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【連載#20】「デジタルワーカー」を派遣するという発想—RECERQAが目指すAIエージェントの新しいサービスモデル

「受発注担当者が足りない。でも、採用しても定着しない」

この課題を抱える企業は少なくありません。採用難、人件費高騰、そして属人化。従来は「システムを導入する」か「BPOで外注する」かの二択でした。

第15話・第16話では、SaaSからSaaSwへ—「ツールを使う」から「仕事を任せる」へというパラダイムシフトを整理しました。第17話〜第19話では、その技術基盤となるAI-OCR、データ正規化、情報の断絶について掘り下げました。

今回は、これらを統合する概念である「デジタルワーカーを派遣する」という発想について整理します。



セクション1:「デジタルワーカー」とは何か—RPAでもチャットボットでもない

まず、「デジタルワーカー」の定義を明確にしておきます。

RPAとの違い
RPAは「もしAならBをする」というルールに従う自動化ツールです。決まったパターンには強いですが、想定外の状況には対応できません。画面レイアウトが少し変わっただけで止まることもあります。

チャットボットとの違い
チャットボットは質問に答えるインターフェースです。「在庫を教えて」には答えられても、「在庫が足りないから発注して」という依頼を自律的に処理することはできません。

では、デジタルワーカーとは何か。

デジタルワーカーは、業務を自律的に遂行するAIエージェントです。目標を与えると、必要な情報を収集し、判断し、アクションを実行します。ただし、重要な判断が必要な場面では人間に確認を求めます。

ここで強調したいのは、最終判断者は常に人間であるという点です。「任せきり」ではなく、「判断を残して、作業を任せる」設計です。

ある化学品商社C社(年商1,200億円、取引先600社)の経営者は、こう表現しました。

「受発注担当者を採用するとき、最初から全部任せることはありません。定型的な案件から始め、徐々に判断を任せていく。デジタルワーカーも同じです。いきなり全部は任せられないけど、定型的な処理から始めて、人間は例外対応に集中する」

この発想が、デジタルワーカーの本質をよく表しています。


セクション2:「ライセンス販売」から「派遣」へ—サービスモデルの転換

従来のSaaSは「ソフトウェアの利用権を販売する」モデルでした。月額○万円でシステムを使える権利を得る。使いこなすのは自社の責任。効果が出るかは活用度合いに依存します。

このモデルには、ソフトウェアは「道具」であるという前提があります。

デジタルワーカーを中心に考えると、この前提が変わります。ソフトウェアは「道具」ではなく「労働力」です。道具を売るのではなく、労働力を派遣する。これがSaaSwのサービスモデルです。

人材派遣と比較してみます。

  • 人材派遣:人材を「所有」するのではなく「利用」する。必要な期間、必要な能力を確保できる。雇用リスク、教育コスト、退職リスクは派遣会社が負担する

  • デジタルワーカーの派遣:同じ構造。必要な業務に対して、必要な能力を持つエージェントを配置する。システム開発、運用保守、バージョンアップのコストは提供側が負担する

「でも、それはSaaSと同じでは?」という疑問があるかもしれません。

違いは価値の測り方です。従来のSaaSは「機能」で価値を測りました。デジタルワーカーは「成果」で測ります。どれだけ業務を遂行したか、どれだけ工数を削減したか。

第16話で述べたように、この発想は価格モデルにも反映されます。機能課金から成果課金へ。処理件数、削減工数、最適化効果といった測定可能な成果に基づく課金モデルが現実的になりつつあります。


セクション3:RECERQAが提供する6つのデジタルワーカー

ここで、リチェルカが開発しているRECERQAシリーズのデジタルワーカー(AIエージェント)を紹介します。

1. 見積作成エージェント

現状:営業部門の担当者が、顧客からの見積依頼を受けるたびに複数の作業を手作業でこなしています。

  • 顧客ごとにフォーマットも書き方もバラバラな依頼文面を読み解く

  • 記載されていない情報(サイズ、規格、数量の単位など)を過去の取引履歴や顧客との会話から補完・推測する

  • 複数メーカーのカタログを調べ、どのメーカーのどの製品が要件に適合するか判断する

  • 鉄鋼のように市場価格が日々変動する製品は、都度メーカーや仕入先に見積依頼を出して最新の仕入価格を確認する

  • 取引先ごとに掛け率や価格条件が異なるため、同じ商品でも顧客によって提示価格が変わる

これらを総合して1件の見積書を作成するため、ベテラン担当者でも1件あたり30分〜1時間、複雑な案件では半日以上かかることもあります。

エージェントの役割:顧客からの見積依頼(メール・FAX・電話メモ)を投げ込むと、AIが依頼内容を解析し、不足情報の補完・推定を行ったうえで、どのメーカーのどの商品が要件に適合するかを特定します。

