あの先生になりたくて#25 前例がない
ーー15年後ーー
あれからどんな道を歩いても、私の心の中にはいつもあの先生がいた。
夢は一度も揺らがなかった。
私は、あの先生のようになる――。
#25 前例がない
仕事は続けたい。でも、子どももほしい。
その気持ちは、やはり変わらなかった。
でも、「子どもを産んだあとも先生として働き続ける」という未来は、このときの私にはまったく想像できなかった。
園には前例がない。
妊娠しながら働く先生も、子どもを育てながら働く先生も、一人もいなかった。
妊娠したら何ができて、何ができなくなるのか。
重いものは持てるのか。
子どもを抱っこしても大丈夫なのか。
園バスには乗れるのか。
初めてのことばかりで、自分自身も分からないことだらけだった。
「退職」という二文字が、何度も頭をよぎる。
出産を経験した友人に話を聞き、本やインターネットで調べながら、何度も何度も考えた。
そしてたどり着いた結論は、
「辞めないとしても、一人担任のまま妊娠・出産を迎えるのは難しいかもしれない」ということだった。
今年度は責任を持って最後までやり切る。
そのうえで翌年度はクラス担任を外れ、複数の先生で担当する預かり保育へ異動できないか、上の先生に相談してみよう。
そう決めた。
そんなある休日、子育て中の友人に会った。
その友人は、こんな言葉をかけてくれた。
「これはあくまで親としての意見だけど、子育て経験のある先生が幼稚園にいるって、私はすごく安心するよ。保護者の立場から見たら、そんなに悪いことじゃないと思う。」
園では否定的な言葉ばかりを耳にしていた私にとって、その一言は張り詰めていた心を少しだけ軽くしてくれた。
でも、その安心は長くは続かなかった。
私が子どもを考えていることが職員に広まると、再び噂話が始まった。
「なんで辞めないの?」
「周りのこと考えてる?」
「自分のことしか考えてないよね。」
「バスはどうするの?」
「子どもが好きなら家庭に入るべきよね。」
「はっきり言って迷惑だよね。」
「今まで妊娠した先生なんていないのに。」
「私たちもどう接したらいいか分からない。」
そんな言葉を耳にするたび、私は何度も自分に問いかけた。
もしかしたら、みんなの言うとおりなのかもしれない。
子どもを望むことも、仕事を続けたいと願うことも、ただの私のわがままなのかもしれない。
結婚して働き続けるのとは、きっと訳が違う。
妊娠し、出産し、その先には子育てがある。
私がどれだけ頑張っても、周りにまったく迷惑をかけずに働き続けることは、おそらくできない。
そう思えば思うほど、自分の気持ちを口にすることさえ怖くなっていった。
否定的な声は続き、先生たちとの距離もまた広がっていった。
日々の会話は最低限。
結婚はなんとか受け入れてもらえた。
でも、さすがにもう、これ以上自分の思いを貫くことはできないのかもしれない。
子どもを望むことも、先生を続けたいと願うことも。
そのどちらかを諦めるしかないのかもしれない。
そう思い始めていた。
でも──
園長先生だけは、違った。
