Split of Spirit 19
下の階層へと落ちた二人。
「チッ、なんて破壊力だ。」
鳴田の成長速度を見誤っていた。
鳴田のイマジナリーブレインは、本人の自覚がないだけで、生後間もない時期から存在していたのだ。
イマジナリーブレインが覚醒していなくても調和しているはずだ。
(ますます興味が湧いてくる。イマジナリーブレインの可能性に……!!)
「それじゃあこちらも能力を使わせてもらう。」
ビルが大きく揺れる。
何者かがこの建物の中に侵入した。
(何処から来る…)
心を研ぎ澄ます。
「……上か。」
アジトに残っていた人造人間たちが、向かいの鳴田たちのいるビルに向かって飛び移ってくる。
「………飛ばす。」
思い切り飛び上がると、とんでっきた連中とすれ違いざまに斬撃を浴びせていく。
耳元で悲痛な叫びが聞こえるが、気に留めない。
吉沢の下へ辿り着くころには肉塊になっていた。
(時間稼ぎか、鬱陶しい。)
あらかた切り刻むと、再び吉沢と向き合う。
「なんだ、君も殺してるじゃないか、」
「俺は守るために殺している。
お前とは違う。」
「俺は人造人間たちを守っている。」
「嘘だな、お前は自分の利益を優先している。」
「もしそうだったとして、それで何が悪い?」
鳴田の斬撃を避けながら、言葉巧みに煽る。
(俺の存在意義は周りの人たちを守ることなんだ、)
イマジナリーブレインが問いかける。
(だったら殺してもいいよね?)
(………)
(南場が殺されて、まだ決意がつかないのか!?)
(俺は……)
(もういい……貸せ!!)
鳴田の意識は深淵に沈む。
鳴田は言葉を発しなくなる。
「暴走か……少々厄介だな、」
鳴田の眼に純粋な殺意が宿る。
イマジナリーブレインが暴走している。
「鳴田の精神が耐え切れなくなったのか。」
戦闘のギアが上がる。
血液が循環し、脳が冴えていく。
(なんて気持ちいいんだ。
力を奮えるということがこんなにも……清々しいなんて!!)
「くそ、」
吉沢の身体に次第にかすり傷が増え始める。
(これで……!!)
刀を構え、タメを作る。
(終わりだ…)
すさまじい速さの刺突を繰り出す。
吉沢はにやりと笑うと、刀を避け、腕に触れ、意識を乗っ取る。
(……しまったな)
(これで鳴田の身体とも決別か…)
鳴田の動きは止まり、電気はもう流れない。
鳴田の手から刀が落ちる。
その刀を拾うと、吉沢は鳴田の腕を斬りおとそうと刀を振り上げる。
その時、後ろから、斬撃が放たれる。
吉沢は飛び上がって軽く避けると、顔を見て、鼻で笑う。
「なんだ、てっきり帰ったかと思ったよ、武内。」
「やっぱり、鳴田を見捨てられなくてな。」
思い切り走りだし、吉沢目掛けて刀を振るう。
「遅いね。」
吉沢は回り込む。
「何が君をそこまで突き動かす?」
かつてのように拳を打ち合う。
「さぁな?
鳴田が頼りないからじゃないか?」
「非常に残念だよ。
かつての仲間を手にかけなければならないということが。」
「いつか殺すつもりだったろ。」
鳴田の精神世界。
薄暗い部屋の中に、鳴田はうずくまっている。
(俺はなぜ人を助けているんだ。)
自問自答している。
鳴田は大切な人を思い浮かべる。
ただ言葉を発しない。
まだ南場を失った苦しみが癒えていない。
結局、俺は、周りが思う自分の人柄に沿って行動しているだけに過ぎなかった。
そこに何か強い信念があったわけではない。
(だから俺が生まれたんだ)
もう一人の自分が歩み寄ってくる。
鳴田はそれを強くにらみつける。
(なぜ睨む?
君の意思ではできないことをやってのけたんだ。
褒めてくれたっていい)
自分の顔を見た瞬間、人造人間たちを殺したときの感覚がフラッシュバックして、吐き気がこみ上げるが、堪えて、言葉をひねり出す。
「お前は……俺じゃない。」
(そう言ってくれるのは勝手だが、お前の身体は今にも殺されてしまいそうだぞ)
「もうそれでいい、それがいいんだ」
(大切な人を守らなくていいのか?)
「それは……」
(今、この瞬間にも殺されようとしているぞ。)
「!?」
「己の無力を呪うんだな。」
鳴田は目を開く。
目の前には吉沢と、武内が吉沢の前でうつぶせに倒れている。
吉沢は武内に向かって刀を振り下ろそうとしているが、背後から吉沢を殴り飛ばす。
「チッ」
「武内…」
「なんだよ、」
手を伸ばして、武内を起こす。
「戻ってきてくれてありがとう」
「けッ、」
頭を掻く。
「やっと正気に戻ったかよ。」
吉沢の殺気が会話を遮る。
(鳴田……!!)
吉沢の発していない言葉が脳内に流れ込む。
後ずさりする。
(今まで、何の力も持っていなかったくせに、力を持てば肥大化した正義感で、他者を犠牲に自分の思い描く世界を作り上げる!!
なんて傲慢!!)
「ぐっ。ううっ」
「おい、鳴田?」
(お前がいなければ、お前がいなければ!!)
「は、はっ、」
(お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前が)
「はっ、はぁッ!!」
脳内を流れる言葉の濁流に押しつぶされそうになり、鳴田はうずくまる。
吉沢の身体も震えていて、意識を失いかけている。
「あちゃ~、こりゃまずいか」
隣のビルから戦況を見ていた平良は、軽い身のこなしで、吉沢の元へ行き、倒れかかった吉沢を抱えると姿をくらます。
「おい、鳴田!?おい!!」
体を揺らされるが、声が遠のいていく。
鳴田の精神世界。
「うっ、」
思い出したくない過去がフラッシュバックしたような形容しがたい不快感が波のように襲ってくる。
「なんで、こんな目に遭わなくちゃならないんだ。」
涙をこぼす。
いくら涙をこぼしても、悪夢から覚めない。
「お前が」
「お前が」
「お前が」
「お前が」
「お前が」
今まで鳴田が出会ってきた人間から指をさされ、虚ろな目でこちらをにらみつけてくる。
「あ………。」
南場がそこにいた。
南場も周囲の人間と同じように、こちらを指差し睨んでいる。
「………」
色々な感情が渦巻く。
一通り感情の整理がついた後で、南場が口を開く。
「もういいよ、お前、しつこい。」
「…………」
「いや、南場ちゃんはそんなこと俺に向かって言わないだろ」
霧が晴れて、同時に目を覚ます。
周囲を見渡して、意識が途切れる前の景色と相違ないことを確かめる。
しかし一つだけ変わっていることがあるなら。
いつもそうだった。
俺が長い眠りについて起きたときに、隣にいてくれたのはアイツだった。
「何で」
「生きてちゃ悪いか?」
鳴田の目の前に南場がいる。
また鳴田は大粒の涙を流す。
今度は悲しくない。
「悪い夢でも見てたのか?」
「ったく、他人事みたいに言いやがって。」
「俺、何もしてないだろ。」
「してるんだよ」
「はぁ?」
「くっ」
鳴田は後ろに仰け反りながら、笑った。
