Split of Spirit 20
「でも何で」
「俺が説明しよう。」
柱の影から、大きな巨体が見える。
「お前ッ!!」
鳴田が立ち上がる。
そこにいたのは芝田。
「あれ、ちょっと待て?」
鳴田の中で解釈の齟齬が生まれる。
「まあ話を聞くんだな」
芝田はあの日の真相を語り出す。
あの日、南場の家に火をつけた後、
「俺が芝田を抑える。」
そういって鳴田と武内は、退却する。
「……さて」
芝田は突然、南場の目の前であぐらをかき始める。
「何…やってんだ?」
「ここからは同期の好しみだ。
選択するがいい。
鳴田と共にいるか、鳴田が自分自身の力で成長するのを見守るか。
俺は、アイツなら吉沢を救えるかもしれないと思っている。」
芝田の端的な説明に少々長考する。
「そういうことか、だが別に俺が吉沢を救うメリットはないが……」
「吉沢は、今も罪のない人々を襲い続けている。
俺の体もあいつに使われてその片棒を担がされている。
だから止めて欲しいんだ。」
「………鳴田がどうなるかは考慮しないのか。」
「それはお前が鳴田の次に分かってるんじゃないか?」
「ああ、そうだな。」
南場は決意する。
鳴田と別れることを。
南場は窓を突き破り、鳴田達とは逆方向に向かっていく。
南場とすれ違った芝田は、そのまま鳴田達の方へ行き、虚言を吐く。
「で、今に至るというわけだ。」
「『というわけだ』じゃないだろ、失敗してんじゃねえか。」
「何もかも失敗ってわけじゃないだろ。」
南場が鳴田の肩を叩く。
「実際に、お前は強くなった。
ただ、それはあくまで身体的な意味でだ。
イマジナリーブレインの精神がお前の精神と身体に追いついていない。
鳴田、お前の原点を思い出せ。」
「俺の原点………」
熟考する。
鳴田が南場と出会った日のことを思い出す。
人造人間が住民を襲って、俺と南場で止めに行った。
その後、組織の存在を知って、武内と会い、生死を賭けて戦う中で、イマジナリーブレインが覚醒した。
学校にも教員として南場がやって来て、校内で模擬戦闘をさせられた。
俺の心はあれから休まらなくなった。
修学旅行は、吉沢に襲われて、台無しになったな。
そうだ、生きて戻って、槙野さんに会わなきゃ。
警察と組織の抗争にも巻き込まれた。
あそこではたくさん人を死なせてしまった。
それから組織の幹部の「仲村」、「西英」と戦って自分の力のあり方を再認識した。
でも結局、吉沢には負けて、またたくさんの人を傷つける結果につながるかもしれない。
俺は……。
俺は、自分の力だけで人を助けようとしたんだ。
そのことから目を逸らして、犠牲を出すことを躊躇しなくなった。
自分の中のルールを妥協してしまった。
イマジナリーブレインに身体の主導権を渡してしまったために、たくさんの人造人間の命を奪った。
「俺は、取り返しのつかないことをした……」
「反省してる暇があったら、さっさと前を向きやがれ。」
「………」
「で、今、お前はどうしたい。」
「俺は、誰かに必要とされたい。
それが自分のエゴだとしても。
誰かに助けてもらえることは嬉しいから、俺は俺が嬉しいと思うことをするんだ。」
「話が長いな、つまり?」
「人を、吉沢を、助けたい。」
「お前一人でできるのか?」
「俺だけじゃ無理だ。南場ちゃん。
俺たちで助けよう。」
「どうやって助ける?」
「……それはまだ分からない。」
「まあ、付き合うぜ。」
南場は手を差し伸ばした。
思い切り掴んで、立ち上がる。
吉沢が目を覚ます。
椅子に座らされている。
「平良、俺は一体……」
「面白くなってきたからね、しばらくここにいてもらうよ。」
「これもお前の予想範囲内か?」
「さあね、俺は中立を貫くよ。」
そういってドアを閉める。
暗闇に包まれた部屋で吉沢は目を閉じて過去を思い出す。
「お前らはここで、人間と、自分の殺し方を学ぶんだ。」
吉沢、芝田、南場、武内の四人はこの養成学校の同期だった。
人造人間の役割は多岐にわたる。
その中でも7歳時点での潜在能力を見極められた者達が、この養成学校に入る。
「ったく、なんて狭い部屋なんだ。」
南場が文句を垂れる。
「四人一部屋なんて、プライバシーの欠片もない。」
「俺は筋トレができればそれでいい。」
武内は話の輪に入らずフラフラと外へ出かけている。
「まあ、同期として仲良くやろうぜ。」
南場が手を差し出す。
「一人いないけどな。」
芝田はすぐにその手を取る。
「先が思いやられるな、、」
南場は頭を掻く。
「ほら、吉沢も、」
「生憎、馴れ合うつもりはないんだ。」
手を払う真似をして、握手を断る。
五年間の厳しい訓練を経て、ようやくプログラムが終了し、イマジナリーブレインが、移植される。
一番最初に目が覚めたのは南場だった。
「………俺は誰だ。」
周りの風景が目に入って徐々に追想されていく。
「ぁぁああッ!!」
「やはり………実験は成功だ。
記憶は、身体にも宿る!!」
南場が過去の、人造人間として生きてきた記憶を思い出していく。
虐げられた記憶の中で、最後に思ったこと、それは。
「他の誰よりも人間らしくありたい。」
「人間らしい」とは、南場の解釈によるだろう。
少なくとも、今、置かれている状況は、人間らしい扱いではない。
続いて、芝田が目を覚ます。
芝田が最後に抱いた感情は、
「誰の下にもつかない、圧倒的な力が欲しい」
力に対する欲望だった。
武内が抱く感情は、
「復讐心」
制裁を加えようとする、その思考が、武内の精神に残虐性を与えた。
イマジナリーブレインは、なりたい自分を実現させる。
成長すれば退化もする。
ただの人間にはできない、能力、思考力を与える、それがイマジナリーブレインの本質。
吉沢が最後に思ったこと、
「他人を支配し、意のままにしたい」
感情が、身体に刻み込まれる。
