ICT系メモ|ITは「コスト」から「投資」へ。日本の外食巨人ゼンショーが挑む内製化の波|IT系企業以外が進めるシステム内製化とその販売
一般的には製造や販売企業のIT部門は、外部ベンダーに開発を依頼し、その後の運用・保守を行う部門と見なされがちでした。
しかし、デジタル変革(DX)が加速する現代において、ITは企業の競争力を左右する「戦略的な投資」へと位置づけを変えています。
国内最大手の外食企業であるゼンショーホールディングス(以下ゼンショー)。すき屋やココス、はま寿司、ロッテリアなど、多くの外食チェーンを展開している企業です。
そのIT戦略を深掘りし、ITエンジニアを目指す者の目線で、なぜ巨大事業会社の内製IT部門が最高のキャリアフィールドとなるのかを解き明かします。
◆ゼンショーとは?
ゼンショーと言ってもピンとこない人もいるかもしれない(私も全勝って何とか思っていたので)ので簡単に説明します。
社名の由来、社長
1982年の創業時から使われる社名には「全部勝つ」という意味の「全勝」、「善なる商売」の「善商」、そして「禅の心で行う商売」の「禅商」という、3つの想いが込められています。
初代社長:小川 賢太郎(おがわ けんたろう)
1982年 創業時 〜 2025年6月。
創業者、現:代表取締役会長 兼 CEO(最高経営責任者)に就任。第2代社長:小川 洋平(おがわ ようへい)
2025年6月 〜 現任創業者の次男。
初代社長であり創業者の小川賢太郎氏は、その異色の経歴で知られています。
東京大学在学中に学生運動(全共闘)に関わり中退します。
その後、港湾労働などを経て、中小企業診断士の資格を取得し、いずれ牛丼チェーンのライバルとなる吉野家へ入社。
そして退職し、1982年にゼンショーを創業しました。
外食事業(レストラン・ファストフード)
牛丼・丼もの・うどん:
すき家 (Sukiya):牛丼チェーン(グループの看板ブランド)
なか卯:うどん・丼もの・和風ファストフード回転寿司:
はま寿司:100円寿司を中心とした回転寿司チェーンファミリーレストラン:
ココス (COCO'S):ファミリーレストラン(ハンバーグ、洋食)
ビッグボーイ:ハンバーグ・ステーキが主力
ヴィクトリアステーション:(北海道・東北などで展開されるビッグボーイブランド)パスタ・イタリアン:
ジョリーパスタ:パスタ・ピザを中心としたイタリアンレストラン
オリーブの丘:イタリアンレストラン焼肉・和食:
華屋与兵衛:和食レストラン
焼肉宝島:焼肉レストランラーメン・うどん:
伝丸:ラーメンチェーン
瀬戸うどん:讃岐うどん専門店コーヒー・カフェ
モリバコーヒー:フェアトレードコーヒー専門カフェファストフード:
ロッテリア:ハンバーガーを中心としたファストフードチェーン
小売事業(スーパーマーケット・その他)
マルヤ
ヤマグチスーパー
ジョイフーズ
マルエイ
ユナイテッドベジーズ(青果店運営)
他、地域に根差した複数のスーパーマーケットブランドを展開。
介護事業
かがやき
ロイヤルハウス石岡
シニアライフサポート
アイメディケア
海外展開の主力ブランド
海外でも、主に「すき屋:Sukiya」を中心に、中国、東南アジア、ブラジル、メキシコなどでグローバル展開しています。
また、海外で買収したシンガポール名物のチキンライスが食べられるマレーシア最大の専門店「The Chicken Rice Shop」など、現地ブランドの運営も行っています。
◆ゼンショーの事業構造を支える「MMD」とITの役割
ゼンショーの強みは多彩なブランドの展開もそうですが、原材料の調達から、製造・加工、物流、そして店舗での販売までを一貫して自社で企画・設計・運営する独自のビジネスモデル、「MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)」にあります。
IT部門であるグループIT本部のミッションは、まさにこのMMD全体をデジタルで最適化すること。
店舗システム:
POS、セルフオーダー、モバイルオーダーなど、顧客体験と店舗オペレーションの核。物流・製造システム:
在庫・発注量の最適化、サプライチェーン全体の効率化。本部システム:
会計、人事、各種データ分析基盤など、グループ経営の基盤。
ITはもはや単なる「業務を支えるツール」ではなく、MMDというビジネスモデルそのものの設計図を描く役割を担っています。
◆IT組織は「守りのIT」から「攻めのDX」へ
ゼンショーのIT体制は、DX推進を組織的に行うために明確に分化されています。
グループIT本部(直轄部門):
システムの企画、全体統括、内製化推進の中核。IT統括部、DX推進室、AI推進室といった専門部署を配置し、最新技術の導入や全社的なデジタル化を推進。
株式会社グローバルITサービス(GIS):
ゼンショーグループのIT開発・運用を専門に行う完全子会社。
内製開発・運用の実働部隊としての役割を担います。
この体制の注目点は、「DX推進室」「AI推進室」といった攻めのIT機能が本社直轄のIT本部に配置されている点です。
これは、ITが経営戦略と直結している証拠であり、ITエンジニアは最前線で事業変革に携われることを意味します。
◆なぜ、巨大企業は今「内製化」を急ぐのか?
