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山の暮らしの物語29 魚が降って来る


< このシリーズは
 戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです >


村の発電所も順調に動き出し、ゆきちゃんに、初めての夏休みがやってきた。

小さな滝の水しぶきが、河原を濡らしている。
流れにのって、魚がキラッと光りながら降ってきた。

その魚はピチピチと身をくねらせながら
河原を流され、本流に逃げ込もうとする。

「うわぁ〜」
ゆきちゃんと、いとこのメイちゃんは
歓声をあげて、跳びはねる川魚に飛びついた。

ここは、村の発電所のそばにある河原だ。
上流のダムから、貯水そうに流れ込んだ水があふれ
5メートルほどの崖を、滝になって河原に落ちてくる。

「あ〜 逃げられた」

もうちょっとのところで、その魚は大きくはねて
元の川の流れに飛び込んでしまった。

だが、魚は次々と落ちてくる。

「あっ、むつがおるよ」
「なんか、おっきいのも おる」

「とった! アユ〜」

ゆきちゃんが一匹目を捕まえた。

「わぁ〜 アメノウオ!」

今度は、メイちゃんの声が上がる。

「どこ どこ?」

「そっちのおっきい石の下に入った」

「ここか〜」

ゆきちゃんが、急いでその水たまりの逃げ場をふさいだ。
メイちゃんが 大きな石をひっくり返すと
赤い斑点をきらめかせた魚が、逃げ場を求めて砂の上に跳ねあがった。



メイちゃんが、急いで、跳ねるアメノウオを押さえつけた。

普段は深みにいる魚も
ダムの取水口に吸い込まれて、空から降ってくる。

それを手づかみできるのだから、二人はもう大騒ぎだ。
とりあえず、石でかこった小さないけすを作る事にした。

最初の2匹をいけすに放つと、滝の流れの下で待ちかまえる。
捕れた魚を、次々といけすに放り込みながら
いつの間にか、二人はびしょ濡れになっていた。🐟


弟の文ちゃんが生まれてひと月がたち、母さんもすっかり元気になった。
今日は、久しぶりに仕事を休んだ父さんが、二人を連れて来てくれたのだ。

父さんが発電所の作業をしている間、二人は夢中で遊んでいた。

やがて、陽も傾きかけた頃 急に滝の水が少なくなった。
発電所の用が済んだ父さんが
貯水槽の水の流れを切り替えて 発電機を回し始めたらしい。
発電所に明かりがついている。

父さんは河原に降りて来ると、二人の作ったいけすをのぞき込んだ。

「こりゃあ ようけ捕れたのう」
「うん」

「おじちゃん、このアメノウオ、メイが捕ったんやで」
メイちゃんは、得意そうだ。

「これ、ゆきが捕った」
ゆきちゃんも、負けじと大きな一匹を指差す。

「そりゃ、二人とも大したもんや。さあ、そろそろ帰ろか」
「うん!」

父さんが、笹ダケを切ってエラに通してくれた魚をぶら下げて
二人は大はしゃぎで帰りを急いだ。

遠くの山あいでは、ヒグラシが鳴き始めた。
ゆきちゃんの夏休みもそろそろ終わる。


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