第15集 潮風と走る 漁師料理四季物語①(全5話+レシピ)
潮の香り、湯気のぬくもり、走る季節。
銚子から下田へ、港町の四季をたどりながら――
海の恵みと人の背中が、食卓に静かな力を運びます。
このショートストーリーは、HPで連載した5話をまとめています。
一気読みしたい方・レシピを保存して使いたい方におすすめです ♪
[物語の味を支えるスパイスはこちらです→
作者:ビリケン(ランニング社会学を研究する元漁師)
※「ランニング社会学」とは、走ることを通じて社会を観察し、社会を通じて走ることの意味を解き明かすこと
~前書き~
日本は海に囲まれた島国であり、その長い海岸線には無数の漁村が点在している。
それぞれの土地で育まれた漁師料理は、厳しい海の暮らしの中から生まれた知恵の結晶である。
漁師料理の特徴は、なによりもその素朴さと力強さにある。
海から揚がったばかりの魚介類を、手早く、無駄なく調理する。
塩気の強い海風に晒される漁師たちの身体が求める塩分と栄養をたっぷりと含んだ料理たちは、現代人にとっても新鮮な驚きと滋養を与えてくれる。
そしてそれは、ランナーにとっても有用なのではなかろうか。
郷土料理研究家でもある私は日本各地の漁村を巡り、その土地の空気を走って感じながら、伝統的な漁師料理に新たな息吹を吹き込んでみたいと思った。
「ランナーズスパイス」が、古き良き郷土の味にどのような変化をもたらすのか。
四季を通じて、人と食、そして土地との深いつながりを味わってみよう。
第一品 「春の潮騒」銚子
桜前線が房総半島を駆け抜ける頃、私は千葉県銚子市の海岸線を走っていた。朝の六時、まだ薄暗い空の下で、漁船のエンジン音が響いている。
私は料理人兼郷土料理研究家として、日本各地を巡っている。
ただの研究ではない。その土地を走り、空気を肺に取り込み、風を肌で感じて、その土地の料理を学ぶ。
それが私の流儀だ。
銚子の海は、今日も荒々しい。
私は港から続く細い道を走った。
アスファルトに残る塩の結晶が、朝日に光っている。
「おう、早いじゃないか」
漁協の建物の前で、磯野さんという初老の漁師が声をかけてくれた。
昨日、電話で約束していた人だ。
「今朝のイワシ、いいよ」
磯野さんの笑顔は、潮風に焼けて深い皺が刻まれている。その顔に、海の男の誇りが宿っていた。
「なめろうを作ってもらえると?」
「ああ、房州の漁師なら誰でも作れる。でも、うちの女房のが一番うまいんだ」
磯野さんの家は、港から歩いて五分ほどの高台にあった。潮風が家の隅々まで染み付いていて、玄関に足を踏み入れた瞬間から海の匂いが包む。
「お疲れさまです」
奥さんの房江さんが迎えてくれた。六十代半ばだろうか、日に焼けた手が物語る、長年の海の暮らし。
「なめろうってのは、もともと船の上で作る料理なんです」
房江さんが説明しながら、新鮮なイワシを三枚におろし始める。その手際は見事だった。
「船では火が使えないでしょう。だから包丁で叩いて、味噌と一緒に混ぜる。ご飯がなくても、これだけでお腹いっぱいになる」
イワシの身を粗く叩き、みじん切りにした青じそ、ねぎ、生姜と合わせる。そこに赤味噌を加えて、さらに叩く。
「ほら、味見してください」
差し出されたなめろうを口に運ぶ。
イワシの甘みと味噌のコク、薬味の清涼感が口の中で踊る。
これが漁師の味だ。
素朴で、力強い。
「ありがとうございます。私も作ってみますね」
翌日、私は一人で厨房に立った。
房江さんに教わった通りに材料を揃える。