ゼンショーは、「ベンダー依存を減らし、社内で仕様策定から開発・運用までを手掛ける体制」への転換を明確に打ち出しています。
その背景にあるのは、以下の3つの理由です。
事業スピードの確保:
M&Aや新業態開発が活発な中、外部ベンダーのペースに依存せず、必要なシステムを必要なタイミングで、迅速に立ち上げ・改善する必要性。現場とITの距離:
「ミニ券売機」の自社開発事例にもあるように、現場の課題(省スペース、キャッシュレス特化)を最も深く理解しているのは社内の人間です。
業務部門と開発部門が一体となることで、真に使いやすいシステムが実現します。技術力の蓄積:
基幹システムやデータ基盤のノウハウを外部任せにせず、自社の競争力として技術資産を蓄積し、次なる革新(AI活用、グローバル展開)につなげるため。
内製化の潮流は、ITエンジニアにとって、「ユーザーに最も近い場所」で、「自分の作ったものが事業に直結する手応え」を感じられる、最高のチャンスを提供しています。
◆システムの統一:「バラバラな業務プロセス」を標準化する
M&A(企業買収・統合)で成長を遂げたゼンショーグループには、ブランドや地域ごとに異なるPOSシステム、発注管理システム、会計システムなどが存在していました。
このシステムの混在は、運用コストの増大、データ連携の複雑化、そして迅速な経営判断の妨げとなります。
「システム統一」とは、単にハードウェアやソフトウェアを揃えることではありません。
多種多様なブランドの「業務プロセス」を、最も効率的で標準的な形に統一するという、経営・業務コンサルティングに近い非常に難易度の高い取り組みです。
1. グループ横断的なシステムと採用技術
この世界規模の統一プロジェクトを支えるために、ゼンショーIT部門では最新の技術が導入されています。
会計・基幹システム:
グループ横断の会計基盤として SAP HANA を導入。
高速なデータ処理とグループ経営のリアルタイム把握を目指す。データ基盤・クラウド:
店舗、工場、物流、本部から集まる膨大なデータを統合するクラウド基盤として AWS/Azure を活用。店舗・モバイルシステム:
セルフオーダー、モバイルオーダー、POS連携。C#, PHP, Java, JavaScript, iOS/Androidなど多岐にわたる言語を用いた内製開発。
これらの導入開発が行われている中で、ITエンジニアの必要性も増しています。
例えば
会計・基幹システム:
SAPコンサルタント/開発者が基幹システムと周辺システムとのデータ連携(API/ETL)設計など。データ基盤・クラウド:
クラウドインフラエンジニアがAWS/Azure設計・構築や、データエンジニアはデータパイプライン構築、ETL処理設計など。店舗・モバイルシステム:
フルスタック・モバイルエンジニアがUI/UX設計からバックエンド連携までを一貫して担当など。
特に「内製推進」の方針の下、エンジニアはベンダーへの指示出しだけでなく、自らコードを書き、クラウドインフラを設計し、運用保守まで担当するという、技術者としての成長機会に溢れています。
2. MMDの付加価値を高める「DX・AI推進」
システム統一が「守りのIT」の集大成だとすれば、「DX推進」と「AI推進」は「攻めのIT」です。
IoT・データ収集:
工場や物流拠点でIoTを活用し、設備稼働状況や在庫データをリアルタイムに収集。AI活用:
収集したデータを基に、需要予測、発注最適化、在庫管理の高度化を図ります。RPAによる効率化:
本部やバックオフィス業務の定型作業を自動化し、社員をより付加価値の高い業務にシフトさせます。
「DX・AI推進」で求められるITエンジニア像としては、
IoT・データ収集:
産業IoT/エッジコンピューティング エンジニア、IIoTセキュリティ エンジニアなど。
組込・エッジ開発として、 C/C++, Pythonなどを用いたエッジデバイスRaspberry Pi, 産業用PCなど)でのデータ処理開発。
MQTT, Modbus, OPC-UAなど産業用通信プロトコルの知識。
AWS IoT GreengrassやAzure IoT Edgeなどのエッジサービスを利用したデータ連携設計など。
