自分で言うと嘘になり、他人が言うと真実になる| 伝えるから始める経営
良い商品なのに、なぜ売れないのか!?を紐解く
「伝える」から始める経営シリーズ
人間には、理不尽な法則がある。
「この店のラーメンは絶品です」
――店主が言えば宣伝文句だが、隣の客が言えば貴重な情報になる。中身はまったく同じなのに、口が変わるだけで言葉の価値が変わってしまう。
世界最大級の調査会社ニールセンの国際調査によれば、消費者の8割以上が「知人の推奨」を信頼すると答える一方、企業広告への信頼はその半分程度にとどまるという。
なぜこんな不公平がまかり通るのか。
答えは例によって、ヒトの進化の歴史にある。
自分で自分を褒めることには、コストがかからない。
嘘をついても失うものがないからだ。だからわたしたちの祖先は、自己申告を割り引いて聞く疑い深い個体だけが生き残ってきた。一方、第三者がわざわざ他人を褒めるとき、そこには自分の評判という担保が差し出されている。
「あいつの推薦はアテにならない」と思われれば、本人の信用が傷つく。
担保のある言葉だけが、信じるに値する――脳はこの計算を、一瞬で無意識にやってのける。
さて、この法則を経営の言葉に翻訳すると、こうなる。
広告とは「自分で言うこと」であり、PRとは「他人に言ってもらうこと」である。
広告は金を払えば確実に載る。その代わり、聞き手は最初から割り引いて受け取る。PR――たとえば新聞やテレビに取り上げられること――は金では買えない。その代わり、載った瞬間に「第三者の担保」がつく。
中小企業の社長が「テレビに出たら問い合わせが殺到した」と語るとき、効いているのは露出の量ではなく、この信頼の変換なのだ。
では、どうすれば取り上げてもらえるのか。
ここで多くの会社が、根本的な勘違いをする。
「わが社の新製品は高性能です」というプレスリリースを送りつけてしまうのだ。気持ちは分かる。だが記者の側に立ってみればすぐ分かることがある。
彼らの仕事は、あなたの会社を宣伝することではない。読者や視聴者にとって面白い「世の中の変化」を報じることである。自慢はニュースではない。
だが、絶望するのは早い。発想をひとつ裏返せばいいだけだからだ。
主語を「わが社」から「世の中」に変えてみる。
「当社の介護食が売れています」はただの自慢だが「高齢者の孤食が増えるなか、町の惣菜店に異変が起きている」なら、あなたの店は社会の変化を映す「現場」になる。
記者が探しているのは、まさにこの現場だ。時代の大きな流れと、あなたの会社の小さな取り組みが交差する一点。そこにカメラは向けられる。
つまりメディアに取り上げられる会社とは、すごい会社ではなく、時代の物語の登場人物になれる会社なのである。
前々回で掘り出した自社の物語を、今度は社会という大きな物語の中に置き直してみる。人手不足、地方創生、技術承継、環境問題――あなたの日々の奮闘は、必ずどれかの文脈に接続しているはずだ。
もうひとつ、地味だが効く話をしておこう。
取材は一発の花火ではなく、信頼の積立である。記者に誠実に対応し、専門分野について聞かれれば自社の宣伝抜きで解説する。そういう会社は「あの件ならあそこに聞けば分かる」という情報源として記者の手帳に残り、忘れたころに次の取材がやってくる。
ここでも結局、担保になるのは日頃の評判なのだ。
存在を知られ、物語を持ち、宛先を定め、第三者に語ってもらう――ここまでで、伝えるための道具は一通りそろったことになる。
(加々本裕樹)
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次回予告
次回は『良い商品なのに、なぜ売れないのか!?を紐解く「伝える」から始める経営シリーズ』の締めくくりとして、最後にして最大の難所の話をしよう。すなわち、続けること。
実は、ブランドを殺す犯人の大半は、競合ではなく自社の飽きっぽさなだったりするのである。
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