この適合判定を支えているのが、各社の製品カタログの情報が正規化されて登録されたデータベースです。各メーカーの製品カタログをRECERQA ScanでAIが参照できる構造にデータを正規化し、RECERQA Hubに商品マスタに蓄積しておくことで、新しい依頼が来たときに瞬時に適合する商品を充てることができます。

適合商品が特定されると、エージェントは仕入先向けの見積依頼書を自動で生成します。営業担当者は、見積依頼書を確認して仕入先に送付。仕入先から見積書が届いたら、取引先別の掛け率・価格条件を適用して得意先向けの見積書を作成するといった、一連の流れをエージェントが支援します。

2. 品番特定エージェント

現状:品番特定エージェントは様々な業種で活用できますが、代表的なユースケースとして自動車部品商社のケースを紹介します。

自動車部品商社の得意先は自動車修理工場で、問い合わせの約8割が電話です。修理工場の担当者は、自分たちの現場用語で欲しい部品を伝えてきます。「○○の左側についてるやつ」「このクルマのブレーキ周りの部品」といった表現です。

正確な品番を特定するには、まず車の型式(車検証の型式指定番号や類別区分番号)を聞き出し、口頭のやり取りから相手がどの部品を指しているのかを翻訳する必要があります。前提条件の確認と、現場用語から正式な部品名への変換。この作業はベテラン担当者の経験と知識に大きく依存しており、属人化の典型的な業務です。

エージェントの役割:見積作成エージェントにも適合製品を特定するフローがありますが、品番特定エージェントはより曖昧度の高い問い合わせから正解を特定することに特化しています。

電話で受けた断片的な情報(車の型式、現場用語による部品の説明、用途や取り付け位置など)をエージェントに入力すると、車種別の部品データベース・メーカーの分解図情報・過去の特定履歴を横断的に検索し、該当する部品の候補を確信度つきで提示します。

担当者は候補から適合する部品を選び、分解図を得意先に送付して確認を取ります。OKが出れば発注商品が確定し、発注へと進む。注文の前工程として、「そもそもこの部品で合っているか」を確認するプロセス全体をエージェントが支援します。

3. 受注登録エージェント

現状:受注センターの担当者が、FAX・メール・電話で届く注文を1件ずつ基幹システムに手入力しています。第19話で述べた「3つの断絶」がまさに発生する業務です。

現場で起きている課題は多岐にわたります。

  • 注文書に得意先側の品番しか書かれていない

  • 複数メーカーを取り扱う商社の場合、顧客がメーカー名を明記せず「いつものメーカー」という前提を省略している

  • 取引先名の表記が自社の顧客マスタと異なる

  • 注文の単位(個・箱・ケースなど)が取引先によってまちまち

AI-OCRで読み取るだけでは不十分で、過去の取引を参照しながら正しい商品を特定する必要があります。まさにベテラン社員が経験で日々判断している部分です。

商品が特定できたら、次は出荷日の判断です。在庫を確認し、一部欠品がある場合は部分出荷か全量出荷かを決める必要があります。この判断基準も取引先によって異なり、ベテラン社員なら把握していますが、個人のExcel表で管理されていることも珍しくありません。

エージェントの役割:AI-OCRで注文書(FAX・PDF・メール本文)を読み取り、品名・数量・納期・届け先などを抽出します。

ここからが重要です。得意先側の品番や省略された表記から自社商品を特定するために、RECERQA Hubに連携された過去の受注履歴・顧客別の取引パターン・商品マスタを参照し、「この取引先がこの品名で注文してきた場合は、○○メーカーの商品Aである」といった判断を行います。取引先名の表記揺れや注文単位の違いも、過去のトランザクションデータをもとに正しく変換します。

商品が特定されると、在庫状況を確認し、部分出荷か全量出荷かの判断も取引先ごとの出荷ルールに基づいて提案します。これらの情報がシステム上に一元管理され、すべてのトランザクションデータがつながることで、経験の浅い担当者でもベテラン社員と同じ判断が可能になります。

エージェントは最終判断を人間に委ねる設計です。過去の受注履歴や在庫情報といったエビデンスをセットで提示し、担当者が根拠を確認したうえで承認する。商品の特定と出荷日の判断が完了すれば、受注登録は完了です。

4. 見積査定エージェント

現状:大企業では間接材の購入や工事発注において、購買部門が発注前に見積書の明細をチェックし、価格の妥当性を確認するプロセスがあります。コストが高い箇所は交渉し、発注額を決定します。

しかし、実際の見積明細は金額の大きい工事費などで数十ページ・数千行に及ぶことがあり、すべてをチェックするのには限界があります。ある大手企業では、受領した見積書のうち査定できているのは全体のわずか5%程度。しかもその見積書の中でも一部の明細行だけをチェックするのが現実でした。

