良い商品なのになぜ売れない?
良い商品なのに、なぜ売れないのか!?を紐解く
「伝える」から始める経営シリーズ
あなたの商品は「まだ存在していない」
最初に、身も蓋もない話をしよう。
あなたの会社の商品が売れないのは、品質が悪いからではない。デザインが古いからでも、価格が高いからでもない。理由はもっと残酷で、もっとシンプルだ。
顧客の頭のなかに、あなたの商品が「存在していない」からである。
こう言うと、多くの経営者は反論するだろう。
「うちはホームページもあるし、パンフレットも配っている」と。
だがここに、人間の認知をめぐる不都合な真実がある。
ヒトの脳は、目に入ったものをすべて記憶するようにはできていない。むしろ、その大半を「見なかったこと」にするよう設計されているのだ。
進化の観点から考えれば、これは当然の話である。
サバンナで暮らしていたわたしたちの祖先にとって、重要な情報は「茂みの陰のライオン」であって、「三番目に美味しい木の実」ではなかった。
脳は生存に関わる情報だけを選び取り、残りを容赦なく捨てる。この省エネ設計は、スマホを持った現代人になっても変わっていない。
一日に数千の広告に接する消費者の脳内で、記憶に残るのはほんのひと握り。あなたの商品情報は、木の実のほうに分類されている可能性がきわめて高い。
ここで、有名な実験を紹介したい。
被験者に同じワインを飲ませ、片方には「10ドルの安ワイン」、もう片方には「90ドルの高級ワイン」だと告げる。
するとどうなるか。90ドルと告げられたグループのほうが「美味しい」と答えるだけでなく、脳スキャンで快感を司る部位が実際に強く活動していたのである。
つまり、味は舌ではなく脳で感じている。
もっと踏み込んで言えば、「情報」そのものが商品の価値を物理的に変えてしまうのだ。
これは経営者にとって、絶望であると同時に朗報でもあるだろう。
絶望なのは「良いものをつくれば、いつか分かってもらえる」という職人の信仰が、脳科学によって否定されてしまったこと。
黙っていて伝わるほど、顧客の脳は暇ではない。
朗報なのは、その逆もまた真だということ。
伝え方を変えれば、商品の価値そのものが変わる。
設備投資も新商品開発も要らない。変えるのは「言葉」と「見せ方」だけでいい。これほど費用対効果の高い経営改善が、ほかにあるだろうか。
ところが日本の中小企業の多くは、この順番が逆になっている。
売上が落ちると、まず商品を改良しようとする。機能を足し、品質を磨き、それでも売れないと価格を下げる。
努力の方向としては立派だが、そもそも「知られていない」商品の機能をいくら磨いても、顧客の脳内では何も起きない。存在しないものは、比較の土俵にすら上がれないのだから。
消費者は、世の中のすべての選択肢を並べて最良のものを選んでいるわけではない。
「たまたま知っていたもの」のなかから選んでいるにすぎない。
だとすれば、勝負の大半は品質競争が始まる前――つまり「知ってもらう」段階で、すでに決まっていることになる。
ブランディングとかPRとかいうと、大企業の贅沢な道楽のように聞こえるかもしれない。だが実態はまるで違う。それは「顧客の脳内に自社の居場所をつくる」という、きわめて実務的な生存戦略なのだ。
むしろ広告費で殴り合えない中小企業にこそ、この知恵は必要になる。
良い商品なのに売れない、のではない。
伝えていないから、良い商品として 存在できていない――。
(加々本裕樹)
次回予告
良い商品なのに、なぜ売れないのか!?を紐解く 「伝える」から始める経営シリーズ。このシリーズでは、その「伝える」を経営の技術として学んでいく。次回は、なぜヒトはスペックではなく「物語」にお金を払うのか、という話をしよう。あなたの会社の沿革欄に眠っている、あの地味なエピソードが実は宝の山かもしれない、という発見とともに。
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