冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三話 #DDDVM
「まずは、状況についてお聞かせ願いたいのですが」
「そうそう、そうこなくっちゃ。陛下、ワタクシめから説明して構いませんな?」
大臣の確認に、陛下は黙して頷く。はらりと灰銀の髪が一筋舞った。
「事件が起こったのはおおよそ三日前の晩、グラス公の顔に見張りとしてついていた兵から異変が知らされた訳だ。いわく、公がうめき声をあげた後に沈黙し、こちらの語りかけに答える事がなくなったとね」
「見張りとおっしゃいましたね?」
「そうとも、グラス公は我が王国との盟約により、その体内に忌々しい遺物どもを保管してくださっている。そう、現在進行でな。見張りなどつけずとも、今まで独自に彼の中を踏破出来た者はいないそうだが……まあ念の為というやつだ」
いけしゃあしゃあと現状を語ってみせたイルギス大臣は、そこまで言って大きく嘆息してみせた。公の死は不遜に見える彼にとっても頭の痛い問題のようだ。
「彼の協力があれば、迷宮内部の探索はスムーズであったと」
「その通りだとも、迷宮どころかホテルの趣さえあっただろうよ。彼の案内を通して我が国は厄介極まりないが、さりとて始末するのも難しい厄介物を彼の体内の奥底へと保管させてもらっていたわけだが……わかるだろう?」
フフンと鼻を鳴らす大臣。今説明した内容から、彼らが何に難儀しているかもわからない様では、私はお役御免というわけだ。すっとぼけてワトリア君と共に退場しても良かったのだが、さりとて悠久の時を経たはずの大先輩の死、その謎をちらつかされて引き下がれるほど、私も物分りが良いわけでもなかった。
「あなた方が懸念されている通り、これは他殺でしょう」
私の言葉に、陛下の麗しい顔立ちはやおら険しい表情を刻んだ。
「グラス公はすでに長い時を経てきた存在です。それがただ不慮の問題で停止したというのは、ありえるでしょうが可能性としては低いでしょう」
「そう、それだ。だーが、見張りが言うには誰も公の中には侵入しなかったと証言している。今まで誰も攻略出来なかったグラス公を、見張りに気づかれる事なく攻略した輩がいるとすれば、一体全体どうやってやり遂げたのか……実に頭の痛い問題だろう」
「ですが、現に彼は停止しており、そして動機となりうる物もあるわけです。彼が保管している過去の遺物群だ」
遺物、レリック……そう呼ばれる物品が、この世界には多数存在している。アンティクラトルの歪曲環、千の陽と万の夜の書、断罪者の携えし悔悟の剣、などなど、今あげた代物はアルトワイス王国管理の物ではないが、どれ一つとっても国一つひっくり返す事など容易いと、そう世界に信じられている。
「その通り。下手人からすれば、公の腹の中は宝の山に見えても、まーしょうがないだろう。詳細な目録こそ公表はしていないものの、我が国が厄介物を彼に預けていた事自体は公然の秘密であるからして、な」
動機は明確、自然死の線は限りなく薄い。だが問題は、如何様にしてそれがなされたのか……犯人は、姿を見せることなく生ける迷宮の奥深くへと侵入し、グラス公の息の根を止めてから目的の遺物を持ち去ったのか。何もかもが謎だ。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三話:終わり|第四話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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