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第25集 走れ、幸吉━━ある補給係の記憶━━|第二話 銅色の夜

作者:ビリケン(ランニング社会学*を研究する元漁師)


第二話 『銅色の夜』

一九六四年十月、東京オリンピックのマラソン最終種目の夜、北川は国立競技場のスタンドにいた。
休暇を取って、一人で来た。
補給担当が観に行くことに意味があるわけではない。
ただ行かなければならない気がした、と北川は言った。

「夜の照明が白くて、芝が異様に緑でした。となりに知らない老人が座っていて、ずっと手を組んでいました。全員が何かを待っている、そういう空気でした」

アベベが入ってきた。
ローマの裸足の男が、今度はシューズを履いて現れた。拍手が波のように広がり、その波が収まらないうちに、もう一人の影が競技場に走り込んできた。
幸吉だった。

「最初、誰かわからなかったんです。脚が違いました。42キロを走り切った脚の消耗の深さが、全身に出ていた。それでも足音は同じでした。あの静かな足音が、スタンドまで届いてくる気がしました」

その後ろからヒートリー。
イギリスの男は競技場に入ってから残していた脚を一気に動かした。幸吉にはその脚がなかった。持っていなかったのではなく、42キロの道路の上に全部置いてきていた。

「立ち上がって何か叫んだんですが、何を叫んだか今も思い出せません」

抜かれた。
幸吉はそのままゴールを越えて、地面に沈んだ。
銅メダルだった。

「表彰台の幸吉は微笑んでいました。その微笑みが、笑顔に見えなかった」

北川は静かにそう言った。
その夜、北川は競技場近くの食堂で一人飯を食った。店は沸き立っていた。メキシコでは金だ、という声があちこちから上がった。
帰り道、屋台で鰤の照り焼きを買った。刻みねぎを添えてもらって、祝いだと思いながら食べた。

「なぜか苦かったんです。味じゃなくて……その…気持ちが」

私はその夜、鰤を焼いた。
醤油とみりんで照りを出して、白ねぎを薄く切り、ランナーズスパイスとごま油で和えて添えた。スパイスの香りが脂の甘みを引き立てた。
北川が言っていた苦さが、少しだけわかった気がした。

【レシピ】鰤の照り焼きのスパイスねぎ添え

<材料>
・鰤(切り身) 2切れ
・醤油 大さじ2
・みりん 大さじ2
・酒 大さじ1
・砂糖 小さじ1
・長ねぎ(白い部分) 1本
・ランナーズスパイス 小さじ1/2
・ごま油 少々

<作り方>
1.鰤に醤油、みりん、酒、砂糖を合わせたたれをまぶし、10分ほど置く。
2.フライパンで両面をこんがり焼き、たれを絡めながら照りを出す。
3.薄切りにした長ねぎにランナーズスパイスとごま油を和えて添える。

鰤の照り焼きのスパイスねぎ添え

国立競技場の灯りの向こうに、静かな足音の余韻が残ります。
魚の旨みを引き立てやすく、焼き魚や照り焼きにも合わせやすいスパイスです。
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▶ 次の話 【走れ、幸吉━━ある補給係の記憶━━|第三話 よしこという名前】は、7/20(月)20:00に公開予定!

*「ランニング社会学」とは、走ることを通じて社会を観察し、社会を通じて走ることの意味を解き明かすこと

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