Split of Spirit 16
「なんだアイツ、、」
スーツが裂けた場所から覗いているのは金属。
それが身体中に見られる。
眼にも不気味な光が浮かんでおり、人間由来のものではないと分かる。
「改造はしてると思ったが、まさかここまでとはな。」
西英の構成員撃破ではなく、西英を倒す方向にシフトチェンジした鳴田たちは、爆発によって倒壊した雑居ビルの近くまで来た。
そこで目の当たりにしたのは、瓦礫を押しのけながら這い上がってきた西英の姿だった。
「殺してやる!!!」
手を伸ばした近くにあった鳴田の身長の倍ほどの大きな瓦礫を握ると、俺たちに向かって投げ飛ばす。
全員回避に徹底したが、落下点の中心にいた鳴田が少し反応に遅れる。
武内が身を翻してその勢いのまま、刀を抜いて岩を両断する。
「オーバーロード」
地面を蹴り上げ、身を宙に浮かす。
武内の切った岩を足場にして足場と逆位置の斬られた岩を蹴り返す。
一直線に西英に向かって飛んでいく。
「ガアッッ!!!」
西英が拳で岩を粉砕する。
南場が岩の陰に隠れて西英の間合いまで詰めている。
懐から取り出した銃で、西英の右足を撃つ。
それはテーザ―銃で、西英は感電して、動きが鈍っている。
が、一瞬のうちに体勢を立て直し、南場の武器を破壊する。
「効かねぇか、」
西英が拳を大きく振りかぶる。
武内が背後から、首を狙う。
しかし、刀は左手で受け止められる。
「全て見えているぞ。」
「俺はどうだ?」
南場の後方から回り込んだ鳴田が、西英の脇腹に、拳を入れる。
当たった感触は存外軽かった。
西英は吹き飛ばされる。
「ちょこまかと!!」
西英が、起き上がりながら叫ぶ。
「ぶち殺す。」
飛び上がった西英はそのまま落下することなく、宙に浮いている。
「え?」
どうやら脚の踵についたジェットパックのようなもので空中を闊歩しているらしい。
腕から銃身が覗くと、俺たち目掛けて乱射する。
「マジかよ!!」
地面が抉れていく。
銃口の先を見ていると、回避に遅れてしまう。
トップスピードで動き続けるしかない。
投擲しても破壊されるだろう。
「武内!俺を投げ飛ばせ!」
南場が叫ぶ。
「了解」
西英の背後に回り込み、武内が腕を構えて、南場が助走を始める。
呼吸を整え、高く飛び上がると、新たな銃を取り出して、西英に放つ。
それはワイヤーよりもさらに細いピアノ線のような透明な糸。
西英の身体にまとわりつくと、その場に固定される。
南場が着地し、武内と糸をもって、西英を引きずり降ろそうとする。
「甘い!!」
二人の力をもってしても、西英の馬力を上回れない。
それどころか南場と武内が西英の方へ引きずられ始めている。
「おッ、おッ、お!?」
武内と南場は空中を周り、遠くへ投げ飛ばされる。
鳴田が危機的な状況に陥っていることに気づくのに時間はいらなかった。
「お前一人だな」
「そうみたいだな」
果てしなく希望が見えない状況。
西英が空中から降りてくる。
ただ一人に冷たい銃口を定める。
一発目は避けられたが、二発目で肩を掠ってしまう。
赤い飛沫が舞い、動きが鈍る。
瓦礫の上で体勢を崩してしまい、西英が俺の間合いに侵入する。
「ようやく手に入る………」
俺の首を掴み、金属製の冷たい腕が、軋む音を立てながら、徐々に力が強くなっていくのが分かる。
「グッ……あぁ」
俺の意識が飛ばない程度に、力を緩めて、西英は語り始める。
「俺がどうして強いか分かるか?」
「………」
声は出さない。
「この身体には、マイクロチップが埋め込まれている。
全ての機関が独立して最適の行動を実行している。
俺は脳の電気信号を使い、そいつらを操ることで、潜在以上の力を発揮できる。
俺はこの行為を『同調』と呼んでいる。」
意識が飛びそうになる直前で、意識を入れ替えようとする。
「…………」
西英の腕が音を立て始める。
「ん?」