そもそも見積明細は、企業によって見出しや項目のレイヤーがバラバラで、複数ページにまたがる非常に複雑な非定型帳票です。PDFからデータに変換すること自体が従来は現実的に不可能でした。

エージェントの役割:この課題を解決する起点となったのが、リチェルカの非定型データ正規化技術「QUDO」(RECERQA Scanをはじめとするデータを正規化する技術群)です。

QUDOによって、企業ごとにフォーマットが異なる複雑な見積明細でも、PDFからAIが参照できる構造化データに変換できるようになりました。過去にPDFのまま眠っていた膨大な見積明細をデータベース化できます。

新しい見積書が届くと、エージェントは過去の類似見積の価格データと照らし合わせて妥当性を判断します。市場価格の変動も考慮し、直近の相場として妥当かも評価します。査定基準は企業ごとに異なるため、各社固有のルールをAIに学習させ、その基準に沿って交渉ポイントをエビデンスつきで提示します。

購買部門は、属人的な相場感と時間的制約に依存していた査定業務から解放され、仕入交渉に専念できるようになります。従来5%しか査定できなかったものが網羅的にチェック可能になり、金額交渉の範囲が大幅に広がります。間接材の購入コスト削減に直結する取り組みです。第16話で述べた成果課金モデルに照らせば、このコスト削減効果に対して費用を請求する成果報酬型のビジネスモデルも成立します。

5. 発注最適化エージェント

現状:特に食品商社のように、受注を受けてから必要な商品を仕入先に発注するビジネスモデルでは、注文内容に応じた発注判断が日常的に発生します。

考慮すべき変数は複数あります。

  • 入数(1ケースあたりの個数)

  • 最小ロット

  • リードタイム

  • 仕入先ごとの価格条件

「どこに、いくつ発注するのが最適か」をベテラン担当者が判断しています。

なお、「発注最適化」というと需要予測を想像されることが多いですが、需要予測はどこまで行っても不測の事態には対応できず、実態としては非常に難しいものです。現場で求められているのは、安全在庫数を設定したうえで在庫を持ちすぎないように、受注のたびに複数の変数を踏まえて最適な発注先を選定するという、ベテランの経験に基づく判断です。

エージェントの役割:受注情報をトリガーに、現在の在庫状況・安全在庫数・仕入先ごとの入数・最小ロット・リードタイム・価格条件を自動で参照し、最適な発注先と発注量の組み合わせを提案します。

「A社に50ケース発注すれば納期は3日だがコストが高い。B社なら納期5日だが20%安い」といった比較を、根拠となるデータとセットで提示します。需要予測に頼るのではなく、安全在庫を基準にしながら、在庫を持ちすぎない発注判断を支援する設計です。リチェルカでは、このようなベテラン担当者の判断に近い発注最適化をエージェントで自動化することに取り組んでいます。

6. 納品消込エージェント

現状:納品消込とは、発注番号をキーにして、納品書に記載された発注番号を仕入リストの発注データから検索し、発注した商品が正しい数量・金額で届いているかを確認する業務です。

金額が発注時と変わっているケースも一定数あります。内容が合致していればそのまま納品登録しますが、ズレがある場合は仕入先への確認が必要です。

特に医療機器商社のように1日の納品件数が膨大で、トレーサビリティの観点から厳密な納品チェックが求められる業種では、1件ずつ手作業で照合しているケースが多く、大きな工数がかかっています。

エージェントの役割:納品書をRECERQA Scanで読み取り、発注番号をキーに仕入リストの発注データと自動で突合します。数量・金額が合致していれば自動で納品登録を行い、ズレがある場合は不一致の内容を明確にして担当者に確認を求めます。

分納の場合は残数を自動で追跡し、全量納品が完了するまでステータスを管理します。1日に数百件の納品がある場合でも、合致している案件は自動で消込が完了し、担当者はズレのある案件の確認・判断だけに集中できます。


これらのエージェントは、それぞれが独立して動くのではなく、連携して動きます。受注登録エージェントが処理した案件を発注最適化エージェントが引き継ぐ。納品消込エージェントが不一致を検知したら人間に確認を求める。この連携が、「受発注業務の自律化」を実現します。


セクション4:「採用」と比較したときのメリットと限界

デジタルワーカーの導入を検討する際、比較対象は「他のSaaS製品」ではなく「採用」や「BPO委託」になることがあります。

受発注担当者を1名採用する場合を考えてみます。年収400万円の場合、社会保険料や福利厚生を含めた年間コストは約500万円です。さらに、採用コスト(人材紹介手数料は年収の30%が相場)、教育コスト(OJTで3〜6ヶ月)、退職時の引き継ぎリスクも考慮する必要があります。

