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【連載】C-POPの歴史 第23回 King of C-POP 周杰倫(ジェイ・チョウ)について

中国、香港、台湾などで主に制作される中国語(広東語等含む)のポップスをC-POPと呼んでいて(要するにJ-POP、K-POPに対するC-POPです)、その歴史を、1920年代から最新の音楽まで100年の歴史を時代別に紹介する当連載。前回は'00年代(2000〜2009)の台湾から、男性ソロ&ユニットについて書きました。

今回は、男性ソロの中でもとびきり人気を得た、周杰倫(ジェイ・チョウ)について、なぜそんなに人気を得たのか、という切り口で考察してみたいと思います。


ジェイ・チョウこそKing of C-POPである!

C-POPの女王、Queen of C-POPは誰かというと、議論が分かれると思います。ある人はジョリン・ツァイ(蔡依林)だというだろうし、フェイ・ウォン(王菲)という人もいます。いやいやテレサ・テン(鄧麗君)こそふさわしいという人もいるでしょう。どのアーティストにもそれぞれうなずけるポイントはあります。でも、C-POPの王様、King of C-POPは誰かと問われたら、やっぱりジェイ・チョウ(周杰倫)を置いて他にいないように思います。彼の実績の一部を紹介しましょう。

2001年、デビューアルバム「Jay」が台湾で最も栄誉のある金曲獎の最優秀アルバムに選出され、その後、通算15回金曲獎を受賞します。全アルバムの総売り上げは3000万枚を超えると言われていて、これは台湾の人口よりも多いです。2022年、彼が発売したアルバム「最偉大的作品」は、初週だけで500万枚売れたと言われ、IFPI(国際レコード産業連盟)が、その年世界で最も売れたアルバムと認定しました。彼のYoutubeチャンネルのなかで、最も再生された「告白氣球 Love Confession」は、2025年現在2.6億回再生されています。

以下はアップルミュージックによる、2024年(去年)の中国大陸(当連載では中国本土と呼んでる、要は中国です)で聴かれた音楽の再生数TOP100です。ジェイ・チョウの曲は1位から11位まで独占しているだけでなく、トータルで100曲中47曲がジェイ・チョウの曲です。いやいや、いくらなんでも聴かれすぎ!笑

(そうは言っても同じランキングの2024年、台湾TOP100での登場回数は12曲にとどまってます。それでも恐ろしい記録。。。)

彼の人気は中華圏にとどまらず、2003年には、米国TIME誌の表紙を飾った最初のアジア人男性歌手になります。2006年には日本の東京国際フォーラムでコンサートを行い、1万人を動員しました。彼こそ、台湾が、いや中華圏が生んだスーパースターと呼ぶのにふさわしい存在です。

でもね、私が男性で、女性が恋愛対象ゆえかもしれませんが、ジェイの何がそんなにいいのか、あんまりよくわかってないところもあったんですよ。そこで今回は、ジェイ・チョウはなぜそんなに人気なのか、そしてジェイ・チョウのパーソナルについて、なんとなく俯瞰している立場から紐解いてみたいと思います。

スーパースターの家庭環境と音楽遍歴

ジェイ・チョウ(周杰倫)は、1979年、台北からやや郊外に入った、現在の新北市林口區に生まれます。現在でいえばちょうど桃園国際空港と台北市中心部の間ぐらいの立地ですが、生まれた当時はこのあたりは田舎だったことでしょう。父は生物学、母は美術の教師で、一人っ子。学校の先生の息子かつ一人っ子ということは、それなりに厳しくしつけられたのかもしれません。一方、両親は14歳のときに離婚し、18歳までは父と、18歳からは母と同居します。

子供の頃から音楽が大好きで、3歳でクラシックピアノを習い始めます。彼が現在まで一貫して持っている品の良さ、育ちの良さそうな雰囲気というのは幼少期に醸成されたように思います。一方で両親の離婚はご本人の性格に大きく影響を与えた気がします。ジェイ・チョウはすべての曲の3分の1ぐらいを自分で作詞していますが、作詞の部分でかなり影響があったんではないでしょうか。ジェイ・チョウの品の良さ(陽)と、一方でやや寂しげな感じというか、どこかで人のことを簡単には信用しなさそうな雰囲気(陰)。私が思うに、この陰陽のバランスこそジェイ・チョウの魅力かなと思いますので、その二面性はこのように生まれたのではないかと想像します。

