【ファンタジー小説】第五話 おねえちゃんの訪問と魔女と先生の散歩『今日も魔女の住む森で 機械仕掛けのワンダーランド編』
魔女が先生を森へ連れてきた日の翌日。
おねえちゃんが買い物袋に食材をパンパンに詰めて魔女の家にやってきました。
魔女は、「ありがとう」とだけ素っ気なく言いました。
「どういたしまして」
そして、おねえちゃんはヒグマとシロクマの視線に合わせてしゃがみました。
「ロボ、かっこいいじゃん。よかったね」
ヒグマとシロクマはおねえちゃんにフカフカの頭を優しく撫でられて大喜びです。
「学校の先生だから、先生っていう名前にしたんだよ」
と、ヒグマ。
「かわいい名前でしょ?」
と、シロクマ。
二匹のクマは一生懸命に先生の凄いところや優しいところを、おねえちゃんに話します。
「ヒグマさん、シロクマさん、そんなに褒められると私は恥ずかしいです」
そう言って両手で顔を覆うしぐさをする先生を、おねえちゃんはじっと見つめていました。
「……」
何かを言おうとするおねえちゃんの手を、ヒグマがグイっと引っ張りました。
「お昼ご飯を一緒に食べよ!」
テーブルを囲んだ魔女とおねえちゃんと二匹のクマの前に、「チーズもりもりお肉たっぷりバーガー」が並びました。
チーズとお肉のいい匂いが、食欲を誘います。
みんなが「美味しい!」と、嬉しそうに食べる姿を先生はじっと観察していました。
「この料理、カロリー計算では完全にオーバーです。しかし、皆さんの笑顔から推測するとカロリーオーバーよりも『美味しい』という感情の方が優先されるようです」
シロクマが声を出して笑いました。
「先生、カロリーが美味しいんだよ」
お昼ご飯を食べ終わると、今度はシロクマがおねえちゃんの手をグイっと引っ張りました。
「今度は増幅装置を見せてあげる!ご飯を食べたら、ジェルカプセルを増幅装置に入れることになってるから一緒に行こうよ」
ヒグマとシロクマはリュックの中に、ココナッツの実ほどの大きさのジェルカプセルを一つずつ入れて、出かける準備をします。
「その大きなカプセルは何?」
おねえちゃんが面白そうに、ヒグマのリュックをポンと軽く叩きました。
「ぎゃ!ダメだよ、叩いちゃ。カプセルが割れて中のジェルが出ちゃうから」
おねえちゃんは次にシロクマのリュックをポンと叩きました。
「わ!増幅装置の燃料なんだから……やめてね」
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
森の真ん中の大杉のてっぺんにそびえ立つ、二階建ての一軒家ほどもある巨大な増幅装置を見上げると、おねえちゃんは呆れたように大きくため息をつきました。
「あんたたち……凄いけど、よくこんなとんでもない物を作ったね。爆発して吹き飛ばされないように気をつけなよ」
「絶対大丈夫だよ!わたしたち頑張ったもん!」
シロクマが胸を張って答えると、おねえちゃんは「はいはい」と苦笑いしながら二匹の頭をポンポンと撫でました。
ふと、おねえちゃんの視線が、少し離れたところから静かにヒグマとシロクマを見守っている先生に止まりました。
「……」
おねえちゃんは少し目を細めました。
「……先生って言ったっけ」
おねえちゃんが突然声をかけると、先生は「はい、何でしょうか」と丁寧にお辞儀をしました。
「あんた、やさしい感じがする」
「……?教師用のプログラムのせいでしょうか」
少しだけ首を傾げる先生を見て、おねえちゃんはクスッと笑いました。
「じゃあ、あたしは薬局を開ける時間に遅れるといけないから帰るよ。怪我しないようにね」
そう言い残すと、おねえちゃんは森を後にしました。
夕方になるとウサギが魔女の家にやってきました。
「超合金ハリケーン・ベアのアニメ放送が始まるよ!」
魔女はハッと時計を見ると、経営するネットショップの新商品登録作業を中断し、ヒグマとシロクマを両脇に抱えて家を出ました。
ヒグマとシロクマは手足をぶらぶらと揺らしながら、
「先生もウサギの家でテレビ見ようよ」
と誘いました。
「わかりました。勉強します」
魔女はウサギが乗ってきたダッチオーブンを車に改造したカートに二匹のクマを乗せました。
「じゃあ、ぼくたちはフクロウを乗せてから行くから」
「ブロロロー」っと進むカートの中で手を振るぬいぐるみたちが『超合金ハリケーン・ベアのテーマ』を大合唱しながら遠のいていきます。
『嵐と共にやってきて♪
平和を守る無敵の力♪
悪い奴には一撃必殺♪
今だ!
行くぞ!
超合金ハリケーン パーーーンチ!!』
魔女はぬいぐるみたちが見えなくなるまで、手を振って見送りました。
「私たちは歩いていこう」
魔女はカートを見送った後、腕をグッと伸ばし胸を張ると、大きく深呼吸しました。
「風が気持ちいいねぇ」
「魔女さん。一つ、質問してもよろしいですか」
先生が立ち止まると、魔女も振り返りました。
「なぜ、私を引き取ったのですか?」
魔女は「う~ん」と考えてしまいました。
「何でって言われても……可哀そうだなって思っちゃったの、先生のことが」
「哀れに見えた、ということですか?」
「そうじゃなくて、先生は子供をかばっただけでしょ?それでスクラップ?私だってロボに心がないってことはわかるよ。でも、あっ……まずいこと言ったかな?」
「……大丈夫です。子供が傷ついているのを見ると、守りたいという衝動を抑えられなくなるのです。教師としての性と言いたいところですが、私に埋め込まれているチップのバグがそうさせるようです。要するに私は不良品です」
魔女はなんと言ってよいのかわからず、先生との会話はいったんそこで途切れました。
柔らかな木漏れ日が、魔女と先生の足元で揺れていました。
話題を変えたい魔女は、「そうだ」と再び口を開きました。
「先生、超合金ハリケーン・ベアの予習はバッチリ?」
「はい。昨日の夜、シロクマさんにスマートフォンで動画を見せてもらいました」
魔女は不思議そうに首を傾げました。
「先生なら、頭の中で直接ネットワークに繋いで、一瞬で全話ダウンロードできるんじゃないの?」
先生は少し歩みを遅くして、うつむき加減で答えました。
「……外部ネットワークへの接続機能は、意図的に切ってあります。他のAIさんたちとは、やっぱりちょっと……自分は違うと感じてしまうので。それに、シロクマさんと一緒に小さな画面を覗き込む方が、ずっと意味のある時間に感じます」
魔女は「ふーん、先生も怖いとかあるんだね」と笑うと、言葉を続けました。
「で、アニメはどうだった?」
「あの装甲と重量では自立歩行すら不可能です。さらに必殺の『超合金ハリケーンパンチ』を放てば、作用反作用の法則により自身の腕も粉砕されます」
魔女は「あちゃー」という顔をして立ち止まりました。
「先生、わかってないなー! ああいうのは『気合』と『友情』で動いてんの! 理屈じゃないの!」
「そうですね」と、先生は少しだけうつむき、小さな声で付け加えました。
「それにしても……超合金ハリケーン・ベアは、みんなに好かれていてうらやましいです」
「先生だって人気あるよ!私もぬいぐるみたちも先生のこと大好きだもん。さっ、アニメ放送に間に合わないと困るから、ちょっと急ごう」
魔女が駆け出すと、先生は「待ってください」と規則正しい足音を立てて追いかけました。

