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青ブラ文学部 | 闇があるから光がある 闇に響く小さな音


コトン

玄関先でかすかな音がして、バイクが走り去って行った。


美緒は、ベッドに伏したまま身じろぎもしない。
朝の光が射しても、その心は深い闇の中にいた。

明るい光、人々の行き交う声、足音、そして小鳥の声さえも
闇に沈んだ彼女の心を苦しめるものでしかない。

視力に異常はなかったが、彼女の心が色彩を拒絶する。
彼女の視界は、ほとんどモノクロームだった。

時に、色彩を感じることがあっても
全ての風景が、ガラスの向こうの別世界にある。

美緒が、あの不幸な事故から目覚めて、もう二年になるが
心はいまだ闇の中にいる。

心が安らぐのは、夜の闇の中だけであった。
何も出来ない自分、人と会う事も、笑う事も、外に出る事もなく
無用の存在と化した美緒の命は、虚しく過ぎてゆく。

夜だけが優しかった。
夜だけが存在を許してくれる日々。


そんなある明け方、聞こえて来たコトンというかすかな物音。

夕刻、食事を運んで来た母が置いて行ったのは、一枚の厚手の葉書だった。
赤い椿の花が、一輪そっと描かれてる。

送り主は、卒業してから会っていない高校の同級生。
美緒は、何か遠いものを見る眼で、それを傍に押しやった。


だが、それから時々、その絵手紙は気まぐれに届いた。
季節の草花が、柔らかなタッチで描かれ、余計な言葉はひとつもない。
 
ただ Saeko と小さなサイン。

季節は、美緒を置き去りにして過ぎてゆく。
だが、彼女はいつしか、ポストに響くコトンという音を心待ちにしている自分に気づいた。

緩やかに、心の氷が溶け出すのを感じていた。

そして、ある日、遠慮がちに届いたのは、一冊の文庫本。
それは「光射す海」という小説だった。


それを読み終えた朝、美緒は初めて散歩に出かけた。
薄れてゆく闇の中で、はるか遠くの水平線に光が射して来るのを見た。


山根あきらさんの 企画 
闇があるから光がある」というお題に、応募させて頂きます。
よろしくお願い致します。

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