Split of Spirit 13
抗争が終結した夜に、鳴田は夢を見る。
眼を開けると辺りにはモヤがかかっている。
(どこだ?)
誰に言われたわけでもなく、ただ何か、失くしてしまった大切なものを探すべきだと強く感じる。
前へ向かって進もうとするが身体がうまく動かない。
進むのをやめてしまった。
立ち止まった鳴田に誰かが近づいてくる。
途中までうまく見えなかったが、下を向いているため誰かわからなかった。
(あの?)
うまく声が出ない。
手を伸ばせば届くほど近くまで来てようやく誰だか理解することができた。
(俺……?)
上がったその顔は自分自身だった。
「やぁ。」
思っていたよりも明るいトーンだった。
自分はこんな声なのかとも思う。
(なんで、)
鳴田は困惑する。
「君が僕の意識と同調を始めている。
理由が知りたいかい?」
小さく頷く。
「それはね………君が人を殺したいと思ったからさ」
「理由を簡単に挙げてしまうなら、そうなるね。」
思っていることがもう一人の自分にも伝わっているらしい。
今日の戦いで、吉沢と拳を交えたときに、わずかではあるが自分の意識の一部が欠落しているのを感じた。
その正体はコイツだったのだ。
「君は大切な人を守るために、人を殺めることができるかい?」
(それはできない。)
「即答だね、まぁそう答えるだろうとは思っていたけれど。」
少し考え込んで、そいつはもう一度質問をする。
「吉沢を殺してはいけないと意識したかい?」
否定できない。
あの時は無我夢中だったといえば聞こえはいいが感情に身を任せて、自分の持っている力を行使したのだ。
「ちなみに俺は人を守るためなら殺人も厭わないし、殺戮を行った吉沢を守ろうとは思わなかった。」
(………)
「自己紹介がまだだったね。
僕はイマジナリーブレインに眠る君のもう一つの意識。
名前は持っていないが、生後間もないころから、君と感覚を共有してきた。
君の中に渦巻く様々な感情、見てきた景色に対する感動や、君の恋情を眺めることができた。」
(え………。)
心の内側を誰かに見られていたことに恐怖する。
「話を戻すけれど、君が守りたいものと僕の守りたいものに違いはあるかな?
それを守るためなら、君はどんなことでもするという覚悟はないのかい?」
(手段が違えば、結果も変わってしまうはずだ。)
「じゃあ僕の力を引き出すことなく、一人だけの力で、吉沢だけじゃない理不尽に僕たちを傷つけてくる存在から周りの人たちを守れるかな?」
(それは………難しい)
「じゃあ決まりだ。
僕の力を分けてあげよう。」
(……それはどういう)
尋ねようとしたところで目が覚めた。
「お前、めちゃくちゃ寝言言ってたぞ。
まぁあんなことがあったんだし疲れてるんだろうな。」
「あ、あぁ」
慌てて答える。
「おい、飯はまだか?」
武内が叫ぶ。
つい一昨日から南場の家に泊まり始めたのに遠慮の欠片もない。
「分かったから、すぐやる。」
「俺はお前らより頭がいいんだ、だからニュースを見て理解できる。」
鳴田がちらっと、明転したテレビをみる。
そこには映っていたのは、全国各地で起こっている今までのとは比にならないぐらいのデモ活動だった。
『「人造人間を殺せ!!」』
『「何のために人間は生きている!!」』
『「人間の尊厳を奪うな!!」』
「な、何だこれ……」
武内が狼狽えている。
「まさか……」
鳴田は自分のスマホを濡れたままの手でポケットから取り出す。
「ま、マジか……。」
どうやら南場もこの事態の原因に気が付いたようだ。
「政府が、『組織』を、吉沢達の情報をバラしたんだ。」
「警察官が、大勢失くなってるのに、いくら口止めといっても限界がある。」
「それで……」
「日本中がパニックになる。
この状況が世界に伝われば、世界中の人造人間が反乱を起こすかもしれない。
でもまぁ平気で人体実験を行う人間は、被捕食者側に回るだろうからいい気味だな。」
「南場ちゃん!」
「当たり前だろ。
それが人間が人造人間たちに行ってきた仕打ちだ。」
「でもこれは、下手したら国が滅ぶな…。」
武内が二人の間に割り込んでくる。
「あぁ、この世界には人造人間が増えすぎちまった。」
絶望感に打ちひしがれている鳴田を横目に二人は黙々と飯を口へ運ぶ。
正直こんな状況にもかかわらず、飯を食べられる二人を、自分の中で一線を引きながら見つめている。
「なんだ、どうした鳴田、食わないのか?」
武内が箸で指しながら尋ねる。
「無理だよ」
「このくらいで応えるとは、繊細な人間だこと。」
「でも……」
「「?」」
「吉沢の組織をつぶしても、またほかの連中が世界中で暴れだしたら俺たちの手に負えない。」
「今、俺たちにできることをこなしていくしかないだろ。」
平然と口にする南場に鳴田は納得させられる。
鳴田は自分の甘さを痛感していた。
吉沢は人を殺すことに一切の躊躇いが無い。
そんな奴らと対等に渡り合うためには相手の命の保障をしていてはすべてのイマジナリーブレインを集める吉沢の計画を止められない。
組織の人間の命を奪ってでも計画を阻止しなければならない。
朧な目で窓から街を見下ろす。
日本を、この街を、大事な人を守らなければならない。
「やっぱり殺すしかない……」
「何考えてんだ、お前?」
武内が後ろからやってくる。
「何つまんねぇこと考えてたかって聞いてんだ!!」
「別に何も。」
「俺がお前たちに協力するって言ったのは、吉沢が憎かったからじゃない。
吉沢とより、お前たちと一緒に戦う方が面白いって思ったからだ!!」
「殺し合いが楽しいだと……!?」
鳴田は、武内の胸倉につかみかかる。
「何人死んだと思ってる!!」
「俺の目の前で!!」
息を切らす。
「警察官にだってその覚悟があって働いているんだろう。」
「お前はいいよ!!
自分が死んでも、誰も悲しまないんだから!!」
「そうか、、」
「結局、俺はあの時、誰一人助けられなかった。」
「それはお前の力が弱かったからじゃない。」
「俺の心が、身体が、意思が、………何もかも弱かったんだ。
それ以外の理由なんてない。」
「はっ、そうかい。」
下を向く鳴田。
「お前、もうつまんないよ。
噛んでも味がしなくなったガムみたいだ。」
鳴田は手を放す。
「とはいえ、吉沢に牙を向けた身だ。」
「俺もお前も協力しなければならない。」
「なんだ、仲良くなってんじゃねえか。」
通り過ぎた南場がつぶやく。
「「どこがだ!!」」
