【ファンタジー小説】第十話 姉妹のけんかとスーパー合体『今日も魔女の住む森で 機械仕掛けのワンダーランド編』
『大丈夫、すべて上手くいく。あたしの魔法の特殊能力で』
魔女は通話の切れたスマートフォンをじっと見つめました。
「おねえちゃん......何考えてんだろう」
魔女には理解できませんでした。
「おねえちゃんの魔法の特殊能力では先生を見つけることはできないよ。だって、そもそも先生には付け込まれる心がないんだから」
傘に打ち付ける雨は次第に強くなっていきました。
『ピロリン♪』
通知を告げる電子音が魔女の心臓をチクリと刺しました。
『ショッピングモールでAIロボによる誘拐未遂事件発生か?』
記事の様子から、先生はまだ捕まっていないようでした。
「とにかく探さないと」
魔女はあてどなく走り続けました。
立ち並ぶビルの隙間の暗がり。
風に波打つ公園の茂みの中。
野良猫が雨宿りする河川敷の橋の下。
しかし、先生を見つけることはできず、時間だけが過ぎていきました。
魔女は立ち止まり厚い雨雲の漂う空を見上げました。
雲が、風に乗って新しい雨を運んできます。
魔女は顔に打ち付ける雨に微かに、でも確かに紫の霧の力を感じました。
「本当に来た……」
その時、魔女のスマートフォンの着信音が鳴りました。
「もしもし、おねえちゃんだけど。ちょっと手違いがありまして、あんたのぬいぐるみたちも飛んできました」
「どういうこと!?」
「増幅装置に乗って飛んできたから...…」
「はぁ〜!!そんなの、危なすぎるでしょ!」
「聞いて...…」
「なんでこんなことになったの!おねえちゃんのせいだから!!」
「まず聞け……」
「だいたい、おねえちゃんの詐欺師みたいな能力なんて全然役に立たないんだから!!」
「シャラーーーーーーップ!!!」
「シャラッパなーーーーーーい!!!」
少しの間の沈黙を挟んで、おねえちゃんがきわめて事務的な早口トーンで言いました。
「ぬいぐるみたちを安全に降ろすために、増幅装置を時計台前の広場に一度着陸させ、冷却するため再び雲の中まで上昇させよ」
そして最後に「以上だ」と締めくくって通話が終わりました。
「キー!あの女なんなの!!ぬいぐるみたちに何かあったらどうするの!?私の大切な家族なんだから」
魔女はスマートフォンをショルダーバッグに突っ込むと、どこか見晴らしのいいところはないかと辺りを見回しました。
「あのデパートの屋上がよさそう」
そこは、魔女と先生が初めて出会った思い出のデパートでした。
魔女はさしていた傘をたたむと、ずぶ濡れになるのも構わず、「おりゃ!」という気合の掛け声とともに走り出しました。
息を切らしてたどり着いたデパートの屋上では、以前と変わらず『懐かしの昭和デパート屋上展』が開催されていました。
いつもは憩いの場として開放されている屋上には、横殴りの雨に打たれる動物や飛行機型のすごく遅いカートや、空気で膨らませるビニールの滑り台、それに小さな巨大ロボが設置されていました。
しかし、今は台風の吹き荒れる雨風のせいで人っ子一人いませんでした。
雨雲は紫に染まり、霧の力は時を追うごとに強くなっていました。
「これだけ強い力があれば、増幅装置も操れそう……」
魔女は街を見下ろしました。
「もうちょっと高い場所からなら広場もばっちり見えるのに」
魔女はそう言いながらも、迷うそぶりなどみじんも見せることなく小さな巨大ロボのコックピットに乗り込みました。
「やっぱりピンチの時はこれでしょ」
魔女はウキウキが止まらないといった様子で作りもののレバーやらボタンやらを操作しまくります。
「う~ん......。ちょっと角度が……」
もう動かしたくてたまらない魔女は、どうでもいい理由で自分を納得させるとショルダーバッグからコインを一枚取り出して投入口に入れました。
すると小さな巨大ロボはゆっくりと回転しながら、ガクンガクンと上下運動を始めました。
魔女はすっかりご機嫌ではしゃいでいたのですが、頭の片隅で何か重大なことを忘れているような気がしていました。
そして、小さな巨大ロボが時計台の方向に向いた時、その上空の紫の雨雲の切れ目から増幅装置がちらっと見えました。
「ヤバ!!」
魔女はガクンガクンと揺られながら、指先から紫に輝く砂を放出すると、紫の霧の力を媒介にしてその砂を飛ばし、増幅装置を包みました。
「わわわ。上手く魔法を操れない……」
魔女を乗せた小さな巨大ロボがガクンと跳ねた拍子に、勢いよく引っ張られた増幅装置は時計台に叩きつけられると、ポンと跳ねてあらぬ方向へ飛んでいきました。
魔女は慌てて引き戻しましたが、今度はビルの側面に激突してしまいました。
小さな巨大ロボがようやく止まると、やっと増幅装置は広場に着陸しました。
そして、ぐったりとした魔女はスマートフォンでおねえちゃんに電話しました。
「ぬいぐるみたちは無事?」
「残念だけど……ぐちゃぐちゃになって一つの塊になった」
魔女はハッと息をのみ、悲鳴とも歓声とも言えない何とも奇妙な雄たけびを上げました。
「それって、スーパー合体じゃん!!」
「……いいから、増幅装置を雨雲の中に戻してよ、爆発するから」

