第5回 論文・特許・実験データにはどのAIを使うとよいか:研究開発者のためのツール選び入門
論文を読みます。
特許を確認します。
実験データを整理します。
技術報告書にまとめます。
研究開発の仕事では、同じ「調べる」でも、扱う情報の性質が大きく違います。
論文は、研究の背景や方法、結果を読み解く作業です。
特許は、請求項や実施例から権利範囲や技術思想を整理する作業です。
実験データは、数値、条件、ばらつき、異常値を見ながら、次の判断につなげる作業です。
これらをすべて同じAIツールで処理しようとすると、うまくいかない場面が出てきます。
ChatGPTに論文PDFを丸ごと読ませればよいのでしょうか。
Copilotで全部まとめればよいのでしょうか。
NotebookLMに資料を入れれば終わるのでしょうか。
Perplexityで検索すれば十分なのでしょうか。
そう単純にはいきません。
研究開発でAIを使うときは、「どのAIが優れているか」よりも、「今の作業は何をしたいのか」を先に決めておくと進めやすいです。
最初から最適なツールを選べなくても大丈夫です。作業ごとに少しずつ試しながら、一緒に使い分けを整理していきます。
この記事では、論文、特許、実験データを扱うときに、どのAIツールをどの場面で使うかを整理します。
この記事で扱うこと
この記事では、研究開発者がAIツールを選ぶときの基本的な考え方を扱います。
対象にするのは、主に次の作業です。
論文を探す
論文PDFを読む
複数の論文を比較する
特許公報を読む
請求項や実施例を整理する
実験データの扱い方を考える
技術報告書や説明資料に落とす
ここで扱うAIツールは、ChatGPT、Microsoft Copilot、NotebookLM、Perplexity、Gemini、GitHub Copilot、Codexです。
ただ、この記事はツール紹介ではありません。
研究開発の作業を起点に、どのAIに何を任せるかを整理する記事です。
研究開発者の困りごと
研究開発の現場では、情報量が増え続けています。
論文は増えます。
特許も増えます。
社内資料も増えます。
実験データも増えます。
一方で、検討に使える時間は増えません。
新しいテーマを任されたとき、最初に困るのは「どこから調べるか」です。
論文検索から入るのか、特許から見るのか、競合企業の動きから調べるのか。
入口を間違えると、調査に時間を使ったわりに、判断材料がそろいません。
また、論文や特許を読んでも、次のような問題が残ります。
要約はできたが、自分のテーマにどう関係するのか分からない
似た論文を複数読んでも、違いを整理しきれない
特許公報を読んでも、請求項と実施例の関係が見えにくい
実験データを眺めているが、次に見たい観点が定まらない
上司や関係部署に説明するための筋道が作れない
AIは、こうした作業のすべてを代行するものではありません。
ただ、情報を整理し、比較し、論点を見つける作業では、役に立つ場面があります。
AIを使うと何が変わるか
AIを使うと、研究開発の仕事が「楽になる」というより、作業の順番を変えられます。
これまでは、まず人が資料を読み込み、自分でメモを作り、比較表を作り、報告書の構成を考えていました。
AIを使う場合は、最初から完成した答えを求めるのではなく、次のような中間作業を任せます。
調査の入口を広げる
資料の要点を抜き出す
複数資料の比較軸を作る
不明点を一覧にする
技術報告書の骨子を作る
上司に説明する順番を整理する
研究開発者が見たいのは、AIの結論そのものではありません。
AIが出した整理結果をもとに、「この論点は妥当か」「この比較軸は抜けていないか」「この説明で判断できるか」を確認することです。
経験のある研究開発者ほど、この確認ができます。
だからこそ、40代・50代の研究開発者にとって、AIは単なる時短道具ではなく、思考を整理する相手になります。

今回使うツール
研究開発の作業ごとに、AIツールの役割を分けて考えます。
Perplexity
Perplexityは、技術動向や最新情報を調べる入口として使います。
たとえば、新しい材料、製造方法、規制動向、競合企業の発表など、Web上の情報を確認したいときに候補になります。
ただ、Perplexityで得た情報を、そのまま技術判断に使うのは避けたいです。
