Split of Spirit 21
イマジナリーブレインを移植された、武内、南場、芝田、吉沢の四人は、そこから様々な人体実験を受ける。
四人の中にも怒りを覚える者もいれば、絶望に沈む者もいる。
「あいつらは、俺達をなんだと思っているんだ?」
薬品の投与、化学物質の照射、それらは並の人間に耐えられるものではなかった。
「よし、あいつら殺しちまおう。」
口を開く武内。
「久しぶりに喋ったと思ったら……」
南場が呆れる。
「殺して何の意味がある?」
吉沢が、武内に問う。
「スッキリするんじゃないか?」
あっけらかんと言う。
「そうか、それはやってみないとわからないな。」
吉沢と残りの二人が納得する。
四人は育成施設からの脱出と施設の人間への復讐を兼ねた計画を立てる。
計画を決行する日付になる。
就寝の時刻になり、見回り役が異常がないかを確認しにくる。
四人は就寝時の心拍数、脈拍に整えて、通りすぎるのを待つ。
「異常なし」
看守が、本部に送信した瞬間、4人は飛び起きる。
「決行だ!」
武内が一番に飛び出し、見回り役の喉笛を部屋にあったボールペンで突き刺す。
鮮血を吹き出して、卒倒する。
「ははっ、脆い脆い!」
武内が叫ぶ。
吉沢は感情のない目で、人の死の一部始終を眺める。
看守につけられていたアラートが鳴り、育成施設の防衛システムが作動する。
吉沢達は、管制棟を制圧した上で、予定通りのルートで脱出を試みる。
「そこを右だ。」
「おっと、危ない危ない、」
武内が後退りする。
「ここを出たら俺たちどうする?」
芝田はふとつぶやく。
「さぁな?」
一番に答えた南場は後先を考えていないようだ。
「面白いことがしたいなぁ」
武内のスタンスは一貫して自分の快楽中心だ。
吉沢は武内の問いに答えないまま進んでいる。
(俺は何がしたいんだろう)
つい意識が逸れる。
気を抜いた瞬間、曲がり角で見回りの人間に見つかってしまう。
「!!」
吉沢の腕は、自然と見回りの人間の首に近づいていた。
この人間が情報を拡散させる前に、殺さなければならない。
首に触れた瞬間、彼の記憶を垣間見る。
吉沢の中に断片的に記憶が注がれていく。
(なんだこれは、)
吉沢の意識が戻り、男から手を離すと、彼は固まっていた。
口が微かに動いているのを見るとどうやら死んではいないようだ。
目は虚になっていて、意識がない。
「なんだそいつ、」
武内が不思議がる。
「分からない、、」
吉沢の手は震えている。
(この感情は何だ。)
施設長室を蹴り破る。
「貴様ら……。」
施設長は、椅子にふんぞり返っている。
「馴れ馴れしい口をきくな。」
「もう早く殺しちまおうぜ。」
武内が催促する。
「まぁ待て。」
にやりと笑って言う。
「時間稼ぎか?」
「冥土の土産に、お前たちに移植されたものについて教えてやる。」
「?」
得意げに話し出す。
「イマジナリーブレイン。
人類の発展と破滅をもたらす代物。
君たちが人造人間として初めての被検体だ。」
「………」
「何だそれ、くだらない。」
南場が一蹴する。
「その顔は可能性を感じているという顔だな。吉沢……。」
「それはどこで作られたんだ?」
「イマジナリーブレインはある国の研究機関で生まれた。
戦時中に、我らの傭兵部隊が、回収したのだ。
その時、捕虜にした研究員から、詳細を聞いたのだがにわかには信じられない研究結果ばかりだった。」
「そうか、そうなのか。」
吉沢は手を握り締める。
後ろから、複数人の足音が聞こえる。
「まずい、傭兵部隊だ!!」
南場が焦る。
「逃げるぞ、吉沢!!」
何かを考え込んでいる吉沢の手を取る。
後ろから銃声が響く。
学校の敷地外の森を駆け抜けている。
森林地域の訓練でトップの成績だった、武内と芝田が、先導する。
「何だよ、イマジナリーブレインって、」
南場が独り言のようにつぶやく。
「少なくとも、生物としての限界を超えるものであるのは確かだ。」
「何だよそれ」
「これがあれば……何もかもが俺の思い通りだ!!」
震える手を見つめる。
南場が吉沢を殴り飛ばす。
「脱出できてすることがそれか!?
