【ファンタジー小説】第十一話 気味の悪い呟きと先生の憧れ『今日も魔女の住む森で 機械仕掛けのワンダーランド編』
ぬいぐるみたちと日記ちゃんは、急上昇して空に舞い上がり、雨雲の中に隠れる増幅装置を見てキャッキャと盛り上がりましたが、おねえちゃんの次の言葉にドン引きするのでした。
「静かにして。今から、迷い、悩み、苦しんで弱っている先生の心に付け込んでやるんだから」
電話の向こうから魔女の金切り声が聞こえてきましたが、おねえちゃんはそんなのお構いなしにスマートフォンをヒグマに渡しました。
そして、両腕を広げて顎をくっと上げ、とても穏やかな目を空に向けると、「先生……どこにいるの?……へへ」と、何故か半笑いの口で呟くのでした。
すると、一筋の白く輝く光の帯がおねえちゃんの胸のあたりから放たれ、雨の中を泳ぐように空へ昇っていきました。
ずぶ濡れになり、柔らかな毛が体に張り付いてやせ細って見えるぬいぐるみたちとリュックの中の日記ちゃんは、目の前で起きている美しく輝く神秘的な現象と、おねえちゃんの気味悪くブツブツと呟く光景に、唖然として目をしばたたかせるのでした。
ヒグマの手にあるスマートフォンから魔女のわめき声が漏れ聞こえてきました。
ハッと我に返ったヒグマがスマートフォンを両手で力強く握りました。
「もしもし、魔女?」
「あっ、ヒグマ!怪我はない?みんなは無事?」
「大丈夫、みんな元気だよ。それより、先生はどうなっちゃうの?」
ぬいぐるみたちと日記ちゃんは、自分たちのことよりも先生のことが心配で心が落ち着きません。
「どこにいるかわからないの……先生を探すために、おねえちゃんは紫の霧の力が必要だったんだけど、そっちの様子はどう?」
ヒグマは見てはいけないものを見るように、おねえちゃんに視線を向けました。
おねえちゃんは気味悪くブツブツと呟き、時折「……へへ」と肩をすくませ続けていました。
美しい光の帯は、探し物をしているかのように街の中を駆け回っていました。
「先生……いったいどこに?……あぁ、見えてきた。愛したいのに拒絶される悲しみ……へへ、愛されたい心を否定される苦しみ。……そうか、自分と同じロボでありながら、みんなから愛される存在。強く憧れる存在……へへ!!」
おねえちゃんは憑き物が落ちたように突然「見つけた!」と叫び、ヒグマからスマートフォンをひったくりました。
「先生の居場所がわかったよ」
「本当に?だって先生はAIロボだから心を持ってないでしょ」
「あたしは先生の心を感じた。初めて会ったときに……」
「……信じられないけど、信じてみる。それで、先生はどこにいるの?」
「ロボの親玉の足元にいる」
魔女は少し考えて「そうか!」と声をあげました。
「先生の憧れ!『超合金ハリケーン・ベア』!!」
「正解。あたしたちも車でそこへ向かう」
通話を切り、ぬいぐるみたちに声を掛けようと振り向くと、そこにシロクマとウサギの姿がないことに気がつきました。
「どこいっちゃったの!?」
無言のフクロウが翼で示す方向に、ぬいぐるみたちが以前から大好きなチーズケーキを売っているケーキ屋さんがありました。
シロクマとウサギはショーウインドーから店内をキャッキャと明るい声を弾ませながら覗き込み、喋って動くぬいぐるみに驚愕と恐怖の表情を浮かべる店員の視線も気にせず、「見てるだけで幸せ」とお尻をフリフリしたり耳をピクピクさせていました。
「いいな、僕もケーキ見たい!」
と、走り出そうとするヒグマの耳をギュッとつまんだおねえちゃんが、シロクマとウサギに向かって叫びました。
「あんたたち!人間に捕まったら命を抜かれて、喋る呪いのぬいぐるみとか名前を付けられて海外に高値で売られちゃうよ!」
おねえちゃんの言葉にギョッとして急に怖くなったシロクマとウサギは、手を繋いで急いで戻ってきました。
「まったく……魔女って意外と苦労してるのかも」
おねえちゃんはため息をつくと、広場に面している薬局兼住宅の駐車場に止まっている自分の車に乗り込みました。
「あんたたちも乗って」
先ほどのおねえちゃんの恐ろしい言葉が頭から離れないぬいぐるみたちと日記ちゃんは、ギュッと手を握り合い、お互いの体が離れないように慎重に車に乗り込みました。
そして、ヒグマがこっそりと言いました。
「魔女のこと変わってると思ってたけど……おねえちゃんのほうが激ヤバじゃない?」
ぬいぐるみたちと日記ちゃんは激しく首を縦に振り、全力でヒグマに同意するのでした。
「あんたたち、くっついてなくたって大丈夫だよ。雨が降ってるうちはこの辺り一帯は紫の霧の力が働いてるんだから」
そうとわかっていても、命が抜けることよりもおねえちゃんのことが怖いぬいぐるみたちは、紫の霧のペンダントを首から掛けているヒグマのフカフカのお腹から離れませんでした。
「好きにすれば」
ウサギは心配そうに空を見上げ、恐る恐るおねえちゃんに言いました。
「増幅装置はどうやって持って帰るの?あれがないと、僕たちはもうあの森で暮らせないんだ……」
「夕飯までには魔法で運んであげる。まだまだ時間はあるから大丈夫」
その時、フクロウが翼をバタバタと羽ばたかせ、叫びました。
「まずいよ!お昼に二つ入れるはずのジェルカプセルは一個しか入ってないんだ。だから思っているよりも早く増幅装置の燃料は切れちゃうよ!」
おねえちゃんは眉間にしわを寄せると、勢いよくアクセルを踏み、激しい水しぶきを上げて車を走らせました。