出典を確認し、一次情報に戻りたいです。
NotebookLM
NotebookLMは、手元の資料を読み込ませて、内容を整理する作業に向いています。
論文PDF、特許公報、学会要旨、社内で扱える公開資料などを入れ、資料に基づいて質問する使い方が中心になります。
論文や特許を「要約して終わり」にせず、比較、抜け漏れ確認、論点整理に使いたい。
ChatGPT
ChatGPTは、考えを整理し、比較表や報告書の骨子を作る作業に向いています。
論文の読み取り結果、特許の整理メモ、実験データの概要などをもとに、比較軸を作ったり、説明の順番を整えたりできます。
ただ、根拠資料そのものを確認せずに、ChatGPTの出力だけで判断するのは避けたいです。
Microsoft Copilot
Microsoft Copilotは、会社員の実務に接続しやすいです。
Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teamsなど、日常的に使う環境の中でAIを使える場合があります。
ただ、機能は会社の契約、管理者設定、利用アプリ、会議設定によって変わります。
Teams会議の要約に使える場合もありますが、すべての会社で同じように使えるわけではありません。
会社導入済みであっても、すべての情報を入力してよいわけではありません。
会社ルールと契約条件を確認しておきたいです。
Gemini
Geminiは、Google系の環境を使っている場合に候補になります。
Web調査、長文処理、Google Workspaceとの連携が使える環境では、調査や文章整理の補助として使えます。
ただ、会社でGoogle Workspaceを使っているか、個人アカウントで使っているかによって、扱える情報は変わります。
GitHub Copilot
GitHub Copilotは、コード作成や修正を支援するツールです。
研究開発者にとっては、CSV処理、ファイル名の整備、簡単なPythonスクリプト作成などで候補になります。
本格的なソフトウェア開発だけでなく、実験データの前処理やファイル整理で使う場面があります。
Codex
Codexは、コードやファイル操作を伴う小さな業務を依頼する相手として考えます。
たとえば、CSVを読み込んで整形する、Markdownファイルを整理する、フォルダ内のファイルを処理する、といった作業です。
「研究開発業務を丸ごと任せる」というより、作業手順が明確な小さな処理に切り出して使います。
作業別に見るAIツールの使い分け
ここからは、研究開発の作業ごとに、どのAIを使うかを整理します。
1. 新しい技術テーマを調べ始める
新しいテーマを任されたときは、いきなりChatGPTに聞くより、まず情報源を確認したいです。
この段階では、Perplexityが入口になります。
たとえば、次のような調査です。
最近の技術動向
主要企業の発表
規制や政策の動き
レビュー論文や解説記事の候補
研究開発テーマに関係するキーワード
ここでの目的は、答えを出すことではありません。
調査の地図を作ることです。
Perplexityで見つけた情報は、必ず出典を見ます。
企業サイト、論文、特許、官公庁資料、学会資料など、根拠となる情報に戻ります。
AIがまとめた文章だけを根拠にするのは避けたいです。
この段階でのプロンプト例は次のようになります。
次の技術テーマについて、研究開発の一次調査として確認したい観点を整理してください。
テーマ:
〇〇
知りたいこと:
1. 技術の概要
2. 最近の研究動向
3. 主な企業・研究機関
4. 関連する論文やレビュー論文の探し方
5. 関連する特許を探すときのキーワード
6. 調査時に注意したい点
注意:
出典を確認できる情報を優先し、断定しすぎない形で整理してください。2. 論文PDFを読む
論文PDFを読む段階では、NotebookLMが候補になります。
論文をAIに読ませるとき、単に「要約してください」と依頼すると、一般的な要約で終わりやすいです。
研究開発者が知りたいのは、要約だけではありません。
この論文は何を解決しようとしているのか
実験条件は何か
自分のテーマに使えそうな知見は何か
限界はどこか
先行研究との差分は何か
再現や応用を考えるときの注意点は何か