ここで彼の音楽的な興味も触れましょう。ショパン、スティービー・ワンダー、ジャッキー・チュン、李恕權(デヴィッド・リー)などをフェイバリットに挙げています。正直、バラバラと言えなくもありません。ただ、ジェイ・チョウの曲をひとしきり聴いたあとにこれらのアーティストの並びを考えると、なんか分からなくもない気もします。ショパンに感じる静謐さ、心の奥に訴えかける感じはジェイ・チョウにも共通してるように思うし、スティービー・ワンダーはR&Bを代表する黒人アーティストではありますが、そういえば彼はピアニストです。彼の曲は展開がいかにもピアニストっぽいです。ジャッキー・チュンやデヴィッド・リーは言わずもがな、C-POPの王道であるバラードの名手と言えるでしょう。この中でも、特にショパンが彼に与えた影響は見過ごせないと思います。彼はポップシンガーですが、クラシックの要素が入ってると言われるとそうかもしれない、とファンなら思うでしょう。私もそう思います。

わりと順調なデビューと、すでに開花する非凡な才能

そんなジェイ・チョウ青年は、1997年に、歌唱コンクール番組に応募した同級生のためにテレビ番組でピアノを弾きました。これが人生で最初のテレビ出演。この番組の司会だった吳宗憲(ジャッキー・ウー)は彼のピアノに感銘し、彼を音楽業界に招待しました。

彼はまず、作曲家としてキャリアをスタートさせます。非常に独創的な曲をアーティストに提供したようです。たとえばあの阿妹(A-mei/当連載第10回参考)には、「忍者」という、のちに自身でセルフカバーした曲を提供します。残念ながらこの提供曲をA-meiは断ってしまいます。ちょっと忍者(ジェイ・チョウ版)を聴いみてください。

忍者/周杰倫(Jay Chou)(2001年)

「忍者」という日本の職業?文化?をモチーフにした曲だけあって、ところどころ日本語も使われていて、日本人にとってはなかなか面白い曲です。でも、なかなか癖のある曲を女性シンガーに提供しますよね。。。不思議な感性。

一方、当時のレコード会社の社長は「可愛女人」のメロディを偶然聴いて、彼をデビューさせろと吳宗憲にせがみます。だから彼のデビューアルバムの1曲目はこの曲なんです! 

可愛女人/周杰倫(Jay Chou)(2001年)

ちなみにこの曲に詞をつけたのはビビアン・スーです。ビビアン・スーは日本でも有名人ですが、タレントや歌手(ブラックビスケッツ)のイメージだと思います。台湾でも歌手やタレント、それに俳優も行っていますが、一方で作詞家としてもこのように活動していています。ビビアンの作詞家としての能力はC-POPリスナーにはぜひ知っておいてもらいたいところ。

この時点ですでに「忍者」を作るぐらいだからかなり独自性があり、それを他人に提供する勇気があったこと、一方で「可愛女人」のような王道かつ耳に残る曲も作っていて、つまり彼には若くして揺るぎない個性、そしてそれを形にする能力がすでに存在していたことになります。ちょっとちょっと。羨ましい才能なんですけど!

「可愛女人」も含まれた彼のデビューアルバム「Jay」は前述の通り金曲獎を受賞します。順調なすべり出し。

続く二枚目、「范特西」より、「安靜」を聴いてもらいましょう。

安靜/周杰倫(Jay Chou)(2001年)

彼の魅力の一つに、「忍者」のような個性的な曲と、「可愛女人」のようなポピュラーな曲を作ってしまえるという二面性があると思いますが、こちらは彼の王道と言える曲。サビに向かって盛り上がる、いかにもカラオケ向きな曲と言えそう。この曲も大きくヒットしました。

ちなみにこの曲はのちに2008年、S.H.E.によって「安靜了」としてリメイクさます。こっちもなかなかいい出来。

提供曲に見る、彼の内面、女性観

S.H.E.への提供曲が出てきたので、彼がこの時期、自身のアーティスト活動と並行してアーティストに提供してきた曲を一部振り返ってみましょう。たとえば、当時の女性トップシンガーの1人、ココ・リーにこのような曲も提供していました。

刀馬旦/李玟(CoCo Lee)(2001年)

