Split of Spirit 14
南場の得た情報により、
「組織は離散し、三つのグループに分散した」ということが分かった。
「どうする、鳴田、俺たちだけで組織と戦うか?」
「それがいい。」
「俺もそっちの方が楽しいと思うぞ。」
「「………」」
公的機関の手を頑なに借りようとしない鳴田の意を汲み取り、南場と武内は、三つのうちの一番規模の小さいグループからの撲滅を提案する。
それに鳴田は賛成し、計画の詳細を練り始める。
「三つのグループの中で一番規模が大きいのはどこだ?」
「『仲村』班、『西枝』班、一番規模が大きいのが、『吉沢』班だ。
前二人は幹部級だが、吉沢班には、その幹部級がゴロゴロいる。
今回俺たちが、潰そうとしているところは『仲村』のグループだ。」
「『仲村』って…確か、」
鳴田は、廃駅での構想を思い出す。
「げっ、仲村か………、あいつとはやりたくないなぁ。」
「武内でも戦うのは嫌なのか?」
「強い奴は好きだ、けど、それとこれとは話が別だ。」
「そいつらは今どこに?」
「広島の観光地、宮島だ。」
悠長にしている暇はない。
「早く向かおう!!」
「なんか頼もしくなったな。」
南場が鳴田に聞こえない程度に褒める。
「いや、俺には………。」
武内が小声で反論する。
鳴田たちは電車を乗り継ぎながら、フェリーターミナルへと向かう。
「嫌な記憶が蘇るな。」
「アジトは島全体にあるのか?」
「いや一部だけだ。ただ吉沢が使っていないだけで、仲村達は単独でここを拠点にしているらしい。」
「そうか」
宮島には、シカや観光客が多く、ここで騒動を起こせば、分散した組織全体に、動向をマーキングされる危険がある。
フェリーを降りた後、観光客の流れに逆らって、山の中を移動する。
「この先にアジトがある。」
武内は腕を回して刀を抜き、間合いの周りに生えている木を斬りおとす。
「俺は仲村の次に強そうな奴から倒す。
仲村は頼んだぜ二人とも。」
「「………」」
30分ほど歩いて、閉鎖されたキャンプ場にたどり着く。
接近に気づいていたらしく、集団が待ち構えている。
どうやら、先頭のリーダーらしき人が一番に出迎えてくれるようだ。
「ひっさしぶりね~!!!」
抗戦で会った時の寒気が再び鳴田を襲う。
見た目と言動がマッチしていない。
加えて、これまでの戦いでは発せられたことのない危険信号が鳴っている。
「どうする、いきなり出てきたぞ。」
「いきなり、大将戦か…」
「俺は、いつでも大丈夫だぞ。あいつ以外と戦うんだったら。」
「もう、私を差し置いて、話を進めないで。
それとも何かしら、新たなプレイ?
私の凝り固まった性癖をほぐしてくれるじゃな~い。」
「き、キモい。」
「だから、武内も言ってただろ。」
「あら、南場君だけかと思ったら、この前の可愛い坊やもいるじゃないの!!」
名前を呼ばれて、一瞬気が緩む。
警戒を解いてしまった。
「駄目よ、油断しちゃ。」
鳴田が立っていたところに拳を打ち込んだ仲村。
コンクリートで舗装されていた道が、菓子のように簡単に割れる。
南場が俺の服を引っ張り、寄せていなかったら、戦闘不能になっていた。
地面から持ち上げ、粉を吹くあの拳のクリーンヒットを1発でも食らえば、ゲームオーバーだ。
「吉沢から話は聞いていたわ、でもね、私はあなたに魅力を感じてないの。私は、強い人にしか興味がないから。」
拳についた砂埃を払いながら淡々という。
仲村の攻撃が起点となり、開戦する。
武内は、仲村の背後に周り、仲村以外の人造人間50人程度を相手取る。
一方、鳴田たちは、仲村に苦戦していた。
筋肉ダルマの芝田よりも、パワーは劣るが、フェイントや避ける動作に無駄がない。
これは武道の技術だろう。
南場との連携で、仲村に拳は入るが、ダメージが通らない。
やはり自分では決定打に欠ける。
とはいえ、ここで意識を切り替えてしまえば、南場との連携ができなくなる。
鳴田が葛藤して、動きが鈍った瞬間を、仲村は見逃さず、鳴田の腹部に強烈な正拳突きを入れる。
鳴田は吹っ飛ばされ、木に激突する。
意識が朦朧として、また頭の中から声がする。
「力を貸そう。」
鳴田が返答する前に、深層から、別意識が昇ってくる。
南場は、仲村と拳を打ち合っている。
「どうして吉沢はあんな奴に目を付けたのかしら?」
「考え事とは余裕だな。」
「ええ、あなたの『それ』は訓練で、もう見切っているわ、」
南場と距離をとった時、仲村の視界に、倒れこんだ鳴田が映る。
(やだ、あの子、雰囲気が……立ち上がってくる!?)