このような問いを立てて読みたいです。
NotebookLMに論文PDFを入れたら、次のように聞きます。
この論文について、研究開発テーマへの利用可能性を判断するために整理してください。
整理してほしい項目:
1. 研究目的
2. 対象材料・対象技術
3. 実験条件または解析条件
4. 主な結果
5. 著者の主張
6. 実務で参考になりそうな点
7. 適用時に注意したい点
8. 追加で確認したい原文箇所
注意:
本文中の根拠箇所に基づいて整理してください。
不明な点は不明と書いてください。このように、研究開発で判断したい項目を先に指定します。
すると、論文を「読んだ気になる」のではなく、判断材料として整理しやすくなります。
3. 複数の論文を比較する
複数論文の比較では、NotebookLMとChatGPTを組み合わせます。
NotebookLMでは、各論文に基づいて情報を抜き出す。
ChatGPTでは、その整理結果をもとに、比較表や論点を作ります。
ただ、ChatGPTに論文本文を直接入れるかどうかは、利用環境と社内ルールを確認しておきたいです。
公開論文であっても、社内の研究テーマ、未公開の評価結果、出願前のアイデアと結びつける場合は注意しておきたいです。
比較表を作るときの観点は、次のように置けます。
対象技術
実験条件
評価指標
主な結果
先行研究との差分
自分の検討テーマに関係しそうな点(公開可能な範囲)
追加で読みたい箇所
判断に使うには不足している情報
プロンプト例は次のとおりです。
以下は、複数の論文を読んだメモです。
研究開発テーマへの利用可能性を比較するため、表形式で整理してください。
比較したい観点:
1. 論文の目的
2. 対象技術
3. 実験条件
4. 主な結果
5. 強み
6. 限界
7. 実務で参考になる点
8. 追加確認が必要な点
注意:
メモに書かれていない内容は推測で補わないでください。
判断が必要な箇所は「要確認」としてください。
論文メモ:
(ここに各論文の整理メモを貼る)4. 特許公報を読む
特許公報を読むときは、AIに権利判断を任せるのは避けたいです。
特許では、請求項、明細書、実施例、比較例、効果の記載などを整理しておきたいです。
ただ、権利範囲、侵害可能性、特許性、出願方針の判断は、知財部門や専門家と確認する領域です。
AIに任せるのは、あくまで論点整理までにとどめます。
特許公報を読むときは、NotebookLMで公報に基づいて整理し、ChatGPTで確認項目や相談論点に整える流れが使えます。
プロンプト例は次のようになります。
この特許公報について、研究開発者が知財部門に相談する前の論点整理としてまとめてください。
整理してほしい項目:
1. 技術分野
2. 解決しようとしている課題
3. 請求項で中心になっている構成
4. 実施例に記載されている内容
5. 効果として述べられている点
6. 研究開発上、確認したい点
7. 知財部門に相談したい論点
注意:
権利範囲や特許性の最終判断はしないでください。
本文に書かれていない内容は推測しないでください。特許公報は、読み慣れていないと文章量に圧倒される。
AIは、読む順番を作る補助にはなります。
ただ、判断そのものを任せる相手ではありません。
5. 実験データを整理する
実験データでは、AIの使い方をさらに慎重に考えたいです。
実験データには、未公開情報、ノウハウ、特許化前情報、顧客情報、共同研究先との契約情報が含まれる場合があります。
個人契約のAIに社内の未公開データを入れるのは避けたいです。
会社支給AIであっても、会社ルールと契約条件を確認しておきたいです。
実験データでAIを使う場合、まずは実データを入れずに、会社ルール上許可された範囲で次のような形から始めます。
公開データで試す
架空データで処理手順を確認する
項目名を一般化して相談する
解析方針だけを壁打ちする
CSV処理のコードだけを作る
たとえば、次のような依頼であれば、実データを入れずに考え方を整理できます。
実験データの解析方針を検討しています。
実データは貼りません。
データ構成:
- サンプルID
- 条件A
- 条件B
- 測定値1
- 測定値2
- 測定日
- 備考
確認したいこと:
1. 解析前に確認したいデータ品質
2. 外れ値を確認するときの観点