そして、私の秘密兵器を取り出した。ランナーズスパイス。これは市販されているランニング愛好家向けの調味料で、疲労回復に効果があるとされる数種類のスパイスがブレンドされている。
これを少量、なめろうに加えてみよう。
【レシピ】ランナーズスパイス房州なめろう
<材料>(4人分)
・新鮮なイワシ
4尾(正味300g)
・青じそ 10枚
・長ねぎ 1/2本
・生姜 1片
・赤味噌 大さじ3
・ランナーズスパイス(hot)小さじ2
<作り方>
1. イワシを三枚におろし、皮を引いて骨を取り除く
2. 青じそ、長ねぎ、生姜をみじん切りにする
3. イワシの身を包丁で粗く叩き、2の薬味と赤味噌を加える
4. ランナーズスパイスを加え、さらに叩いて全体を混ぜる
5. 粘りが出るまでよく叩いて完成
スパイスの香りが加わることで、なめろうに新しい深みが生まれた。従来の素朴さを損なうことなく、どこか異国の風も感じられる。
これなら現代人の舌にも新鮮に映るだろう。
夕暮れ時、もう一度海岸を走った。今度は港から犬吠埼まで往復する。足音が砂浜に響き、潮風が頬を撫でる。
走りながら今日のなめろうを思い返す。
海の恵みを素朴に調理する知恵。
それに少しの工夫を加えることで、伝統は新しい命を吹き込む。
翌朝、磯野さんに私のなめろうを食べてもらった。
「おお、こりゃあいい」
磯野さんの顔がほころんだ。
「房江の作る味とは違うが、これもうまいな。なんか、体が温まる感じがする」
房江さんも頷いた。
「スパイスが入っているのね。少し辛いけど、でも嫌味がなくて、いい感じ」
私は胸の奥で何かが温かくなるのを感じた。伝統を受け継ぎながら、新しい可能性を見つけること。それが私の使命なのだと、改めて思った。
銚子を発つ前に、もう一度海岸を走った。今度は房江さんのなめろうの味と、私のなめろうの味を交互に思い浮かべながら。
どちらも大切な味だった。
伝統の重みと、革新の可能性。
その両方を胸に、私は次の土地へ向かった。
(銚子 なめろう)
なめろうという名前の由来は、あまりにもおいしくて皿までなめてしまうからだという。
そんなことを信じる人がいるのだろうか、と思いながらも、実際に食べてみると、なるほど、と頷いてしまう。
アジを包丁で叩いて叩いて、味噌と薬味を合わせる。単純なことなのに、どうしてこんなにも複雑な味になるのだろう。
銚子の漁師たちは、船の上でこれを作って食べた。
潮風の中で食べるなめろうは、きっと格別だったに違いない。

第二品 「夏の陽炎」焼津
梅雨が明けた七月、私は静岡県焼津市にいた。
早朝四時、小川港は既に活気に満ちている。しらす漁船が次々と入港し、港全体が魚の匂いと男たちの掛け声で沸き立っていた。
私は港周辺の道路を走った。
潮風に混じって、魚を加工する工場からの香ばしい匂いが流れてくる。
焼津と言えば黒はんぺん。
三百年の歴史を持つこの郷土料理で、本物の漁師の知恵を学びたかった。
「おう、東京から来たっていう人かい?」
仲買人の佐々木さんが声をかけてくれた。五十代前半、日焼けした顔に人懐っこい笑顔を浮かべている。
「ああ、今朝のサバとイワシは最高だよ。棒受網で揚がったばかり」
佐々木さんが指差すサバは、まだ目に生命力が宿っている。銀色の体が朝日を反射して、美しく輝いていた。
「黒はんぺんってのは、もともと漁師が船でも食べられるように工夫した料理なんだ」
佐々木さんが説明してくれる。
