20. 先生を探して
入園して間もない、春のある日。
朝の支度や園での活動にも少しずつ慣れてきた頃。
それでも、ふとした拍子にまた涙がこぼれる。
その日も、玄関のすみでしゃがみ込み、静かに泣いている女の子がいました。
私のクラス、ひよこ組の子です。
「〇〇ちゃん、どうしたの?」
そう声をかけると、涙をぽろぽろこぼしながら、こう言いました。
「……おねがい……
ひよこぐみのせんせい、さがしてきて……!」
――わたし、ここにいます。
心がふにゃっと溶けるような、
あったかさと、せつなさと、くすっと笑ってしまう気持ちが一度に押し寄せました。
「先生かな?」
そう言ってのぞき込んで顔を見せても、なぜか首を振る彼女。
それでも、
“先生を探して”って言ってくれたことが、なんだかうれしくて。
「わかった、探しに行こう!」
そう言って手を繋ぎ、一緒に廊下や玄関まわりを歩き回る。
.....いないね。
(だって、探し人は隣にいるわたしなのだから。)
ふと、水道の鏡の前に立ったとき。
鏡の中で、目が合いました。
すると――
「先生いたーーー!!」
やっと、見つかった。
「探してたんだよー」
そう言って、にっこり笑った彼女は、すっかり涙も止まっていました。
まだ“ひよこ組の先生=私”という認識が、
ちゃんとつながっていなかったんだね。
小さな心の中で、
一生懸命、安心できる場所を探していたんだと思います。
春は、出会いと戸惑いの季節。
でもその中で、少しずつ、少しずつ、
「ここにいれば大丈夫」と思える瞬間が増えていく。
あの日、鏡の前で見せてくれた満面の笑顔を、
私はきっと、ずっと忘れません。