こちらは「忍者」路線のちょっと独特な曲。刀馬旦とは、京劇に登場する女性の武士を指すそうです(中国語版Wikipedia)。ジェイ・チョウについてよく分からないのは、この不思議な世界観の曲を女性アーティストに提供して、自分はどちらかといえば売れ線の曲を歌っていたということです。普通逆でしょう?(笑)。これ、並のアーティストなら逆を選ぶと思います。発注に対しては王道の曲で返して、自分は世界観満載な曲を歌う。しかし我らがジェイ・チョウはそうしませんでした。

この流れで、ジョリン・ツァイに提供した曲も聴いてもらいましょう。

騎士精神(The Spirit of Knight)/蔡依林(Jolin Tsai)(2003年)

さて、阿妹に提供しようとした「忍者」(実現せず)、ココ・リーに提供した「刀馬旦(女性武士の役名)」、ジョリン・ツァイに提供した「騎士精神」。曲を並べて「ん?」と思ったのですが、名探偵でなくてもある共通点を見出せると思います。忍者と武士と騎士。アーメイ、ココ・リー、ジョリン・ツァイといえば、当時の台湾の女性歌手TOP3と言えるような人たちですが、それぞれにこんな世界観のある不思議な曲を提供しましたが、それ以上に、この3曲が中世の兵士をテーマにしているという共通点が気になります。

これは一般論ですが、男性の作曲家が女性の歌手に曲提供する際は、なるべく女性らしい曲を選ぶはずです。男性であれば自分が女性に対して服を選ぶときのことを想定してみてほしいのですが、なるべくかわいい服を選びたくなるものでしょう。さらに、作曲家が曲を作ったものの、自分で歌うには可愛らしすぎる、なんて場合も、女性に提供しようと思うはずです。しかし、ジェイ・チョウはそんなことはしなかった。

忍者、武士、騎士。どうやらジェイ・チョウは女性に強くあってほしかった。あるいは強い女性が好きだった。ここに彼の両親の離婚体験などを加えるとちょっと精神分析っぽくなっちゃうのでやめますが、とにかく彼の個性がありありと浮かび上がっています。

ジェイ・チョウから曲をもらったジョリンやココ・リーは、これらの曲を見事に歌いこなしました。今風に解釈すれば、これは彼なりのジェンダー論なのかもしれません。彼女たちを男たちの着せ替え人形にするつもりはなかった。どちらかといえば女々しい曲は、男である自分が歌うことにして、女性には誇り高い曲を提供しました。彼は当時の女性シンガーに「誇り」を感じていたのかもしれません。

ちなみにジョリン・ツァイの曲の作詞は本人、残りの2曲は盟友、方文山のペンによるものです。ただ、これだけわかりやすく共通点を見出せるということは、おそらく作詞家に発注する段階で、曲のテーマ、コンセプトを伝えていたと考えるのが自然でしょう。

周杰倫と、盟友・方文山

さて、本人のキャリアに戻りましょう。三枚目「八度空間」。八度とは、音楽用語のオクターヴを意味します。そのアルバムの中から、半獸人を聴いてください。

半獸人/周杰倫(Jay Chou)(2002年)

この曲もそうですが、彼はキャリアの早い段階からHip Hopを曲に取り入れています。Hip Hopのアーティストといえば、「悪そうに振る舞う」、「強そうに振る舞う」という特徴がありますが、育ちのいいピアニストにはそのような歌詞はちょっと似合いません。そこで彼は、曲の中でストーリーを用意し、本人はそのストーリーの語り部のような立ち位置の構造の曲にしました。このことでHip Hopの曲が持つboast感(誇らしさ)を表現しつつ、彼のキャラクターも壊さない曲に仕上がってます。技巧的な作りだと思います。

ちなみに、この曲の作詞は、ジェイ・チョウの曲の半分以上の曲の作詞を担当する方文山(ヴィンセント・ファン)によるものです。ジェイ・チョウより一回り年上で、彼とジェイの間には友情を越えた特別なパートナーシップがあったようです。まあ、要するに、ジェイ・チョウが表現したい世界観を、すごく具現化できる人だったのでしょう。

年の離れた周杰倫と方文山に何か共通点がないか探しましたがちゃんとありました。2人とも高い学歴を持っていないこと(二人とも高級中等學校卒。日本でいえば高卒に相当)、それにも関わらず、この2人の才能から感じるのは知性です。歌詞は直接的ではなくこの曲のように謎めいていて、曲はポップスなのにクラシックの影響も感じさせます。Hip Hopをやりますが、巷のラッパーのようなストリート感、ギャング感、ヤンキー感はありません。どちらかといえば図書館が似合うHip Hop。本当に怖いやつは、怖いやつのルックスをしていないかもしれません。普通に知的な顔をして、あなたの心を奪っちゃうかもよ。