「サバやイワシを骨ごとすりつぶして、保存も利くし、栄養も満点。昔の漁師の知恵の塊さ」
佐々木さんの案内で、港近くの老舗かまぼこ店を訪れた。
そこの大将、田中さんが伝統的な黒はんぺんを作ってくれるという。
「本物の黒はんぺんは、石臼で挽くのが基本だ」
田中さんは七十代の職人だった。
長年この道一筋で生きてきた人の持つ、静かな威厳がある。
「機械で挽くのと違って、魚の繊維を壊さずにすり身にする。だから食感が違うんだ」
田中さんが新鮮なサバとイワシを石臼に入れ、ゆっくりと挽いていく。骨ごと挽くため、独特の黒い色合いが生まれる。
その手際は、まさに職人技だった。
「塩を加えて、よく練る。これが昔からの作り方だ」
出来上がった黒はんぺんを茹でて、そのまま食べさせてもらう。魚の旨みが凝縮された、力強い味だった。プリプリとした食感と、どこか懐かしい風味。
「漁師はこれを汁物にして食べることが多かった」
田中さんが続けて黒はんぺんの汁物を作ってくれる。黒はんぺんを手でちぎって出汁に入れ、野菜と一緒に煮込む。
シンプルだが、滋養に富んだ一品だ。
翌日、私は自分で黒はんぺんの汁物に挑戦した。田中さんに教わった通りに材料を準備し、そして、いつものようにランナーズスパイスを使って、アレンジを加えてみた。
【レシピ】ランナーズスパイス風黒はんぺんの汁物
<材料>(4人分)
・黒はんぺん 6枚
・大根 150g
・人参 80g
・長ネギ 1本
・昆布だし 800ml
・味噌 大さじ3
・ランナーズスパイス
大さじ1
・青ネギ 2本
・生姜 1片
<作り方>
1. 大根と人参は短冊切り、長ネギは斜め切りにする
2. 黒はんぺんは手で一口大にちぎる
3. 昆布だしに野菜を入れ、柔らかくなるまで煮る
4. 黒はんぺんを加えて5分煮込む
5. 味噌とランナーズスパイス、すりおろし生姜を加え、青ネギを散らす
ランナーズスパイスに含まれる黒胡椒とコリアンダーが、黒はんぺんの魚の旨みを引き立てる。また、クミンの異国的な香りが新しいアクセントになった。
伝統的なすり身汁に、現代的なスパイスの魅力が加わった一品だ。
夕方、焼津の海岸を走った。
遠州灘に沈む夕日が、海面を金色に染めている。
走りながら、今日学んだ黒はんぺんのことを考えた。
漁師たちが限られた食材を無駄なく活用し、栄養価の高い保存食を作り出した知恵。
それが時代と共に洗練され、今では静岡県を代表する郷土料理になった。
でも、その根底にあるのは、海の恵みへの感謝と、工夫することの大切さだ。
田中さんに私のすり身汁を食べてもらった。
「ほう、これはまた変わった味だな」
田中さんがゆっくりと味わいながら言った。
「スパイスが効いてるが、黒はんぺんの味を邪魔してない。面白いアイデアだ」
佐々木さんも試食してくれた。
「これなら若い人にも受けそうだね。伝統的な味も大事だが、新しい工夫があってもいい」
焼津の夏は暑く、走る私の体からは汗が吹き出した。でも、その汗にも海の塩分が混じっているような気がした。この土地の空気を吸い、この土地の人たちと触れ合うことで、私自身もその土地の一部になっていく。
最後の夜、港近くの居酒屋で佐々木さんたちと酒を飲んだ。
黒はんぺんフライ、生のイカ、アジの干物。
どれも焼津の海が育んだ味だった。
「また来いよ」
佐々木さんが私の肩を叩いた。
「次は違う季節に来て、違う魚を味わってみな」
私は頷いた。
次はどの土地の、どの季節を走ろうか。
ランナーズスパイスの可能性も、まだまだ広がりそうだ。
(焼津 黒はんぺん)
