山の暮らしの物語33 冬の発電所
< このシリーズは
戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです >
お正月も終わって、三学期が始まった。
今日は父さんが仕事で遠くに出かけている。
代わりに母さんが、電気を起こしに発電所に行くので
ゆきちゃんも、メイちゃんを誘って、二人で遊びに行く事にした。
いつも学校に通う道路から見下ろすと、ダム湖が青い水をたたえている。
その下流に、小さな発電所があるのだ。
発電所のために切り開いたザラザラと小砂利が崩れる坂道を
転がるように、二人は駆け下りて行く。
ダムから引いた水路が流れ込む貯水槽に着くと
「ねえ、 ダム 見にいこうよ」
ニット帽のメイちゃんが、木の板でふさいである水路の上を トントンと駆け出した。
「待ってよぉ〜」
マフラーを結びなおして、ゆきちゃんが追いかける。
ところどころに落ち葉が積もった、ゆるやかな傾斜の水路の上を行くと
ダムから水を取り込む取水口に着いた。
夏なら、村のお兄さん達が魚捕りに潜っていたりするけど、今はだぁれもいない。青黒い水が渦巻いているだけだ。
「なんか、怖い…」ゆきちゃんは後ずさるが
「なんもないって」メイちゃんは、平気な顔をしている。
やがて、お腹を空かせた二人は発電所に戻って来た。
息をはずませて扉を開けると、中ではもう発電機が動いていて
母さんがニコニコしながら待っていた。
「どこ 行っとったんや?」
「ダム 見てきたよ」二人は口をそろえる。
「あれよ〜 危ないやろが」
「平気、平気」とメイちゃん。
ホッとした母さんが、渦巻き状の電熱器をコンセントにつなぐと
たちまち、赤く熱して来た。
今日は、暮れについたお正月のお餅の残りを、焼いてくれる約束だった。
母さんは、あんこの入ったよもぎ餅が大好きだ。
とうもろこしの粉を混ぜた黄色いお餅や
大豆入りの豆もちなども、焼き網の上に並ぶ。
その隣では、小さく割った白い鏡餅もがんばっている。

ぶく〜っと膨らんだよもぎ餅が裂けて、あんこが飛び出して来た。
「うわ〜 あっちち」
母さんは、あわてて網を下ろし、今度は古ぼけたやかんを載せた。
何しろ、ここは小さいながらも 水力発電所 、出来立ての電気と水には困らない。
コンクリートの小さな建物の中で
かわいい発電機がでんと座って、ブンブン音を立てている。
外からは、ざぁざぁという冷たい川の水音が聞こえるが
熱いお茶も入って、はふはふと、お餅をほおばるとだいぶ温かくなった。
母さんがお茶の手を止めて言う。
「メイも、春から学校やね」
「うん、お父さんがランドセル買うてくれた〜」
「もう、どっこも痛ないかい?」
「うん!」
実は、去年の秋、メイちゃんには事件があったのだ。
石垣を積んで少し高くなった作業場に
じいちゃんがこしらえてくれたブランコがあった。
ある日、近所の美穂ちゃんが遊びに来て、ブランコに座っていた。
メイちゃんが、かがんで何か拾おうとした時
美穂ちゃんが、うっかりブランコを漕いだので
ブランコがぶつかって、メイちゃんは、下の畑に転げ落ちてしまった。
村にたった一台の車、軽トラックの持ち主 安次さんに頼んで
町のお医者さんに駆け込むと、腕の骨にヒビが入っていた。
そんな事があったので、元気になって皆がほっとしている。
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