OT(Operational Technology)ネットワークの知識、産業制御システムのセキュリティ(IEC 62443など)。
ネットワーク設計(VLAN、ファイアウォール)AI活用:
データサイエンティスト / 機械学習エンジニア、MLOps エンジニアなど。
Python(TensorFlow, PyTorch, Scikit-learn)、統計学、時系列解析、強化学習の知識。
SQL、データ可視化ツール(Tableau, Lookerなど)の習熟。
外食・小売業のサプライチェーンにおける季節性、イベント影響、廃棄ロスといったビジネス課題を理解した設計。RPAによる効率化:
ローコード/ノーコード プラットフォーム エンジニア、業務改善コンサルタントなど
UiPath, Automation Anywhere, WinActorなどのRPAツール:の利用経験。
業務フロー図の作成、ROI(投資対効果)分析、自動化対象の選定能力。
VBScript, Pythonなどの基礎的なプログラミング知識。
ローコード/ノーコード開発ツールの習熟、API連携、データモデル設計など。
これらの技術活用は、単なる店舗オペレーションに留まらず、原材料の「調達」から始まるサプライチェーンの上流工程にまで影響を与えています。
エンジニアは、現場の課題を技術で解決する「課題解決のプロフェッショナル」として、常に新しい技術をキャッチアップし続ける必要があります。
◆ゼンショーのITシステム外販構想
ゼンショーのIT部門は、単なる社内システム開発に留まらず、将来的に自社開発したシステムをパッケージ化し、同業他社や外部の店舗に販売することを目指しています。
これは、ITを「コスト」ではなく「投資」として捉え、最終的に「収益源」へと昇華させる戦略と言えます。
外販の対象となるのは、単なる汎用的なツールではなく、ゼンショーが長年のMMD運営を通じて培ってきた「業務ノウハウと一体化したシステム」です。
MMD(サプライチェーン)管理システム
原材料の調達ルート、製造・加工、物流、在庫管理、発注量の最適化ロジックなど、「安全基準を満たし、ムダを最小限に抑える」ためのSCMノウハウ。店舗オペレーションシステム
セルフオーダー端末、モバイルオーダー、POSシステム、マルチチャネル(テイクアウト/デリバリー)対応など、「業務効率化と省人化」を極限まで追求した店舗DXシステム。データ基盤・AIソリューション
店舗・物流・本部データを統合・分析するクラウドデータ基盤と、それを利用した高精度な需要予測AIなどのソリューション。
具体的な事例:「EVOLIO(エヴォリオ)」
ゼンショーは過去に、自社で使用していた生産管理システムの評価が高かったことから、これをツールとしてパッケージ化し、「EVOLIO(エヴォリオ)」という名称で展開した実績があります。
この事例は、内製システムを外販へつなげる同社のビジネスモデルの先駆的な例と言えます。
◆まとめ
ゼンショーのDX推進がユニークなのは、「現場(店舗、工場、物流)がシステムのユーザー」であると同時に、「現場がデータの発生源」でもある点です。
このため、どの領域のエンジニアであっても、技術的な深さに加え、業務のボトルネックを特定し、現場の人が本当に使える解を導き出す「課題設定力」が不可欠となります。
これが、ゼンショーが内製化にこだわる最大の理由であり、ITエンジニアにとって最大のやりがいとなるでしょう。
ゼンショーに限らず、製造販売業が内製化を進めていますので、「IT企業」だけでなく「IT部門」にも注目してみてはいかがでしょうか
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次回は【Adobe Fireflyで画像生成①】について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
ICT関係の日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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