黒はんぺんは、サバやイワシの骨ごとすり身にしたものだ。
関東の人は白いはんぺんしか知らないから、初めて見ると驚く。灰色がかった色をしていて、確かに美しくはない。でも、魚の旨味が凝縮されている。
焼津では、おでんに入れるのが定番だが、そのまま焼いて生姜醤油で食べても美味しい。
見た目で判断してはいけない、という人生の教訓のような食べ物である。

第三品 「秋の彼岸」気仙沼
十月の半ば、私は宮城県気仙沼市にいた。秋刀魚漁で賑わう港町は、復興の槌音と共に新しい活気を見せている。早朝のランニングコースは、津波で被害を受けた海岸線だった。
今は立派な防潮堤ができているが、その向こうに広がる海の表情は、どこか厳しい。
「おはようございます」
港で声をかけられた。
千田さんという漁協の方だった。
五十代後半、温厚そうな顔立ちだが、目の奥に海の男の強さを宿している。
「今朝は秋刀魚がよく揚がりましたよ」
千田さんが指差す秋刀魚は、青い背中が美しく光っている。脂がのって、見るからに美味しそうだ。
「気仙沼の秋刀魚は、生で食うのが一番。でも、漁師料理なら『秋刀魚のすり身汁』も美味いですよ」
千田さんの家で、奥さんの美津子さんがその料理を教えてくれることになった。気仙沼の古い住宅街を抜けて、海を見下ろす高台の家に向かう。
「すり身汁っていうのは、船で食べる料理なんです」
美津子さんが説明してくれる。
六十歳前後の女性で、話し方に気仙沼の温かい方言が混じる。
「秋刀魚をその場でさばいて、身をすり鉢ですって、汁にする。野菜も一緒に煮るから、栄養満点なんですよ」
美津子さんの手際を見ていると、長年この料理を作り続けてきた経験が滲み出る。秋刀魚を三枚におろし、骨を丁寧に取り除く。そして、身をすり鉢に入れて、すりこぎで練っていく。
「すり身にするときは、少し塩を加えるのがコツ。そうすると粘りが出て、汁に入れても崩れにくくなる」
すり鉢の中で、秋刀魚の身が白いペースト状になっていく。そこに細切りにした大根、人参、ごぼうを加えた出汁を注ぐ。
「最後に味噌で味を調えて、青ネギを散らします」
出来上がったすり身汁は、秋刀魚の旨みが凝縮された深い味わいだった。
すり身の食感と野菜の甘み、味噌のコクが調和している。
「これが漁師の知恵ですね」
私は感動していた。
新鮮な魚をその場で調理し、野菜と組み合わせて栄養バランスを取る。
船の上という限られた環境で生まれた、合理的で美味しい料理だ。
翌日、私は自分でこの料理にアレンジを加えてみた。基本は美津子さんに教わった通りに作り、最後にランナーズスパイスを加える。
【レシピ】ランナーズスパイス秋刀魚のすり身汁
<材料>(4人分)
・ 新鮮な秋刀魚 3尾
・大根 100g
・人参 50g
・ごぼう 50g
・昆布だし 800ml
・味噌 大さじ3
・ランナーズスパイス
小さじ2
・青ネギ 2本
・塩 小さじ1/2
<作り方>
1. 秋刀魚を三枚におろし、皮と骨を取り除く
2. すり鉢に身と塩を入れ、粘りが出るまでする
3. 野菜を細切りにし、昆布だしで煮る
4. 野菜が柔らかくなったら、すり身を一口大に丸めて加える
5. 味噌とランナーズスパイスを溶き入れ、青ネギを散らす
ランナーズスパイスのコリアンダーが、秋刀魚の脂っぽさをさっぱりとさせる。黒胡椒は味にアクセントを加え、クミンの香りが異国的な深みを演出する。
伝統的なすり身汁に、新しい風味が加わった。
