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Split of Spirit 17

湯気が立ち上るカップを手に取り、新聞をめくる。

武内は優雅な朝食中である。

南場の家に居候して以降、朝昼晩三食とベッドと服を貸してもらっている。

(こいつ、便利すぎる。)

武内はコーヒーマシンに夢中だった。

マシンの窓越しに、注がれる様子を覗いている。

出来上がりが楽しみで仕方ない。

「3、2……」

「痛ぇぇえぇぇ!!!」

コーヒーマシンが音を立てるのと同時に、2階から、騒がしい物音が聞こえて、雰囲気を壊された武内はため息をつく。



「成長痛か……。」

並々に注がれたコーヒーカップを持ちながら武内がヤジを飛ばしている。

「そんな訳ないだろ!!舐めてんのか!?」

「毎度毎度奮闘するたびにそれだな。」

南場が飽き飽きしている。

「言っとくけど、お前ら二人ともほとんど戦線離脱してたようなもんだからな?

俺のおかげで勝ったんだから、少しは労わってくれ。」

「まぁ今回に関しては鳴田がMVPだな」

「そうだな、さてと……。」

南場が話を打ち切る。


分裂した『アンド ロイド』の勢力の3分の2を壊滅させることに成功した。

残すは、吉沢率いるグループのみ。

「今までの経験則的に考えると、吉沢の能力は、触れた相手の意識を乗っ取るというものだ。」

鳴田は考察を二人に共有する。

「あぁ、」

南場は相槌を打っているが、武内は明後日の方向を見ている。

何を考えているのかさっぱりわからない。

鳴田がそう思っていると、突然口を開く。

「だが、吉沢のイマジナリーブレインも成長しているはずだろう?

ここで能力を決め打ちしていいのか?」

イマジナリーブレインについては不明な点が多い。

南場は人間性、武内は暴力性、そして俺のような、新たな人格の確立。

言い換えると、精神そのものに影響を与えている例もあれば、

芝田のように身体の筋肉に影響を与えている例もある。

(イマジナリーブレインが要因かは定かではないが。)

吉沢の能力の対象、条件がさらに広くなっている可能性も考えられる。

「そんなの、どうやって戦えばいいんだ」

「吉沢と1対1でやり合うのは危険すぎる。

もし出くわしたら全力で撤退だ。」

武内と鳴田が頷く。

その時、家の外で轟音が響く。

「な、何だ!?」

鳴田が立ち上がる。

「突入」

「先手を仕掛けられたか、」

窓ガラスの割れる音がして、1階から人が侵入してくる。



吉沢は突入部隊に取り付けられたカメラの中継映像が映るモニターを眺めている。

「鳴田秀平君が動けないのは把握済みだから、こうすれば最も手っ取り早くリスクを取り除ける。」

「高みの見物だね。」

平良は、ドアの外枠にもたれかかっている。

「黒幕は本部を離れないものさ。

それよりも何故、今になって中立からこちら側へ来た、」

南場の家の住所が記されたメモを片手に、平良に問う。

「僕は不公平なのが気に食わなかったんだ。」

そう言い残して、背中を向けて歩いていく。

「有益な情報には変わりなかった訳だが。」

それを聞いた平良は無表情で、吉沢の元を立ち去る。


煙の臭いが鼻の裏にこびりつく。

「俺の家に、土足で上がるんじゃねぇ!!」

「さぁ、次はどうする?」

芝田が、鳴田たちの行く道を塞ぐ。

家は炎に包まれており、一刻の予断を許さない状況。

「俺が芝田を抑える。」

「鳴田はどうするんだ」

取り乱す武内。

「お前が運んでやってくれ。」

今まで聞いた南場の声の中で、最も柔らかく消えそうな声だった。

情けないことに、身体が動かない。

激痛と黒煙で呼吸さえも苦しい。

武内に担がれ、2階から窓を開けて飛び降り、森を駆け抜けていく。

いくつかの小隊と交戦したが、武内には片手間で十分だった。

南場の家から、ある程度距離は離れ、舗装された道に出る。

南場が戻ってくるのを待ち続ける。

心臓の鼓動が早くなって、体の表面は冷たいのに、体内は、じんわりと熱くなっていく。

思えば、南場と出会ってから、一日たりとも会わない日は無かった。

常に行動を共にしてきた。

武内にも俺の緊張が伝わっているらしく、体温が上がっているのが分かる。

背後から草木をかき分ける音が聞こえる。

「南場を探しているのなら、伝えておいてやろう。

もうアイツは戻ってこない。」

振り向きたくない。

見たくない。

これは芝田の声だ。




「………」

声を出せない。


南場との邂逅を何とか思い出そうとするが、記憶の端から燃やされていくように消えてしまう。

「あぁ、」

うまく声が出せない。

回想しようとしてみては、現実に引き戻される。

心が現実を直視できないから、逃避しようとしているのだろう。

もう後戻りできない場所まで来てしまった。

呼吸が止まる。

それでも心臓は鼓動をやめない。

「まだ弱いままだな、お前は」

芝田の言葉が耳の奥を通って、経験したことのない、黒い感情が湧く。

(もういい、)

(もういいや、)

(皆殺しにしてやろう、)

(誰のためでもなく、自分のこの感情を整理するために)

鳴田と目の焦点が合わなくなったのを見た芝田は、その場を立ち去る。


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