冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四話 #DDDVM
「現状はわかりました。ですがわかっていることはあまりにも少ない。現場検証の実施は避けられないと考えておりますが……」
「ああ、それね。君の助手君に行ってもらいたい」
イルギス大臣の吐き出した言葉に、私はたっぷり一分は沈黙し、爪の腹で目頭を抑え、自分の聴覚に入ってきた内容をこれ以上無いほど精査した。いっそ裏があれば、という私の期待はもちろんかすりもしなかったわけだが。飄々とした態度で私からの回答を待つ大臣に、聞こえない様に深く深く嘆息すると回答を告げた。
「ワトリア君、この場から退出してもらって結構。私達はこの件から手を引いたほうが良いだろう」
「い、良いんですか?」
「良いも何も、今までまともに攻略出来た者がいない迷宮の、さらに奥深くに君を送り込むのを承諾するほど私は薄情では無いつもりだ」
私が自分で探索できれば何の問題も無いのだが、完全な透視・千里眼については私自身目下研究中であり、最低でもなにがしかのレンズは現地に持っていってもらわないといけない。では冒険者であれば良いかというと、あまり信用のおけないならず者に、自分の秘術を預けたくはないのが私の本音だ。付け加えると、グラス公は間違っても私が探索出来る様な造りではないと聞いている。入れるのは精々人間大が限界だという。
憮然としてきっぱり断る私に、騎士は眉尻を釣り上げ、陛下は硬い表情まま押し黙り、そしてこの食えない大臣は何ら動じずに次の言葉を紡ぎ出す。
「まあ待ちたまえよドラゴン君、難攻不落、前人未到の迷宮というのはグラス公が存命の時の話だとも。彼の迷宮としての性質については、君はどの程度把握しているかな」
「伝説として伝聞されている範囲にとどまります。実体については無知といっていいでしょう」
「じゃあ説明させてもらうとしよう、なあに、非公開の知識をただで聞けるんだから損はないぜ?」
彼の口の上手さを考えれば、ここは会話を強引に打ち切って退出するのが正解ではあるだろう。だがここは王家の謁見室であり、私達の眼の前には依然として女王陛下が座しておられる。下手に不躾な振る舞いは行えないところだ。
「彼の迷宮としての難易度を跳ね上げているのは、一重に彼が生ける迷宮だったからでな。内部構造はそれこそ朝令暮改、子供の積み木細工よりも早く入れ替わり、罠も必要とあればいつでも生やせて、哀れな犠牲者を逃さず仕留めるといった塩梅さ。もっとも公は元来温情な方であるからして、侵入者は無力化されて外に吐き出されるのが精々ではあったがね」
「公が停止した事で、迷宮としての危険度は大幅に低下していると?」
「そこは一長一短っつーところだとも。公が停止しているということは、要するに迷宮内部で遭難、もしくは行動不能になってもグラス公の救助は期待できんということと同義でね。下手を打てば、君の助手は助からんのも事実さ」
「ふむぅ……」
ここで死の危険なぞ一切ない、と言ってこないのは彼のせめてもの誠意の現れといったところだろうか。人を喰った態度を崩さない人物だが、さりとて非道でもない。とはいえ、危険な冒険であるのは事実だ。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四話:終わり|第五話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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