とにかくこうして、ジェイ・チョウは、方文山という生涯に渡るパートナーにデビュー当時から会っていました。2人を引き合わせたのも吳宗憲(ジャッキー・ウー)です。

ジェイ・チョウを拡張した「爸 我回来了」と、「以父之名」。

爸 我回來了/周杰倫(Jay Chou)(2001年)

さて、Hip Hopの創世に関わったアメリカの偉大なラッパー、Public EnemyのChuck D(チャック・D)は、Hip Hopを、「黒人のCNN」と表現しました。この言葉はHip Hopのある面を表現しているということで大いに引用されることになります。つまり、ラップの歌詞とは、彼らの視点から見た世界の真実の表現ということでしょう。真実を伝えなければいけないからこそ、汚い言葉も無遠慮も許される。Hip Hopの表現には報道性、ドキュメンタリー性が宿っています。

「爸 我回來了」は、ジェイ・チョウによる社会派Hip Hopソングの一つ。テーマは家庭内暴力です。この曲では、みんなのために楽しい曲を歌い、エンターテイメントを行うジェイ・チョウから、一歩踏み込んで社会派な曲を歌います。「為什麼看到我的爸爸一直打我媽媽」(どうして父さんはずっと母さんを殴ってるんだろう)という衝撃の出だしから、家庭内暴力の様をありありと表現しています。

私はまた一つ、ちょっと違う視点から語りたいのですが、この曲を含むアルバム「范特西」(Fantasy)は彼の2枚目のアルバムでセルフプロデュースで、彼はこの頃、若干22歳です。もしもこれが日本の音楽界であれば、おそらくプロデューサーは別にいただろうし、そのプロデューサーは、アイドル的人気を誇る20代のアーティストが家庭内暴力をテーマにした曲を作ってきたら、これはいったん発売をやめておこうと考える気がします。当時の彼のメインのファン層は若い女性たちで、もっと「甘い曲」を聴きたがるとプロデューサーなら考えるはずだからです。でも、彼のキャリアを考えると、このような社会派ソングを早くから発表していたことでより幅広い活躍ができているだろうし、この曲が刺さる人にとっては、ジェイ・チョウは忘れ難い存在になると思います。ジェイ・チョウがジェイ・チョウである所以には、制作現場や環境に恵まれた点も非常に大きいと思います。

以父之名/周杰倫(Jay Chou)(2003年)

先ほどの「爸 我回來了」。そして本人の両親が離婚しているという事実を元に、ある憶測が生まれます。ジェイ・チョウの父は家庭内暴力を行っていたのではないか。彼自身はそれを否定し、その誤解を解く意図もあってか、「以父之名」という曲を書き上げます。これが父親像だとすれば、父は物静かに威厳を表現するタイプだったのでしょう。物静かな威厳というイメージは、「生物学(理科系)の教師」という父の職業的なイメージにも合致します。

厳かで抑制のある父の威厳を表現した曲調もさることながら、その発表のされ方にも注目が集まりました。彼のこの新曲は、アジア全域に広がる50のラジオ局で同時放送され、彼の新曲を世界で8億人が同時に聴取したという記録が残っています。父の誤解を8億人の前で解いた彼。ジェイ・チョウについていろいろ調べると感じるのは、彼の行動には何らかの意図を感じることです。単に目立ちたいから、という安直な理由で派手にプロモーションするわけではなく、そこには誤解を解くという意図が含まれていたりするわけです。

聽媽媽的話/周杰倫(Jay Chou)(2006年)

この曲は私も大好きな曲です。作詞は本人。この曲は、中国語の歌詞や、その日本語訳を読まなくても、リズムやメロディだけで楽しめるタイプの曲ではないでしょうか。素早くはねるような中国語のラップと、ゆるやかな歌唱を行ったりきたりするのが楽しい曲です。この曲は「ママの言うことをよく聞いて!」という曲。どうやら幼い自分自身に言い聞かせているようです。ジャッキー・チュンや、チョウ・ユンファなど、往年の香港スターが歌詞中に登場するのもユニークです。