3. 条件ごとの比較で注意したい点
4. グラフ化する前に決めたいこと
5. 報告書に書きたい注意点
研究開発者向けに、チェックリスト形式で整理してください。このように、実データではなく、データ構造や確認観点を相談します。
実際のデータ処理が必要な場合は、会社で許可された環境で行います。
CSV処理やファイル整理が必要な場合は、GitHub CopilotやCodexも候補になります。
その場合も、扱うファイルに未公開情報が含まれないかを確認します。
6. 技術報告書にまとめる
論文、特許、実験データを読んだ後は、技術報告書や説明資料にまとめておきたいです。
この段階では、ChatGPTやMicrosoft Copilotが候補になります。
ChatGPTでは、報告書の骨子、比較表、結論の整理、リスクの整理を行います。
Microsoft Copilotは、会社の環境によって、Word、PowerPoint、Teams、Outlookの中で資料化や文章整理に使える場合があります。
ただ、技術報告書では、AIに文章を整えさせる前に、構成を固めておきたいです。
先に決めたいことは、次のような項目です。
誰に説明するのか
何を判断してほしいのか
どこまでが事実で、どこからが考察か
どのデータを根拠にするのか
不確実な点は何か
次の実験や調査は何か
プロンプト例は次のとおりです。
以下の調査メモをもとに、研究開発の技術報告書の骨子を作成してください。
読者:
部門内の技術管理職
目的:
次の実験方針を判断してもらうため
入れてほしい構成:
1. 背景
2. 調査目的
3. 確認した論文・特許・実験データの概要
4. 分かったこと
5. まだ不明なこと
6. 技術的なリスク
7. 次に確認したいこと
8. 判断してほしい事項
注意:
事実と考察を分けて書いてください。
根拠が弱い部分は「要確認」としてください。
調査メモ:
(ここに公開情報または社内ルール上扱える範囲のメモを貼る)AIにきれいな文章を作らせる前に、報告書の骨組みを作ります。
この順番の方が、手戻りを減らしやすくなります。
用途別のAIツールマップ
ここまでを整理すると、次のようになります。
技術動向の入口調査
主に使うAI:Perplexity
任せる作業:関連情報、出典候補、キーワード整理
人が確認すること:一次情報、出典の信頼性論文PDFの読解
主に使うAI:NotebookLM
任せる作業:論文に基づく要点整理
人が確認すること:原文、図表、実験条件複数論文の比較
主に使うAI:NotebookLM / ChatGPT
任せる作業:比較表、論点整理
人が確認すること:比較軸の妥当性、抜け漏れ特許公報の整理
主に使うAI:NotebookLM / ChatGPT
任せる作業:請求項、実施例、相談論点の整理
人が確認すること:権利判断は知財部門と確認実験データの解析方針
主に使うAI:ChatGPT
任せる作業:解析観点、チェックリスト作成
人が確認すること:実データの扱い、解析判断CSV処理・ファイル整理
主に使うAI:GitHub Copilot / Codex
任せる作業:コードやファイル操作の補助
人が確認すること:処理結果、データの安全性技術報告書の骨子
主に使うAI:ChatGPT / Copilot
任せる作業:構成、比較表、説明順序
人が確認すること:結論、根拠、社内説明の妥当性
ここで見たいのは、「AIごとの優劣」ではありません。
研究開発の作業を細かく分けると、任せやすい作業が変わるという点です。
無料または会社支給ツールでできること
まずは、無料または会社支給の範囲で試せることがあります。
たとえば、次のような使い方です。
公開情報を使って技術動向の調査手順を試す
公開論文を対象に、論文要約ではなく比較観点を作る
公開特許公報を使って、請求項や実施例の読み方を練習する
架空データで、実験データ整理のチェックリストを作る
技術報告書の見出し案を作る
上司説明用の論点整理を行う
ここで大事なのは、最初から社内の重要情報を入れないことです。
公開情報中心で試し、AIに何を任せられるかを確認します。
会社支給のAIがある場合でも、入力してよい情報の範囲は会社ルールに従います。
部署や契約条件によって扱いが変わるため、自分だけで判断しません。
