切な環境と量であれば、血行促進・皮膚ケア・抗酸化作用という豊かな恩恵をもたらしてくれます。
「なんとなく怖い」「汚れていそう」と敬遠していた茶色いお湯や黒いお湯も、実はその色こそが成分の豊かさを示すサインです。
温泉は日本が世界に誇る「地球からの贈り物」。
においを感じたとき、色を見たときに、「なぜ?」という疑問を持てれば、温泉体験はがらりと変わります。
次に温泉に行くときは、ぜひお湯の色と匂いを意識してみてください。
それだけで、あなたは「温泉通」に近づいています!
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次回は「カフェイン」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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