この歌詞のなかで、「大きくなったらママを守れる」という表現が繰り返し出てきます。そしてこの歌詞は明らかに少年の頃のジェイに歌っている曲なので、「爸 我回來了」のように言い逃れ(?)はできません。このママとは実際のジェイのママを指すのでしょう。彼はママを何から守りたかったのでしょうか。やはりここも守ると言う表現から、ドメスティックバイオレンスをいやでも想起する表現なんです。彼はそのことを明確に否定してるんですが。。。ここで彼の実際の年表を振り返ると、離婚後14歳から父親と同居、そして18歳から母親と同居となっています。確かに大きくなったら(18歳になったら)母を守れます(同居できます)。さまざまなことの帳尻を合わせると、私個人の解釈としては「母を孤独から守りたかった」という意味だったとしておきたいです。彼の父の名誉のために示しておきますが、ジェイは暴力を明確に否定し、彼の父はのちに彼の映画に出演するなどしていて、少なくても現在は良好な関係を築いていると思われます。

実験精神と王道。そしてプロデュースセンス

名曲の多い彼ですが、ここで彼の代表曲を二曲一気に聴いてもらいましょう。

晴天/周杰倫(Jay Chou)(2003年)

東風破/周杰倫(Jay Chou)(2003年)

1曲目、「晴天」はジェイ・チョウ本人の作詞、(作曲も編曲も彼)による曲で、彼の代表曲の一つです。いかにもC-POPらしい、失った恋に対する思いを寄せた曲です。2曲目「東風破」も人気の高い曲で、中国風アレンジが気持ちいい曲。こちらも失った恋の曲ですが、もう少し時間が経っていて、古い思い出を懐かしく思い出すイメージ。どちらもC-POPのど真ん中という感じがする楽曲です。

この記事のテーマは「なぜジェイ・チョウはそんなに人気なのか?」にスポットを当てていますが、この曲のような、台湾人なら、C-POP好きなら誰でも好きそうな王道の曲と、「忍者」「半獣人」のような実験精神に溢れるエキセントリックな曲、あるいは「爸 我回來了」のような社会派な曲のバランスにあるような気がしています。ずっとこのような王道ソングばっかり歌っては、リスナーはやがて飽きるだろうし、一方で社会派ソングやエキセントリックな曲ばかりではセールス面で不安があります。思い切った奇抜さと王道をきっちり抑えるバランスは、曲調は違いますが、日本でいえばサザンオールスターズ、桑田佳祐なんかが思いつきます。「勝手にシンドバッド」のようなエキセントリックな曲があれば、「いとしのエリー」のような王道中の王道をきっちり抑える周到さがあり、そしてそのどちらの面も愛されているという点も同じです。あるいはビートルズ(「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の誰も聴いたことのないサウンド体験を目指した実験精神と、「ヘイ・ジュード」の有無を言わせぬ王道さ)と言ってもいいかもしれません。ちょっと褒めすぎ?笑

いやー、ずるいよジェイ。なんだよジェイ。スーパースターで才能にあふれて方文山みたいな心強い仲間がいて年間に何百億円も稼いで、私になんか奢ってくれよジェイ。

千里之外/周杰倫(Jay Chou)(2006年)

これは再び、中国風のサウンドをフィーチャーした作品。費玉清という、台湾の往年の民謡/流行歌手をゲストボーカルで迎えています。正直にいえば、この曲が発表された2006年において、1973年デビューの費玉清はやや古臭い歌手という面が否めないと思いますが、ジェイ・チョウのマジックにかかるとそんな彼が優しく蘇るようです。

ところで多才なジェイ・チョウは、のちに映画監督までやってのけるのですが、初監督作にして佳作「言えない秘密」(2007年)では、桂綸鎂(グイ・ルンメイ)という女性をヒロインに抜擢します。これがほんと適役中の適役。グイは現在は大人の女性という雰囲気ですが、「言えない秘密」の頃のグイは、いかにも学生っぽい透明感があります。どこか浮世離れした、消えてしまいそうな女性という役柄をこなしていますが、この人選は彼女以外あり得ないと思います。そんな彼女を抜擢したり、費玉清を突如抜擢したり、こういうブッキング、プロデューサー的センスも彼は持ち合わせていると思います。

「七里香」の歌詞分析

七里香/周杰倫(Jay Chou)(2004年)