上位プランや法人プランで深まること
上位プランや法人プランを使うと、扱えるファイル量、連携できるアプリ、社内環境での使い方が広がる場合があります。
たとえば、長いPDFを扱いやすくなる、社内のMicrosoft 365環境と連携しやすくなる、チーム内で使い方を統一しやすくなる、といった可能性があります。
ただ、上位プランだから安全という話ではありません。
法人契約だから何でも入れてよい、という話でもありません。
確認したいのは、次の点です。
会社として利用を認めているか
入力データが学習に使われる扱いか
社外秘情報の入力が会社ルール上許可されているか
特許化前情報を扱ってよいか
管理者がログや共有範囲をどう設定しているか
チーム内で利用ルールが決まっているか
AIツールの性能だけで選ぶのではなく、社内で安全に使える条件まで含めて考えておきたいです。
実際の手順
研究開発者がAIを使い始めるなら、次の順番が現実的です。
手順1:作業を分ける
まず、自分の作業を分けます。
たとえば「論文調査」と一括りにせず、次のように分解します。
論文を探す
候補を絞る
PDFを読む
実験条件を抜き出す
複数論文を比較する
自分のテーマとの関係を考える
報告書にまとめる
この分解をしないままAIに頼むと、出力が大きく外れやすくなります。
手順2:公開情報で試す
最初は、公開論文、公開特許、架空データで試してみます。
社内テーマ、未公開データ、出願前のアイデアを入れなくても、AIの得意不得意は確認できます。
手順3:AIに任せる作業を限定する
AIには、次のような作業を任せます。
要点整理
比較表
確認項目の洗い出し
報告書の骨子作成
説明順序の整理
CSV処理のコード案作成
一方で、次の判断は人が行います。
技術的に妥当か
実験結果として信頼できるか
知財部門に確認したい論点は何か
次の研究方針として採用するか
社外に出してよい情報か
手順4:出力を確認する
AIの出力は、必ず確認します。
特に研究開発では、次の点を見ます。
根拠があるか
出典に戻れるか
推測が混じっていないか
不明点を不明と書いているか
実験条件を取り違えていないか
特許の請求項を勝手に解釈していないか
社内情報を含めてよい扱いになっているか
手順5:自分の判断を書き足す
AIの整理結果をそのまま報告書にしません。
最後に必要なのは、研究開発者としての判断です。
この結果をどう読むか
どこにリスクがあるか
次に何を確認するか
どの判断を上司に求めるか
知財部門に何を相談するか
この部分がなければ、AIで整えた文章は、きれいな資料で終わってしまいます。
失敗しやすいポイント
AIツールの使い分けで失敗しやすいのは、次のような場面です。
1. いきなり結論を聞く
「この技術は有望ですか」
「この特許は回避できますか」
「この実験結果は成功ですか」
このような聞き方では、AIがそれらしい答えを出してしまいます。
研究開発では、結論よりも先に、根拠、条件、比較対象、不明点を整理しておきたいです。
2. 要約だけで満足する
論文要約は入口です。
要約だけでは、自分の研究テーマに使えるかどうかは分かりません。
実験条件、評価指標、限界、再現性、比較対象を確認しておきたいです。
3. 特許判断をAIに任せる
特許では、AIに最終判断を任せるのは避けたいです。
AIは、請求項や実施例を読みやすく整理する補助にはなります。
ただ、権利範囲、侵害、特許性、出願方針の判断は、知財部門や専門家と確認します。
4. 実験データを安易に入力する
実験データには、会社の競争力に直結する情報が含まれる。
特許化前の情報が含まれる場合もあります。
個人契約AIに社内の未公開情報を入れるのは避けたいです。
会社支給AIでも、会社ルールと契約条件を確認します。
5. ツール名から考える
「ChatGPTをどう使うか」ではなく、「今の作業は何か」から考えます。
論文を読むのか。
特許を整理するのか。
実験データの前処理をするのか。
報告書の構成を作るのか。
作業が決まれば、使うAIも選びやすくなります。
守秘・知財・社内利用上の注意
研究開発でAIを使う場合、守秘と知財の確認は避けて通れません。
特に注意したい情報は次のとおりです。
出願前の発明アイデア
配合、構成、製造条件
実施例、比較例
効果データ
出願方針
未公開の実験データ