午後は、津波の被害を受けた地域を走った。まだ更地のままの場所もあるが、新しい建物も立ち始めている。
走りながら、この土地の人々の強さを感じた。
夕方、千田さんに私のすり身汁を試食してもらった。
「おお、これはいい味だ」
千田さんの顔がほころんだ。
「スパイスが入っているのに、秋刀魚の味がしっかりしている。美津子の作る味とはまた違うが、これもまた美味い」
美津子さんも頷いた。
「体が温まりますね。寒い季節にはいいかもしれません」
気仙沼の夜は、思いのほか冷える。
宿に戻る前に、もう一度港近くを走った。
防潮堤の上から見る夜の海は、静かで深い。
この土地の人々は、厳しい自然と向き合いながら、美味しい料理を生み出してきた。
そして、大きな困難にも負けずに、また立ち上がろうとしている。
私の小さなアレンジが、そんな人々の心に少しでも新しい風を吹き込めたなら幸いだ。
ランナーズスパイスの可能性も、この土地で新たな一面を見せてくれた。
翌朝、気仙沼を発つ前に、最後のランニングを楽しんだ。
今度は海岸線ではなく、山間部のコースを選んだ。紅葉が始まった山々を眺めながら、私は次の目的地に思いを馳せた。
季節はもうじき冬になる。
(気仙 沼秋刀魚のすり身汁)
秋刀魚の季節になると、気仙沼では骨を丁寧に取り除いてすり身にし、汁物にする。
秋刀魚のすり身は、意外なほどふわふわとしている。塩気のある汁に浮かぶすり身団子は、まるで雲のようだ。
漁師町ならではの贅沢な食べ方だと思う。
都会では秋刀魚といえば塩焼きだが、こんな食べ方もあるのだということを、もっと多くの人に知ってもらいたい。

第四品 「冬の凪」輪島
十二月の能登半島は、雪雲に覆われていた。
私は石川県輪島市で、日本海の荒波を眺めながら朝のランニングを楽しんでいる。
輪島の朝市で有名なこの町は、冬の海の恵みでも知られている。
「寒いのに、よく走りますね」
輪島漁協の組合長、山田さんが声をかけてくれた。七十歳を超えているが、背筋がぴんと伸びた立派な方だ。
「今の時期なら、ズワイガニとブリが最高ですよ」
山田さんが港を案内してくれる。
冬の日本海で揚がったズワイガニは、身が締まって甘みが強い。
ブリも脂がのって、刺身にしても焼いても美味しい。
「輪島の冬の漁師料理と言えば、『ブリ大根』と『かに汁』です」
山田さんの家で、奥さんの文子さんがその両方を作ってくれることになった。
輪島塗で有名な職人街を抜けて、海を見下ろす古い家に向かう。
「ブリ大根は、ブリのアラを使うのが基本です」
文子さんが説明してくれる。
七十代前半の女性で、能登の方言が心地よい。
「アラには一番旨みが詰まってるんです。それと大根を一緒に煮込むと、大根にブリの味が染み込んで、何とも言えん美味しさになる」
文子さんがブリのアラを霜降りにして、臭みを取る。その手際は見事で、長年の経験が滲み出る。大根は厚めに切って、面取りをしてある。
「煮込むときは、最初は強火で、沸騰したら弱火にする。じっくりと時間をかけるのがコツです」
醤油、酒、みりん、砂糖で味付けし、落し蓋をして煮込む。だんだんと大根が透明になり、ブリの旨みを吸い込んでいく。
「かに汁の方は、ズワイガニの殻も使います」
文子さんが別の鍋でかに汁を作り始める。ズワイガニの身は丁寧にほぐし、殻は出汁を取るために使う。
「殻を煮込むと、とてもいい出汁が出るんです。これに味噌を合わせると、冬の体が温まる汁物になる」
かにの出汁に白菜、豆腐、長ネギを加えて煮込み、最後に味噌で調味する。かにの身も加えて、青ネギを散らせば完成だ。