西英はようやく気づき、力を強めようとしたが、一瞬反応に遅れる。
鳴田は指を一本引きちぎって脱出する。
西英の手先から火花が飛び散っている。
「………通ったな」
西英は気づく。
今の鳴田の状態は、吉沢から聞いていた、精神自体が入れ替わっているものではない。
(さっきまでは、イマジナリーブレインの人格を一瞬入れ替えることで、攻撃や防御に転用するだけだった。)
最初は吉沢から聞かされていた通りだった。
目の前に立っている人間は今までの鳴田ではない。
まるで二つの人格が共存しているように見える。
(俺のような、養殖物の『同調』ではない。
アイツは殻を破ろうとしている。)
「………さんざん痛めつけてくれたな。」
西英は浴びせられた殺気に思わず距離をとる。
(コイツ、まずい…)
西英の視界から消える。
首を掴まれると同時に金属の曲がる鈍い音が響く。
そのまま片手でラッシュをかける。
(強化身体に損傷あり 直ちに退避)
西英の視界にはAR情報が映し出されている。
だが、それらも赤く光っていて危険な状態を示している。
「出来るわけないだろ」
ようやくラッシュが終わると、西英の身体は地面の瓦礫の辺りに投げ捨てられる。
鳴田がまだ形を保っている住居の屋根に飛び移ると、そこから西英目掛けて拳を叩きつける。
(まずい!!)
かろうじて機能の残っていたジェットパックの噴射で、座標をずらし、直撃を回避する。
鳴田の拳が地面に直撃した瞬間、鳴田を中心に、衝撃で地面が丸ごと抉られる。
(力は、俺より……)
西英に投げ飛ばされた二人は戦闘に復帰しようと、全速力で向かう。
「これ、やばいんじゃないか?」
「黙って走れ!!」
珍しく南場が苛立っている。
微かな衝撃音を拾う。
(なんだこの音?)
音が止んだかと思うと、人影が空中に飛びあがるのが見える。
「やばい!!」
武内が慌てる。
「いや、」
次の瞬間、爆音とともに土埃が舞う。
南場が戦線に復帰する。
「これは……」
倒れている西英の身体には至るところに傷がついている。
鳴田と目が合うが、その瞳は別人のように冷たい殺気を宿している。
「今のアイツは敵なのか?」
「違う、」
南場が即座に返す。
「……俺は俺だ。」
鳴田が意識を取り戻そうとしているその隙に西英は逃走を図ろうとするが、鳴田に身体を踏まれて身動きが取れなくなる。
「ブッ、ゔゔっ……!!」
西英の身体に吐血する。
「ここだ!!!」
鳴田が殴り飛ばされる。
着地した先でうずくまって動かない。
「は、ハハっ、ハハハハ!!」
西英が高笑いする。
鋭利な音とともに、西英の視界が赤黒く染まる。
「だからなんだよな」
武内が西英の後頭部から刀を突き刺し、頭部を貫通させていた。
「は、は。、は、は」
刀を抜かれると、その場にうつぶせに倒れこむ。
「ま、鳴田のイマジナリーブレインを狙うってことはそういうことだよな。」
西英は身体中を改造していたが、生身の部分は変わらず頭部にあった。
「脳も機械にすればよかったのに……。」
武内が場違いなことを言い出す。
意外にもあっけない決着だった。
安心した鳴田は、そのまま眠りにつく。
倒れた鳴田のそばに二人が駆け寄る。
「そっか、西英が負けるか。」
感じた強烈な気配。
顔を上げる南場と武内。
「あぁ気にしないでくれ。」
人影は、住居の屋根の上に佇んでいる。
その人影は、鳴田の部屋に芝田と侵入していた平良だった。
「僕は中立の立場だからね。
しかし、少し前まで未覚醒だったのがここまでとは……。」
倒れている鳴田を見る。
次の瞬間、鳴田の眼前に現れる。
「「なっ!?」」
認識できない。速度云々の話ではない。
平良に対する認識が阻害された。
南場は冷や汗をかく。
「何のつもりだ。」
「そう怖い顔をしないでくれ。
今日の目的はこれだ。」
メモ書きを放る。
南場が受け取り広げると、そこには住所が記されている。
「『いつでも歓迎する』と言っていたよ。彼は。」