一方、デジタルワーカーは、初期の業務設計やデータ整備には時間がかかりますが、一度稼働すれば24時間365日、安定して処理を続けます。退職リスクも属人化リスクもありません。採用・教育・引き継ぎといった「人に依存するコスト構造」そのものが変わるという点が、従来のシステム導入とは異なるポイントです。

ただし、デジタルワーカーにも限界があります。

限界1:最終判断は人間が必要

第15話で述べたように、ビジネスである以上、責任を取れるのは人間だけです。「この取引条件で進めてよいか」「この例外対応を認めるか」。こうした判断は、デジタルワーカーが提案し、人間が決定します。

限界2:取引先との関係構築はできない

取引先との信頼関係、長年の付き合いから生まれる「阿吽の呼吸」は人間にしかできません。デジタルワーカーは、人間が築いた関係の上で定型的な処理を代行します。

限界3:想定外の事態への対応

AIは過去のデータから学習します。過去に例のない新規取引先、新製品、法規制の変更のような事態には人間の判断が必要です。

デジタルワーカーの正しい位置づけは「人間の代替」ではなく「人間との協働」です。定型的な処理はデジタルワーカーに任せ、人間は判断、関係構築、例外対応に集中する。この役割分担が、デジタルワーカー導入の本質です。


まとめ:「ツールから労働力へ」という転換

最後に要点を3つだけまとめます。

  1. デジタルワーカーは、RPAやチャットボットとは異なり、業務を自律的に遂行するAIエージェントです。ただし、最終判断者は常に人間です

  2. 従来のSaaSは「道具を売る」モデルでしたが、SaaSwは「労働力を派遣する」モデルです。価値の測り方も「機能」から「成果」へ変わります

  3. デジタルワーカーの導入は「人間の代替」ではなく「人間との協働」です。定型処理を任せ、人間は判断・関係構築・例外対応に集中する——この役割分担が重要です

次回(第21話)は、第3章のまとめとして、SaaSwへの転換がもたらす3つの構造変化を整理します。


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連載はマガジンにまとめています:

次回:【連載#21】なぜ今「Services as a Software」なのか——3つの構造変化


株式会社リチェルカについて

株式会社リチェルカは、エンタープライズ企業を中心に、属人化しやすい受発注業務を「一部の改善」ではなく、業務プロセス全体として安定運用できる形に整える支援を行っています。具体的には、以下を組み合わせて提供しています。

  • 業務整理・業務設計のコンサルティング(現状の棚卸し/残す例外・減らす例外の整理)

  • AI-BPO(データ化代行)による入力・照合の負荷軽減

  • 次世代AI-OCR「RECERQA Scan」による帳票の読み取りとデータ正規化

  • データベース+正規化基盤「RECERQA Hub」によるマスタ整備・突合支援

  • 受発注業務向けAIエージェント(RECERQAシリーズ)による判断支援(「いつものあれ」のような曖昧な依頼の特定など)

  • AIエージェントに最適化されたSCM基幹システム agenticERP「RECERQA SCM」による周辺業務まで含めた最適化

公式サイト:



執筆:リチェルカ編集部
監修:
梅田 祥太朗(うめだ しょうたろう)
株式会社リチェルカ 代表取締役CEO

■監修者プロフィール
中央大学商学部卒業後、みずほ銀行を経てワークスアプリケーションズに入社。国産ERP「COMPANY」「HUE」の会計・SCM領域の営業に従事し、最年少マネージャーとして総合商社グループや大手製造業、物流企業などのエンタープライズ企業を支援。その後、AI insideに参画し、執行役員CROとして事業全体を管掌。AI-OCR「DX Suite」を通じて、紙業務のDXと業務自動化を多数の大手企業に展開し、IPOを実現。
独立後、株式会社リチェルカの創業と同時に、卸売業「うえさか貿易」の事業承継を行う。卸売業の経営現場に立つ中で、受発注・在庫・棚卸といったサプライチェーン業務が、属人運用に依存し、エンタープライズ向けに業務全体を最適化できる決定的なソリューションが存在しないという課題を痛感。これらの実務経験を背景に、受発注業務を起点としてサプライチェーン全体を横断的に効率化・高度化する次世代のAIエージェント搭載ERP(Agentic ERP)の「RECERQA」を開発。現在は、業務プロセスの中に生成AIを組み込み、これまでシステム化や自動化が難しかった受発注・サプライチェーン業務の「できなかった」を解決する取り組みを行っている。

株式会社リチェルカは「すべての人を、クリエイティブワーカーに。」をパーパスに掲げ、受発注業務向けAIエージェントを開発しています。

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