【ファンタジー小説】第一話 ネットニュースとお化けの岩『今日も魔女の住む森で 機械仕掛けのワンダーランド編』
【あらすじ】
魔法の『紫の霧』が消えゆく。
霧の力で生きるぬいぐるみたちは、命を繋ぐために紫の霧を増幅させる装置を建設し、森を守るために奔走する中、子供を守ろうとして不良品扱いされたAIロボ教師の「先生」と出会います。
魔女とぬいぐるみたちは「先生」を家族として迎え、不安を抱えながらも温かい日々が始まります。
しかし大型台風の接近と共に、森と街を巻き込む大事件が迫っていて……!
ここは魔女の住む森。
魔女に命を吹き込まれた、ぬいぐるみたちの住む森。
森のはずれには紫の霧が立ち込めて、魔法の世界と外界を隔てています。
紫の霧を越えてしまうと、生きたぬいぐるみたちは命が抜けてただのぬいぐるみに戻ってしまいます。
それは魔女も同じでした。
その境界線を越えれば、魔法の使えない普通の人間に戻ってしまう。
だから、魔女はいつも魔力の源である『紫の霧』を閉じ込めたペンダントを身に着けているのでした。
それがあれば、魔女は紫の霧に触れていなくても魔法を使うことができるからです。
そんな不思議な森の奥深くで暮らす、四匹の仲良しなぬいぐるみたち。
魔女の家で美味しそうな匂いを漂わせているのは、料理が上手なヒグマとシロクマ。
少し離れた所には、発明家のウサギと、賢くてやさしいフクロウもいます。
住んでいる場所は少し違っても、四匹はいつも一緒です。
夏が終わりに近づき、早朝の空気が少しひんやりと感じ始める頃のある朝のこと。
朝ご飯を食べ終えた魔女が、ソファーに横になってスマートフォンを片手にくつろいでいます。
「すご!!ついにAIロボが小学校の先生だって!」
魔女の大声にヒグマとシロクマが飛んできて、魔女の頬に自分たちの頬を両側からぐりぐりと押し付け、スマートフォンの画面を無理やり覗きました。
AI教師誕生 人材不足を救えるか!?
教員不足と長時間労働が深刻化する教育現場で、最先端の生成AIを活用した「AI教師」の導入実験が全国で始まった。
このシステムは、生徒一人ひとりの理解度に合わせた個別最適な学習指導や、24時間体制の質問対応を可能にする。
採点や資料作成などの自動化も進み、教員の業務負担を劇的に軽減する切り札として期待が集まる。
一方で、生徒の感情の機微を汲み取ることや、集団行動における人間関係の構築といった「心のケア」はAIには困難との指摘も根強い。
記事と一緒に掲載されている人型ロボのかっこよさに、ヒグマとシロクマは目をキラキラ輝かせました。
魔女がスマートフォンの画面を見つめながら、吐き捨てるように言いました。
「でも、最近なんでもAIじゃない?」
魔女の言い方に敵意が感じられたので、ヒグマは探るように言いました。
「いろいろ、便利になるでしょ?」
「そうなんだけど……なんかさ、一を聞けば十わかっちゃうみたいな。そのうちみんなから想像力が無くなっちゃうんじゃないかって……」
ヒグマがふかふかの柔らかな手で魔女の頭を撫でました。
「魔女は想像の中の生き物だもんね」
「喋るぬいぐるみだってそうじゃん」
魔女がスマートフォンの画面をスクロールして、面白そうなニュースを探していると、突然ヒグマとシロクマがスマートフォンをガッシっと掴み、魔女から力ずくで奪い取りました。
「超合金ハリケーン・ベアだ!」
画面には今大人気のロボットアニメに登場する『超合金ハリケーン・ベア』に関する記事が、写真付きで表示されていました。
海沿いにそびえ立つ、ビル七階建て相当の等身大『超合金ハリケーン・ベア』特設展示、のべ来場者数が10万人を突破!