顧客情報
共同研究先から受け取った情報
社外秘の技術報告書
契約で扱いが制限されている資料
これらは、AIに入れない前提で考えます。
社外に出すと権利化に影響する可能性があるため、会社の知財ルールに沿って進めたいです。
「抽象化すれば大丈夫」と個人で判断しません。
研究開発者自身が一次判断し、迷う場合は社内ルールや知財・法務・情報システム部門に確認します。
これを前提にしておく方が、長く安全に使えます。
マネージャー視点で見ると
マネージャー視点では、AIツール選びを個人任せにしないことが大切です。
若手がAIを使って調査します。
中堅がAIで報告書を整える。
管理職がAIで会議メモを整理します。
こうした使い方は自然に広がっていきます。
だからこそ、チームとして最低限のルールを決めておくと安心です。
たとえば、次のようなルールです。
個人契約AIに社内未公開情報を入れない
特許化前情報はAIに入力しない
公開情報での調査と社内情報の整理を分ける
AI出力には出典確認を必ず入れる
特許判断は知財部門に相談する
実験データの扱いは会社の情報管理ルールに従う
報告書では、AI出力と担当者判断を分ける
また、チーム内で「この作業にはこのAIを使う」という目安を持つと、調査品質をそろえやすくなります。
たとえば、次のような分け方です。
技術動向の入口はPerplexity
論文PDFの読み込みはNotebookLM
比較表や報告書骨子はChatGPT
Office文書や会議整理はMicrosoft Copilot
CSV処理やファイル操作はGitHub CopilotやCodex
もちろん、会社の利用環境によって変わります。
大切なのは、ツール名をそろえることではありません。
作業ごとに、任せる範囲と確認する範囲をそろえることです。
まとめ
論文、特許、実験データでは、AIの使い方を分けておくと進めやすいです。
論文では、要約よりも比較と判断材料の整理を意識したいです。
特許では、請求項や実施例の整理まではAIが補助できますが、権利判断は知財部門と確認します。
実験データでは、実データの入力に注意し、まずは解析方針やチェックリスト作成から試してみます。
AIツールは、単独で考えるより、研究開発の流れの中で使い分けたいです。
Perplexityで調査の入口を作ります。
NotebookLMで論文や特許を読み込みます。
ChatGPTで比較表や論点を整理します。
Microsoft Copilotで会社の文書や資料作成に接続します。
GitHub CopilotやCodexで、CSV処理やファイル操作を補助します。
この流れを作ると、AIは「答えを出す機械」ではなく、研究開発者の判断を支える道具になります。
最後に判断するのは、人です。
AIに任せる作業と、人が確認する作業を分けます。
この線引きが、研究開発でAIを使うときの出発点になります。
まずは一つの作業から試し、無理なく広げていきましょう。
これまでの記事
この連載を初めて読む方は、こちらも参考になります。
第0回:AIが苦手な研究開発者へ。この連載で伝えたいこと
https://note.com/rd_ai_note/n/n25b5a8a92ff5第1回:AIが苦手な40代・50代研究開発者へ
https://note.com/rd_ai_note/n/n14a457c99776第2回:主要AIツールを研究開発目線で使い分ける
https://note.com/rd_ai_note/n/n89155bc03f64第3回:AIへの依頼文は“業務依頼書”です
https://note.com/rd_ai_note/n/n13b0e60384bd第4回:研究開発でAIに入れない方がよい情報
https://note.com/rd_ai_note/n/n358222c00e77第6回:NotebookLMで論文PDFを比較する
https://note.com/rd_ai_note/n/n38f968eb2d35
次回予告
次回は、NotebookLMで論文PDFを比較する方法を扱います。
論文を要約して終わらせず、自分の研究テーマに使えるかどうかを判断するために、どのような問いを立てるとよいかを整理します。
第6回:
NotebookLMで論文PDFを比較する:要約で終わらせない文献調査