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この色を、そのまま持って帰りたい。〜一人ひとりの記憶に触れる器〜陶芸家・大渕由香利さん〜

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器との出会い


「この色を、そのまま持って帰りたい。」

初めて大渕さんの作品を見たとき、
そんな思いが湧き上がった。

その青は、宇宙から見た地球にそっくりだった。
深い青の中に、雲のような白がふわりと広がっている。

覚えているのは、
スペースシャトルからの中継映像。
息をのむような深く鮮やかなブルーが
印象的だった。

あの時見た地球の青が、
一つの器の中に現れていた。

そのほかにも、
クロード・モネの睡蓮の池のような平皿。

淡い空の青と、光浴びた海の青が溶け合うようなカップ。

春の野原のやわらかさをまとった花瓶。

記憶の奥にある景色が、
作品の前で静かに蘇っていく。

思わず「あの時の色だ」と言いたくなる。
でも、その答えはきっと、
人によって少しずつ違う。

手に取ってみると、軽やかな色合いにしては、
手に馴染む重さがある。

眺めていると、置く場所によって色の表情が変わることに気づく。

室内の灯りの下では、
どこか落ち着いた静かな色に見える。
窓際に持っていくと、
日光を受けてぐっと澄んだ青が立ち上がる。

同じ器なのに、さっき見た色とは少し違う。

海を思い出す人もいるだろう。
湖を思い出す人もいるだろう。
雨の日の空を思い出す人もいるかもしれないし、
旅先で見た空を思い出す人もいるかもしれない。
ある人にとっては、もっと個人的な記憶かもしれない。

その違いを、まるごと受け入れてくれる。

大渕さんの器には、そんな大らかなゆとりがある。


大渕さんは景色をそのまま写しているわけではない。
目にした空の色、草の色、水面の揺らぎ——
ふと心に残った色を、一度自分の中に持ち帰る。

そうして一度自分の内側を通った色を、
ときに繊細に、ときに大胆に吹き付けながら、
偶然の出会いも味方につけて、描いていく。

何でもない日を、ちょっと特別に。


刻一刻と変わる風景の、
境界線がファジーな美しい色合い。
そんな優しい彩りをまとった器やカップが、
日々の食事やお茶の時間に、
いつもと違う空気を運んでくれる。

好みのおつまみを買って、
お酒片手にゆっくりしたい時。
忙しい仕事の合間に、
お茶やコーヒーでほっとしたい時。
その器の優しい色合いや質感が、
その時間を緩やかにほどいてくれる。

料理が主役で、それを引き立てるのがお皿。
だから器の色はできるだけ控えめがいい、
という考え方もある。

でも、大渕さんの器は少し違う。
釉薬が幾重にも重なり、
自然なグラデーションが生まれ、
それが不思議と料理を邪魔しない。

むしろその色の移ろいやゆらぎが、
食卓の風景をやわらかく包んでくれる。


色から選んで、使い方は後で。


「いいなって思った色を選んで、使い方は後で考えてもらえれば。」

と、大渕さんは清々しく話す。

色から器を選ぶ。

料理に合わせて器を選ぶのではなく、
「この色が好きだ」という直感から選んでみる。

すると不思議なことに、
その色に似合う時間や料理が、
後からゆっくり集まってくる。



「この色を、そのまま持って帰りたい。」

その直感だけで連れて帰った器を、
朝のコーヒーや夜の晩酌のとき、
ふと眺めてみる。

「やっぱりいい色だな。」

と、もう一度思う。

それだけで、
その日の空気が少し変わる。


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