港の特設会場にて期間限定で一般公開されている等身大「超合金ハリケーン・ベア」の立像展示において、本日、のべ来場者数が10万人を突破したことが発表された。
本展示は、往年の大人気アニメ『超合金ハリケーン・ベア』の劇中の設定をそのまま現実の世界に再現しており、青空と海をバックにそびえ立つ1/1スケール(等身大)の迫力満点の姿を一目見ようと、連日多くのファンや家族連れが詰めかけている。
ヒグマとシロクマは「いいな、いきたいな」と画面を食い入るように見つめます。
「はい、はい。もうスマートフォンの時間は終わり」
魔女は二匹のクマからスマートフォンを取り上げました。
「あっ、そうだ」と言ってシロクマが突然立ち上がりました。
「キノコ狩りにいかなくちゃ。明日の魔女のスープの分がないんだった」
ヒグマも何かを思い出したらしく丸い耳をピクピクさせました。
「キノコ狩りと言えば、僕たちこないだキノコ狩りをしてて凄く面白い場所を見つけたんだ。魔女も一緒に行こうよ」
そうして、魔女と二匹のクマは空飛ぶお掃除ロボに乗り、森の奥へと木々の隙間を縫うように飛んでいきました。
「この辺りかな」
ヒグマの合図で魔女はお掃除ロボを着陸させました。
「だいぶはずれの方までキノコ狩りに来てるんだね」
魔女のその言葉が嬉しいシロクマは、ピンクのほっぺを赤くして、もじもじしながら胸を張りました。
「頑張ってるでしょ!?」
「うん、頑張ってる」
魔女はヒグマとシロクマを抱きしめました。
「それで、楽しいことって何?」
ヒグマとシロクマは「あの岩に座ると、お化けにふわっとされるんだよ」と言って大きな岩を指差すと、手をつないでスキップしてその岩の方へ向かいました。
魔女は目を細めて微かな記憶を探ります。
たしかに以前、おねえちゃんに連れられてあの岩を見に来たことがある。
そう。
先祖の魔女の言葉が彫ってあって……。
魔女はヒグマとシロクマがちょこんと座ってクスクス笑っているのを見つめながら、岩の方へ近づいていきます。
すると、突然ヒグマとシロクマから笑顔が消えたかと思うと、全身の力が抜けたようにコロンと岩から転がり落ちてしまいました。
「え!?どうしたの!!」
ヒグマとシロクマは地面に横たわり、ピクリとも動きません。
魔女は慌てて駆け寄り、ヒグマとシロクマを抱き上げようと手を伸ばしました。
「えっ!?これって」
魔女の心臓が警告音のように鳴り始めます。
魔女は、まるでただのぬいぐるみになってしまったかのように力なくぐったりとするヒグマとシロクマを抱き上げると、もつれそうになる足で必死に森の奥へ駆け出しました。
すると、ヒグマとシロクマはすぐに元気を取り戻し、キャッキャと笑い声をたてながらジタバタとはしゃぐのでした。
魔女は二匹のクマを地面に下すと、自分もへなへなと力なく座り込みました。
ヒグマが大の字にジャンプしながら笑顔で言いました。
「見た?お化けにふわっとされるとこ!」
シロクマはおしりをふりふりしながらにっこりしました。
「なんか不思議な感じがしてとっても楽しいよ」
魔女はそんな二匹のクマの頭を鷲掴みすると、自分の顔の目の前まで近づけて鋭く睨みました。
「お前たち、もうちょっとで完全に命が抜けちゃうとこだったよ!」
「でも、今まで何度もここまでキノコ狩りに来てるし、もっとずっと先まで遊びに行ったこともあるよ」
ヒグマの表情に先ほどまでの笑顔はありませんでした。
シロクマは「そうだよ」と言って、動揺を隠せない様子でヒグマの手を握りました。
ヒグマとシロクマが嘘をついていないことは魔女にもわかりました。
確かに、まだこの辺りは紫の霧に包まれているはずなのです。
「そうだ、......あの岩って」
魔女はそれだけ呟くと、震える足でお掃除ロボに乗り、森全体が見渡せる高さまで一気に浮き上がりました。
ゆっくりとお掃除ロボを回転させながら、目を凝らし、祈るような気持ちで神経を集中させて紫の霧を見つめました。
魔女は思い出しました。
おねえちゃんと一緒にあの岩を見た時のことを。
『この岩の印を忘れないで』って言われてた。
あの岩は、以前、紫の霧の境界がここまで迫ってきたことがあるという警告の印だったのだと。
目を凝らした先にある紫の霧は、魔女の記憶にあるよりもずっと薄く、頼りなく魔女の森の輪郭をなぞっていました。
魔女は唖然として呟きました。
「紫の霧が……消え始めてる」