どちらの料理も、冬の能登半島らしい力強い味わいだった。
ブリ大根は魚の旨みが大根に深く染み込み、かに汁は海の恵みの甘みが存分に味わえる。
翌日、私はこれらの料理にランナーズスパイスを使ったアレンジを加えてみた。
【レシピ】ランナーズスパイスブリ大根
<材料>(4人分)
・ ブリのアラ 500g
・大根 600g
・昆布だし 600ml
・醤油 大さじ4
・酒 大さじ3
・みりん 大さじ2
・砂糖 大さじ1
・ランナーズスパイス
小さじ2
<作り方>
1. ブリのアラを霜降りにして臭みを取る
2. 大根は3cm幅の輪切りにし、面取りする
3. 鍋に昆布だしとブリのアラを入れ、強火にかける
4. 沸騰したら大根を加え、調味料とランナーズスパイスを入れる
5. 落し蓋をして弱火で1時間煮込む
【レシピ】ランナーズスパイスかに汁
<材料>(4人分)
・ズワイガニ(茹で) 2杯
・白菜 200g
・豆腐 1丁
・長ネギ 1本
・昆布だし 800ml
・味噌 大さじ4
・ランナーズスパイス 小さじ2
・青ネギ 2本
<作り方>
1. ズワイガニの身をほぐし、殻は出汁用に取っておく
2. 鍋に昆布だしとかにの殻を入れ、15分煮込む
3. 殻を取り出し、白菜、豆腐、長ネギを加える
4. 野菜が柔らかくなったら、味噌とランナーズスパイスを溶き入れる
5. かにの身を加え、青ネギを散らす
ランナーズスパイスの香りが、ブリ大根に微かな甘い香りを加える。
かに汁には、特に黒胡椒とコリアンダーが新しいアクセントを与えた。
どちらも伝統的な味わいを損なうことなく、現代的な風味が加わった。
夕方、輪島の海岸を走った。
冬の日本海は荒々しく、波が防波堤に激しくぶつかっている。
走りながら、今日学んだ料理のことを考えた。
輪島の冬の料理は、厳しい季節を乗り越えるための知恵が詰まっている。
栄養豊富で体を温め、家族の絆を深める。
そんな料理に、私のスパイスが新しい魅力を加えられたなら嬉しい。
山田さんに私の料理を食べてもらった。
「これは面白い味だな」
山田さんがゆっくりと味わいながら言った。
「スパイスが効いているが、ブリやかにの味を邪魔していない。冬の体にも良さそうだ」
文子さんも頷いた。
「なんだか体がぽかぽかしますね。スパイスの効果でしょうか」
輪島の冬の夜は長い。
雪が舞い始めた街を歩きながら、私は四季を通じて学んだ漁師料理を振り返った。
春の銚子、夏の焼津、秋の気仙沼、そして冬の輪島。
それぞれの土地で、それぞれの季節に最高の海の恵みがある。
そして、それを活かす漁師の知恵がある。
私のランナーズスパイスは、そんな伝統に新しい息吹を吹き込む小さな試みだ。
走ることで感じる土地の空気と、そこで生まれた料理。
そこに現代的なスパイスの魅力を加えることで、古き良きものと新しいもののつながりを作りたい。
明日は新しい土地へ向かう。
季節はまた春に戻る。
日本の海岸線には、まだまだ知らない漁師料理が眠っているはずだ。
(輪島 ブリ大根とかに汁)
輪島の冬の味覚といえば、ブリ大根である。能登の寒ブリは脂がのっていて、大根との相性が抜群だ。ブリの旨味が大根にしみ込んで、大根がまるでブリのような味になる。
不思議なことだ。
輪島塗りの器に盛られたブリ大根は、まさに冬の芸術作品のようである。
輪島では、ズワイガニを使った味噌汁も名物だ。カニの殻から出る出汁は、他では味わえない深い味わいがある。身を食べた後の殻を捨てずに使うのは、もったいない精神の現れだろう。一杯の汁の中に、日本海の恵みが凝縮されている。