何のために俺たちは………。」
吉沢は体勢を立て直し、土を払う。
「君は、人間に復讐しようと思わないのかい?」
吉沢は立ち止まったまま問いかける。
「俺は、暗いことを考えて生きていたくない。」
南場は、吉沢に視線を向ける。
吉沢は、同じく立ち止まった芝田、武内の眼を見て、南場に言う。
「そう思っているのは君だけのようだ。」
「そうか。」
「非常に残念だよ、こんなところで決別するとは。」
南場の肩に触れる。
南場の意識はそこで途切れる。
吉沢は、南場と出会ってからこれまでの「記憶」を消去する。
吉沢達は、南場と別方向へ逃げて、とある町の廃工場を拠点に組織を作る。
十数人が集まって、集会が行われている。
全員が人造人間だ。
「私たちは、人造人間を解放し、人間を皆殺しにする。
そのため、今から物資、人的資源の調達を始める。
各々取り掛かれ!!」
人造人間たちは、敬礼の構えを見せて、忠誠を誓う。
吉沢は振り返って、芝田と武内に言う。
「南場は自ら去った。
俺たちとは違う道を選択したんだ。」
武内と芝田は何も言わずにただ軽く頷いている。
南場は、雨の中、道路の真ん中で倒れている。
吉沢に記憶と身体を操られて、意識を取り戻したときには、立ち上がるためのエネルギーは、残っていなかった。
(もう体が動かねぇ……)
指先を軽く動かしてみるが、雨粒に打たれて、感覚が遠のいていく。
(何でこんなことに)
南場の記憶は「誰か」に肩を叩かれた時点で止まっていた。
(あぁ、もうダメか。)
意識が途切れる。
「おい!!危ねぇだろうが!!」
軽トラから、年輩の男が飛び出す。
雨の中、道路のど真ん中で倒れている男の元へ向かう。
途中で男の様子がおかしいことに気づいて、倒れた男を担ぎ、助手席に乗せて、一直線に自宅へ向かう。
「……う~ん」
南場の意識が目覚めかける。
「うわっ、起きたよ!!」
「きゃー!!」
騒がしい子供の声ですっかり目が覚めてしまう。
「起きたか?」
子供たちに引っ張られて、年輩の男が出てくる。
「だ、誰だ、あんた?」
「命の恩人に向かって、なんて口の利き方だ。」
「命の恩人?」
自分の身体を見てみると包帯で手当てされていた。
「全くどんな生活してたんだ。」
施設からの生活に抜け出せたことを実感する。
「あ、ありがとう。」
涙がこぼれる。
人の優しさに触れて、唐突に涙が出たことに驚く。
「泣くんじゃねえよ!男だろうが、全く。」
その後、飯を食わせてもらって、個別面談の時間になる。
「お前はどこから来たんだ。」
「人造人間の育成施設だ。そこで暗殺のスキルなどを学んでいた。」
「そうか、お前は人造人間なのか。」
「……追い出すか?」
「いや、」
「そうか。」
「ここは孤児院だ。
身寄りのない子供を引き取って、私が育てている。」
「良いところだな。」
「私は住み心地がいいが、子供たちはどうだろうな。」
「のびのびしていると思うぞ。」
「そう思うか。
……そういえば、名前を聞いてなかったな。」
「南場だ。」
「南場か。私は岡田だ。
まあこれも何かの縁だろう、よろしくな。」
差し出された手を見て、記憶の中で何かが蠢いているような感覚に陥る。
(そういえば……)
「イマジナリーブレイン……、」
断片的な記憶の中でふと浮かんだ言葉を呟く。
つい言葉に出してしまったことに驚いて、顔を上げると、岡田の顔は怒りで引きつっていた。
「貴様、どこでそれを聞いた。」
「ち、ちょっと待ってくれ……。
………なんだその反応。」
「どこでそれを聞いたかと言っているんだ。
二度言わせるな。」
「わ、悪い。
俺が頭に埋め込まれてるものらしいんだが、経緯とか出所はよく知らないんだ。」
自分が焦っていることに気づく。
このようにスムーズに感情を出せたのは南場にとって久しぶりの経験だった。
「チッ、分かった。」
「何なんだ、さっきから。」
岡田は、言葉にするのを躊躇っているようだ。
しばらくして渋々話し出す。
「出会ったばかりのやつに話すのも何だが、『イマジナリーブレイン』を移植されたのはお前さんの他にもいる。」
施設長の言葉を思い出す。
(人造人間として初めての被検体。)
「あいつが巻き込まれるのは何としても避けなければならない……。」
岡田が呟いている。
(吉沢たちを変えてしまったイマジナリーブレインが悪用されてはいけない。)
南場の中で一つの結論が導き出される。
「守ってやる。」
「え?」
「察するに、あんたの大切な人なんだろ。
だから守ろうと言ってるんだ。
そいつの、名前は?」
しばらく沈黙が続く。
「………鳴田秀平だ。」
「鳴田……秀平。」
南場は、鳴田のアパートに着く。
「ここが鳴田の家か……。」
ドアを開けると、テレビはついたままだが、人影が見当たらない。
ソファーの奥から寝息が聞こえて、覗き込もうとしたタイミングで、ちょうど鳴田が目を覚ます。
ここから物語は動き始めた。
