タイBLドラマ日本リメイク版の「セリフ」ローカライズについて
前回日記から改めて書くつもりはなかったのだが、書いたあとにいろいろとドラマを見直したらやっぱり気になってしょうがないので、別で日記を書いておくことにした。読めばわかっていただけると思うが、ここに書く内容は決してタイBLドラマやそのリメイク作品を非難するものではない。ただの一個人としての要望である。
表題の件そのままになるが、BLドラマを見るようになってからものすごく気になっていることがある。それは海外ドラマを日本版にリメイクする際に「ローカライズ」という工程が存在するのか、存在するのであればどれくらいのリソースを割いているのか、という疑問だ。
ローカライズという言葉自体をドラマに使うことが適切なのかわからないのだが、私は海外のゲームの日本語化・ローカライズに関わったことが何度かある。パズルゲームやアクションゲームであれば、UIを日本語化したり、チュートリアルなどの文章を日本のゲームに準拠した言葉で翻訳したり、そこまで悩まなくて済む(とはいえ特にUIの日本語化は言語の特徴や複数の意味を持つ単語などがある場合直訳では通用しないことが多々ありこれはこれで難しい)。
大変なのはノベルゲームやセリフの多いRPGだ。ストーリーやキャラクターの性格、人間関係を違和感なくわかりやすく理解するためには、ほとんどの場合で意訳が必要になるし、まったく別の文章を考える必要も出てくる(韻を踏んだジョークや現地特有のことわざなど)。翻訳業がAIに100%置き換わることはないという説もこのローカライズという概念から来ている。
前置きが長くなったが、つまり言いたいのは「海外ドラマのリメイク作品はもう少しセリフのローカライズにリソースをかけるべきなのではないか」ということだ。
本当はもっと大胆に舞台設定などもローカライズを施してもいいのではと思っている。しかしこれは原作者の意向を伺わねばならないケースもあるだろうし、オリジナルの良さを生かすためにあえてローカライズしないという判断になっていると思っている。日本ではあまりメジャーでない文化をそのまま採用するのはその例だ(日本ではバイクの違法レースは50年ほど前をピークに衰退したし、曜日によってパンツの色を変える文化はない……など)。
反対に、どの作品においても明確にローカライズを施したと思える箇所が見られ、一定の基準で日本の文化・習慣を鑑みた調整を行っていることももちろんわかる。例えば、オリジナル版では食事の差し入れをそのままゴミ箱に破棄しているところを、リメイク版ではきちんと受け取っていたり(我々日本人はごはんを粗末にしない)、体調が悪い人の看病をするときはおかゆやゼリーやアイスをあげたり。それを考えると、日本人の「メシ」に対するこだわりってめちゃくちゃ強い。
こういった文化的背景のローカライズは、前述のとおりあえて施さずにいるパターンも多いように思う。それよりも手を付けやすく、しかし非常に手間暇がかかるのが「セリフ」のローカライズだ。
すべての作品において言いたいことはあるのだが、ここでは私が繰り返し見ているせいで気になってしまっている『Love in The Air-恋の予感-』をメインに感じたことを書きたい。
私の調査不足でなければいいのだが、ローカライズについてはクレジットでは専門の方がついていることが確認できていない。翻訳・またオリジナル版の字幕についても同じくだ(字幕は配給会社のC7内で作業されていると思われる)。オリジナル版の字幕については言うことはない。というか字幕って日本語が少々不自然でも、目で読む分には違和感を覚えにくい。演者さんの口からその言葉が出てくるわけではないからだ。
しかしリメイク版のセリフについては、慎重になる必要がある。日本語の話し言葉には主語や目的語を省略したり格助詞(~が、~に、~を)を省略する特質があり、特に友人・恋人同士のカジュアルな会話ではある程度このあたりに気を付けないとすごくよそよそしい、あるいは(演劇で効果を発揮するような)大げさな表現になってしまう。
というか、もうそういうことは置いておくとして、『Love in The Air-恋の予感-』のセリフはあまりにひどい。だってオリジナル版の字幕とまったく同じなんだもん。比較スクリーンショットを貼りたいくらいだが、お気に入りの作品をそうまでして貶めたいはずがないので未視聴の方には見ていただきたい。
(※オリジナル版のBlu-ray BOXに「タイ語の表現を可能な限りいかした特別字幕【まるわかり日本語字幕】が楽しめる」との記載があるので、字幕が複数パターンある可能性あり。未確認)
セリフのローカライズが十分でないことの何が問題かと言うと、ずばり演者さんの演技力の評価に直結してしまう。「不自然なセリフ」はそのまま「不自然な演技」として記憶に残るからだ。
この作品がなぜこんなことになってしまったかという原因は定かではないが、一番はスケジュールの問題であるように思う。監督・脚本は灯敦生氏・畑中みゆき氏のペアだが、公式サイトのコメントからしてもかなりコンパクトな制作スケジュールであったことが伺える。こればかりはどうしたらよいのかわからない。リソース(金・人)の問題なのか……。
同じくタイオリジナルのリメイク版である『Love Sea 〜愛の居場所〜』『The Boy Next World ~並行世界の恋人~』についても、程度はかなり小さいが同じ問題を感じる。
BLドラマは本業が俳優ではないアーティストの方が出演することも多い。初めての演技仕事になる方もいることを思うと、彼らのさらなる活躍のためにセリフのローカライズにはもっと慎重になるべきだと強く思う。今後このような海外作品のリメイク版の制作が増えるのであれば、ぜひこの部分に十分なリソースを割いてほしい。そうでないと、どんなに素敵な役者陣が揃っても宝の持ち腐れになる。
