見出し画像

第25集 走れ、幸吉━━ある補給係の記憶━━|第四話 疲れ切ってしまって

作者:ビリケン(ランニング社会学*を研究する元漁師)


第四話 『疲れ切ってしまって』

一九六七年の晩秋、幸吉が補給棟に書類を取りに来た。
用件が済んでも、すぐに帰らなかった。窓の外のグラウンドを、しばらく見ていた。誰も走っていない、夕暮れのグラウンドを。

「何も言えませんでした。タイムが出ないこと、体が言うことを聞かないこと、メキシコが近づいていること。全部わかっていました。わかっていて、何も言えなかった」

北川は台所で豚汁を温めて、椀に注いで渡した。余りがあったから、と言って。

「幸吉は立ったまま飲みました。体が温まります、とだけ言って、椀を返しました。返した椀が、きれいに拭われていた」

北川はそこで少し黙った。

「温まれ、と思いました。それだけです。言葉にすると薄くなるから、言いませんでした」

幸吉が兄に宛てた手紙の内容を、北川は後年、幸吉の兄から聞いた。
一線クラスとしてこれ以上続けるのは無理であります。弱音でもなんでもありません、と書いてあった。

「弱音じゃない。あれは報告です。全部使い切った男の、静かな報告でした」

私はその夜、豚汁を作った。ごぼうと大根と人参とこんにゃく、豚バラをごま油で炒めて、だし汁で煮て、味噌を溶いた。最後にランナーズスパイスをひとさじ。スパイスが味噌の甘みを引き締めた。
立ったまま飲みたくなる汁だ、と思った。

【レシピ】スパイス豚汁

<材料>
・豚バラ肉 150g
・大根、人参、ごぼう、こんにゃく 各適量
・味噌 大さじ3
・ランナーズスパイス 小さじ2
・だし汁 800ml
・ごま油 少々

<作り方>
1.鍋にごま油を熱し、豚バラ肉と根菜類を炒める。
2.だし汁を加えて具材が柔らかくなるまで中火で煮る。
3.火を止める直前に味噌を溶き、ランナーズスパイスを加えてひと混ぜする。

スパイス豚汁

夕暮れの補給棟に残る湯気が、今も静かに立ち上ります。
味噌の香りになじみやすく、汁物や根菜料理にも合わせやすいスパイスです。
スパイス公式SHOPへ→

▶ 次の話 【走れ、幸吉━━ある補給係の記憶━━|第五話 遺書の中の食べ物】は、7/27(月)20:00に公開予定!

*「ランニング社会学」とは、走ることを通じて社会を観察し、社会を通じて走ることの意味を解き明かすこと


いいなと思ったら応援しよう!