【創作】手作りチョコ奇譚
🌸下記企画に参加しました🌸
あふれる涙が頬を伝う。私は衝動のまま、徹夜の自作チョコを頬張った。自作と言っても、製菓用の材料を厳選し、融点を計測、テンパリングも抜かりなく、パッケージにもこだわりぬいた自信作で、どこをさがしても白いブルームなど1点も見つからない。
チョコは裏切らない美味しさだが、渡そうとした相手からは振られた。
振られた。
衝撃のあまり思考が止まり、涙ばかりが止めどもなく流れ出す。声すら出なかった。先月は誘われた初詣で一緒にがんばろうねって、お守りまでおそろいにしたというのに。相手によるとチョコは有難くもらうが、付き合うつもりは無いという。
ニヤニヤした笑いが気持ち悪かった。先月までその笑顔を好ましいとさえ思っていた自分が馬鹿みたいだ。
『せっかく作ってくれたんだろ?いいからくれよ』
それを搾取と言わずしてなんというのか。
『もういい!』
私の一喝で、相手は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。間延びした顔が、今年の干支の馬っぽい。なんだかいっぺんに気持ちが冷めた。
この男はもう私の相手じゃない。こんな男に、愛しい自作チョコなど渡してなるものか。
私はチョコの入った紙袋を持ったまま、人目の少ない商業ビルの展望台に上がった。そして自作チョコを貪るという暴挙に及んだものである。
『あのぉ。。。お気持ちお察ししますぅ。。。』
紙袋のがさごそ音とは異なる声が聞こえて、私は手を止めた。
『(は?)』
口中はチョコを味わう為いそがしく、返事できなかったので、気持ちは顔面の筋肉で表現してみた。相手に見えたかは知らない。
『でもぉ。。。あのぉ。。。ええっとぉ。。。』
声は茫茫として私の空耳らしくもある。または心の声とか。ただこの状況で掛けられる言葉のバリエーションは多くはない。
①あんな男はやめとけ
②チョコの食いすぎはやめとけ
③寒いからさっさと帰れ
三択だ。
せっかくなので、かそけき声に全神経を集中してみた。こんな面白いことは滅多にないだろう。
『ありがとう。。。』
かそけき声は礼をつぶやき、そして途切れた。
もちろん紙袋には包装したチョコしか入れていない。
今回のチョコに費用をかけ、手間暇かけ、愛をこめて制作したのは事実だ。とはいえ、所詮は口中に入れるだけのチョコと私は心のどこかであなどっていたかもしれない。
私が制作したチョコは、その完成度のあまり魂を得るに至ったらしい。
自作のチョコに宿った魂に礼を言われて、私はもちろん驚愕した。そしてそれ以上チョコを貪るということはできなくなったし、一時の恋心に惑わされたあげく夜を徹してチョコを作るということ自体しなくなった。
だから以降、作ったチョコに礼を言われたことは無い。
【終】
画像は、久遠チョコレート宇和島店さまのinstagramのものです