南場の横を通り抜け、仲村に殴りかかる。
「マジか」
仲村はとっさにガードの姿勢をとるも、間に合わず、顔面にクリーンヒットする。
仲村がひるんだ瞬間、ボディーに連打を浴びせる。
「くっ!」
(こんなガキに膝をつかされるなんて、)
鳴田はひとしきり、攻撃を終えると、距離をとる。
南場は、戦闘に参加せず、後方で構えていた。
(あの状況で俺を攻撃しなかったということはイマジナリーブレインの人格には敵、味方の判断がついている。
あの『人格』……)
「クソガキが!!!」
仲村は怒りに任せ、飛び掛かるが、攻撃が当たる瞬間に躱される。
(とは言え、体格は貧弱。
さっきのラッシュも、それほど効いていない。
向こうの攻め手は決定打に欠けているわ。)
仲村が着地した瞬間に地面に鈍い音が響き、仲村の身体は吹き飛ばされる。
(あら?)
八極拳の基礎技術である『震脚』は、大きく足を踏み込むという一見単純な技だが、この技を玄人が行えば、周囲の地面は大きく震える。
『震脚』の真価は、足から生まれたエネルギーをそのまま背骨、腕、拳へと伝えて、威力の加速度的な向上につながること。
(動きが……!!
これが、吉沢の言っていたッ!!)
殴り飛ばされた仲村は、その場に倒れこむ。
仲村が目を開けると、鳴田は、馬乗りになって、拳を上げている。
(連続で喰らうのはまずい!!)
鳴田は連打で仲村の防御できていない箇所に着実にダメージを与えていく。
一瞬、鳴田の動きが鈍くなった瞬間に拳をはじき返し、体制を整える。
「よく見たら、あなた可愛いだけじゃない、強くていい男ね。
でももう慣れたわ。」
南場は手を出そうとしない。
鳴田の意識が揺らぐ。
(お前は俺だ!!)
鳴田の意識が浮上し、自力で意識を混在させることに成功する。
(また様子が変わった。
なんて不安定な精神状態、吉沢のとは大違いね。)
「来い、南場ちゃん!!」
「おう!!」
南場は嬉しそうに、鳴田の隣へ向かう。
「一気に畳みかける!!」
「あなたが戻ってきたところで、今更何が」
鳴田が再び足を大きく踏み込む。
(その構えは………)
仲村の脳内で、先刻の光景がフラッシュバックする。
(来る……!!)
仲村がカウンターを仕掛けようと、拳を振りかぶる。
走って距離を詰める鳴田。
(来なさい!!)
鳴田の身体が目の前で急に旋回する。
(!!)
『鉄山靠』
がら空きになった、仲村のボディーに強烈な体当たりを仕掛ける。
仲村の肋骨にヒビが入る。
一瞬ひるんだ仲村だったが、そのまま振り上げた拳を、鳴田に向かって振り下ろす。
限りなく少ない動作で、仲村の背後に回り込む。
拳が空を切ったのを確認した南場も一気に距離を詰めにかかる。
「この!!」
鳴田に気を取られて、南場の接近に気が付かない。
振り返りながら、もう一度、殴りかかる。
鳴田はそれを避けようとしない。
(これで!!)
鳴田は左手を滑らかに動かし、仲村の振り上げた拳の衝撃を吸収し、受け流す。
(なっ!!)
「流石だな!!」
仲村の間合いの中に入った南場。
背中から仲村の心臓のある位置に拳を構える。
仲村は殴打を受け流された反動で、鳴田に、覆いかぶさるように倒れこむ。
鳴田も仲村を挟んで、南場と同じ位置に、拳を構える。
『『寸勁』』
双方向からの衝撃が、仲村の心臓を中心としてぶつかり合う。
「グッ………!」
仲村は口から吐血する。
そのまま前のめりに倒れこむ。
微弱な拍動を感じ取った鳴田はとどめを刺すことはしなかった。
「たくさん人を殺したんだろうな。」
「ああ」
「こいつらも……、だったら、…」
「同情か?」
返り血をおぞましい程浴びた武内が問う。
「そうなっちまうな」
「やっぱ、お前が人を殺すなんて無理な話だと思うんだがね」
武内は、汚れ切った刀を、血まみれの服で拭いている。
「それでも、俺は、命を奪いたくない。」
自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。