第五品 「春の始まり」下田
翌年の三月、私は伊豆半島の南端、静岡県下田市にいた。
河津桜が満開の頃で、港町には春の訪れを告げる暖かい風が吹いている。
下田と言えば金目鯛。
この深い赤い魚は、伊豆の海の宝石とも呼ばれる。
早朝のランニングコースは、下田港から爪木崎までの海岸線だった。
朝日が海面を金色に染め、遠くに大島の影が見える。
足音がアスファルトに響く中、潮風が頬を撫でていく。
「おはようございます」
港で出会ったのは、三代続く漁師の家系に生まれた鈴木さんだった。四十代半ばの男性で、人懐っこい笑顔が印象的だ。
「今朝の金目鯛、いいのが揚がってますよ」
鈴木さんが指差す金目鯛は、目が大きくて美しい赤色をしている。
深海魚らしい上品な顔立ちだ。
「下田の金目鯛料理と言えば、煮付けが定番ですが、漁師料理なら『金目鯛のあら汁』も美味いんです」
鈴木さんの家で、奥さんの由美子さんがその料理を教えてくれることになった。
下田の古い町並みを抜けて、港を見下ろす坂の上の家に向かう。
「あら汁っていうのは、金目鯛の頭とアラを使った汁物なんです」
由美子さんが説明してくれる。三十代後半の明るい女性で、関西弁が少し混じる話し方をする。
「金目鯛は高級魚だから、身は刺身や煮付けにして、アラは捨てずに汁物にする。これが漁師の知恵なんです」
由美子さんが金目鯛の頭を二つに割り、エラと血合いを取り除く。アラも同様に下処理して、霜降りにする。
「臭みを取るのが一番大事。それから昆布だしでじっくり煮出すと、とてもいい出汁が取れるんです」
鍋に昆布だしと金目鯛のアラを入れて火にかける。沸騰したらアクを丁寧に取り除き、弱火で煮込む。だんだんと鍋の中が白濁して、金目鯛の旨みが出汁に溶け出していく。
「野菜は大根とネギだけ。シンプルな方が、金目鯛の味が引き立つんです」
大根は短冊切りにして、長ネギは斜め切りにする。出汁が取れたら野菜を加えて、味噌で調味する。
「最後に青ネギを散らして完成です」
出来上がったあら汁は、金目鯛の上品な甘みが詰まった深い味わいだった。大根が魚の旨みを吸い込んで、ほっとする優しい味になっている。
「これが下田の春の味ですね」
私は感動していた。
高級魚の金目鯛を無駄なく使い切る知恵。そして、シンプルな調理法で素材の味を最大限に引き出す技術。
翌日、私はこの料理にランナーズスパイスを使ったアレンジを加えてみた。金目鯛の上品な味を活かしながら、スパイスで新しい魅力を引き出したい。
【レシピ】ランナーズスパイス金目鯛のあら汁
<材料>(4人分)
・金目鯛のアラ(頭・骨)
1尾分
・大根 200g
・長ネギ 1本
・昆布だし 800ml
・白味噌 大さじ3
・ランナーズスパイス
大さじ1
・青ネギ 2本
・柚子の皮 少々
<作り方>
1. 金目鯛のアラを霜降りにして臭みを取る
2. 昆布だしにアラを入れ、弱火で30分煮込む
3. 大根は短冊切り、長ネギは斜め切りにする
4. アラを取り出し、野菜を加えて柔らかくなるまで煮る
5. 白味噌とランナーズスパイスを溶き入れ、青ネギと柚子の皮を散らす
ランナーズスパイスのコリアンダーが、金目鯛の甘みを引き立てる。
上品な香りを添え、黒胡椒が味にメリハリを与える。
柚子の皮との組み合わせで、春らしい爽やかさも演出できた。
午後は、下田の歴史ある街並みを走った。
