【ファンタジー小説】第三話 巨大な積み木とジェルカプセル『今日も魔女の住む森で 機械仕掛けのワンダーランド編』
魔女の家に帰ってくると、魔女とぬいぐるみたちは円卓を囲み、これからどうするか話し合いを始めました。
「どうしよう……このままじゃ、僕たち動けなくなっちゃうよ」
シロクマが不安そうにうつむきます。
「そうだ!」と、ヒグマが明るい声を出しました。
「前に紫の霧入りのグミを作ったでしょ。それに触ってれば魔力は消えなかったよね」
フクロウがゆっくりと首を振りました。
「あの方法じゃ魔力を長く閉じ込めておけなかったんだ。魔女の『紫の霧のペンダント』は特別で、たぶんあの吸い込まれそうなほど真っ黒な石に秘密があると思うんだけど」
シロクマが目に涙をためながら言いました。
「やっぱり、もうチーズケーキを食べられなくなっちゃう!?」
そんな重苦しい空気を切り裂くように、ウサギが勢いよく立ち上がりました。
「とりあえず、紫の霧増幅装置を作ろう!」
まるで『今日の晩ごはんはカレーにしよう!』とでも言うような軽さで、ウサギは自信満々に宣言しました。
「そんなのできるの?」
魔女の言葉には少なからず疑いの感情がこもっていました。
「一か月で完成させるよ!フクロウ、設計図を作るのを手伝って」
そう言うと、ウサギはフクロウの翼を引いて、自分の家へ意気揚々と帰っていきました。
その日からフクロウだけではなく、ヒグマとシロクマも紫の霧増幅装置建設のための労働力として駆り出されることになりました。
ウサギの家からは毎日「トンテンカン、トンテンカン」と賑やかな音が響き、フクロウの緻密な計算に基づいた、大きさと形がぴったり同じに作られた箱型の部品がいくつも量産されていきました。
ヒグマとシロクマは、ウサギが作った歯車や鉄パイプが詰まった四角い箱型の部品をフォークリフトに載せると、ハンドル担当のヒグマと、アクセルとブレーキ担当のシロクマとで手分けして器用に運転し、ウサギの家のそばにある湖の畔まで運びます。
そして、湖の畔の建設現場で、まるで巨大な積み木のようにガチャン、ガチャンとはめ込んでいくのです。
その間も紫の霧は薄くなり続けました。
朝起きるたびに霧の境界線がじわじわと迫ってきて、ぬいぐるみたちの住処はどんどん狭くなっていきました。
魔女は部品や資材調達のため街へ出る時には、必ず『紫の霧のペンダント』をヒグマに預けていくようになりました。
「無くさないように、大事に持ってってね」
もし突然、霧が消えてしまってもペンダントがあれば、とりあえずぬいぐるみたちの命は抜けていかないからです。
それは、魔女が街では魔法の使えないただの人間に戻ってしまうということでもありました。
増幅装置の最終的な設置場所も考えなければいけませんでした。
魔女の森全体を覆うためには、もっと高い場所に設置する必要があったのです。
しかし、その問題は魔女の一言であっさり解決しました。
「私が魔法で増幅装置を風船みたいに軽くするから、森の真ん中の大杉のてっぺんに置いちゃえばいいじゃん。あそこが紫の霧の発生源なんだしさ」
魔女のアイデアは即採用され、次の日から大杉のそばに、冷却水に使う地下水を汲み上げるための鉄パイプの設置作業も始まりました。
魔女が輝く紫の砂を地面に撒くと、そこだけプリンのように柔らかくなってスルスルと鉄パイプを挿すことができました。
ある時。
作業の合間にヒグマが大杉を仰ぎ見ながらフクロウに聞きました。
「なんでこの木だけこんなに大きいんだろう?」
フクロウは少し考えてから答えました。
「このあたりの地下水には豊富な栄養が含まれているからかもしれないね」
そして一か月後。
いよいよ稼働の日がやってきました。
魔女の魔法で風船のように軽くなった、二階建ての一軒家ほどもある巨大な増幅装置を、ぬいぐるみたちはバレーボールのようにポンポンとトスしながら、大杉の周りをぐるりと囲んで作った木製の螺旋階段を登っていきました。
てっぺんにやってきたぬいぐるみたちは、協力して冷却水用の鉄パイプを増幅装置に接続すると、風で飛んでいかないようにロープでしっかりと増幅装置と大杉を結びました。
ウサギは、紫の霧を濃縮して作った燃料のジェルカプセルを投入口に入れると、メインレバーを力いっぱい引きました。
「ゴトゴト……シュシューッ!」
装置の奥深くで、幾つもの歯車が力強く回り始めます。
鉄パイプの中を地下水が駆け巡り、やがて「ゴォォォ」という低い地鳴りのような音と共に、屋根の上の煙突から勢いよく煙が噴き出しました。
「モクモク、モクモクモクモク!」
よく見るとそれは煙ではなく、濃厚で美しい紫色の霧でした。
巨大な装置の煙突から、次々と吐き出される紫の霧は森を包んでいきました。
「わぁ……!」
ヒグマとシロクマが顔を見合わせて歓声を上げます。
フクロウも満足そうに目を細めています。
魔女は勢いよく噴き出す紫の霧を見上げながら、大きく息を吸い込み、隣にいたウサギの耳を指で弾きました。
「やるじゃん、発明家!」
ウサギは照れてお尻をふりふりさせました。
「頑張っちゃった!やったー!!」
自分たちの手で組み上げた紫の霧増幅装置が、見事に森の魔法の紫の霧を蘇らせたのです。