もうおなかいっぱいかもしれませんが、最後にメインディッシュがあります。「七里香」。あらゆる名曲を出しているジェイ・チョウのなかでも、とびきりの名曲であり、間違いなく彼の代表曲だと思います。ジェイ・チョウと言わず、C-POP全体の代表曲の一つと言えるかもしれません。

なぜこの曲がこんなに愛されてるか考えたのですが、冒頭(開始16秒、タイトルバックが出るあたり)の懐かしい、おそらく古箏をフィーチャーした雰囲気のイントロの力が大きいと思います。あそこでまず心を掴んでます。古箏は日本の琴にも通ずる楽器なので、日本人からしてもどこか懐かしい雰囲気を体験できるはず。

次にこの曲は詞の美しさが挙げられると思います。この曲の詞は学校の教科書にも掲載されたそうですが、確かに教材としてぴったりだと思います。この曲の詞は、いつものパートナーである方文山による詞です。ポップスの詞は、ある意味で素人っぽい率直さがいい場合もあると思いますが(ブルーハーツの「リンダリンダ」みたいな)、この曲はいかにも、職業としての作詞家が作る玄人っぽい詞だと思います。かと言って理解が難しいわけではありません。中国語が理解できれば、情景がありありと浮かぶ曲です。

それでは、一応、職業としてライター・作家である私が、職業としての作詞家である方文山さんのこの美しい詞について、なるべく簡潔丁寧に良さを表現したいと思います。こういう美しい詩についてなぜ美しいのかを逐一説明することは非常に野暮な行為なのですが、これも職業的な業としてご理解ください。

この詞の見事さは、五感の訴え方にあると思います。曲のタイトルである七里香(Orange Jasmine)とは、ゲッキツという植物を指し、柑橘系でありつつジャスミンのような甘い香りもする植物です。ここでまず、ぐっと嗅覚に訴えかけるタイトルです。また柑橘系の植物は、いやでも味覚も刺激されます。そして、柑橘は恋愛の甘酸っぱさ、生々しさを暗喩しています。歌詞は、まるで脳内でカメラが移動するように、冒頭の「電線の上で喋る雀(鳴くを喋ると表現するところが粋ですが)」から、「手の中の鉛筆」へとしなやかに動きます。このような視点の変化が次々と登場し、とても映像的な、視覚が刺激される表現だと思います。そして、雀の鳴き声、雨が降る音、などの表現は聴覚を刺激します。秋刀魚、苺、トマトと次々と食べ物が自然に登場しますが、どれも季節と関連し、視覚、嗅覚、味覚に強く訴えかける食材ばかりであることが憎いです。最後に触覚が残っています。あんまり触覚が具体化する機会なんてないと思いきや、ああ、後半にさりげなく、私たちにとって何よりも強烈な触覚体験である「キス」が控えめに歌詞中に出てくるわけですよ。キスの直前で酸味の利いたトマトや七里香=柑橘系植物を出して、さりげなく唾液を誘発し、味覚から触覚に繋いでいることも非常にエロい高度なテクニックです。ああ、こんなことを真面目に解説している私はなんて野暮なんでしょう。でも大事なことだからあえて書くけど、キスとは相手の女性をパワーで征服する行為じゃなくさまざまな触覚を2人で共有する遊戯ですよ、青少年諸君。いやーん、手遅れですがこの記事はR15でお願いしますー。せめて記事の最後に配置しましたー。方文山さん、こんな罪な解説書いてごめんなさい。でも狙ってたっしょ?笑。

(襟を正してネクタイを締め直し軽く咳払いをして)いやほんと、方文山もジェイもただの天才なんです。セクシーで知的な天才。

まとめ(まとめきれない)

書き出してみるとジェイ・チョウという人はかなり見所(書きどころ)の多い人で、まだまだ書き足りませんが1万字を超えたのでここで終わります。この記事で取り上げたのはデビューから2006年までのジェイの曲だけです。ジェイは2022年に全曲新作のアルバムを出すなど今も精力的に活動していますので、これは彼の、ほんの前史だと思ってください。この先の曲が気になる方は、ぜひご自身でさまざまな曲を聴いて想像を働かせてみてください。私はもうお手上げ!笑

バックナンバー、次回予告

C-POP100年の歴史を振り返ってます! 23回目にしてようやく00(ゼロ)年代が終わり。次回からは激動の10年代(2010〜2019年)に入ります。



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