ペリー来航の地として有名な下田には、古い洋館や寺社が点在している。走りながら、この町の歴史と、海の恵みの豊かさを感じた。
夕方、鈴木さんに私のあら汁を試食してもらった。
「これは新しい味ですね」
鈴木さんが驚いた表情で言った。
「金目鯛の味はそのままに、なんだか上品なスパイスの香りがする。これなら料亭でも出せそうだ」
由美子さんも頷いた。
「体が温まるし、なんだか元気が出る感じがします。ランナーズスパイスの効果でしょうか」
下田の夜は、思いのほか静かだった。港町特有の潮風の匂いと、春の花の香りが混じり合っている。
宿に戻る前に、もう一度海岸を歩いた。
明日で下田を発つ。
四季を通じて日本各地の漁師料理を学び、ランナーズスパイスでアレンジしてきた旅も、一つの区切りを迎える。でも、これは終わりではない。
日本には、まだまだ知らない漁師料理がたくさんある。
私の旅はこれからも続く。
走ることで土地を感じ、その土地の料理を学び、新しい可能性を見つけていく。
それが私の使命であり、生きがいなのだ。
最後の夜、下田の居酒屋で地元の人たちと金目鯛の煮付けを食べながら、私は次の目的地を考えていた。
九州の漁師料理はどうだろうか。
それとも北海道の海の幸を学んでみるか。
可能性は無限だ。
ランナーズスパイスと共に、私の旅はまだまだ続いていく。
(下田 金目鯛のあら汁)
下田の金目鯛は、その名の通り目が金色に輝いている。美しい魚だが、あら汁にすると、その美貌は跡形もなくなる。
しかし、味は格別だ。
金目鯛の骨や頭から出る上品な出汁は、まさに海の宝石のようである。
伊豆の温泉宿で飲むあら汁は、旅の疲れを癒してくれる。
金目鯛という魚は、見た目も味も、どこか上品で気品がある。
そんな魚に出会えるのも、港町ならではの幸せなのかもしれない。

~後書き~
四季を通じて日本各地の漁師料理を巡ってきた。
銚子のなめろう、焼津の黒はんぺん、気仙沼の秋刀魚のすり身汁、輪島のブリ大根とかに汁、そして下田の金目鯛のあら汁。
それぞれの土地で、それぞれの季節に育まれた料理たちは、海の恵みと人間の知恵の結晶である。
漁師料理の最大の特徴は、その実用性にある。限られた食材と調理器具で、栄養価が高く、保存の利く料理を作る必要がある。
そこから生まれたのは、無駄のない合理的な調理法と、素材の味を最大限に活かす技術だった。
現代において、これらの伝統的な料理に新しい息吹を吹き込むことは、単なる革新ではない。
それは伝統と現代をつなぐ橋渡しの役割を果たす。
ランナーズスパイスという現代的な調味料を使うことで、古き良き味に新しい魅力を加え、より多くの人々にその価値を伝えることができると信じている。
また、各地を「走る」ことにも深い意味がある。
走ることで土地の空気を肌で感じ、その土地の自然環境や気候を体験する。これは料理を理解する上で欠かせない要素である。
料理は単なる食べ物ではなく、その土地の自然と人々の暮らしが生み出した文化なのだから。
日本の漁師料理は、地域ごとに異なる海の環境と、そこに住む人々の創意工夫によって育まれてきた。
これらの料理を次の世代に伝えていくためには、伝統を守ると同時に、現代に合った新しい価値を見出していく必要がある。
本作品が、読者の皆様にとって日本の豊かな食文化を再発見する契機となれば、これ以上の喜びはない。
そして、実際に各地を訪れ、その土地の空気を感じながら、本物の漁師料理を味わっていただければと願っている。
*** おわり ***
