【100%騙される】絶対に騙されないぞ!と身構える人ほど罠にハマる...脳がバグる『叙述トリック』傑作選
ミステリー小説の醍醐味って、例えば(ありきたりだけど)名探偵が犯人のトリックを暴く!みたいなものですよね。
でも、今日紹介したい叙述(じょじゅつ)と言われるトリックはちょっと違う。
これは、作中の登場人物ではなく、本を読んでいる読者自身を直接騙す仕掛けのこと。
読んでる人が「絶対に騙されないぞ!」と身構えるとき、実は作者にとって一番騙しやすい状態になっています。
なぜなら、人間は集中すればするほど、自分の中にある「思い込み」や「先入観」に頼って物語を読んでしまうからです。
例えば!こんな文章があったとします。
「にやにやと笑みを浮かべながら女風呂を覗いていた坂木は、こちらの視線に気がつくと一目散に逃げていった」
さて、坂木はどんなイメージですか??
私の騙しが成功しているのなら、嫌らしいor気持ち悪い男性を思い浮かべているはず。
そうなんです。
この文章を読むと、無意識のうちに「女風呂を覗くのだから、坂木は男性だろう」と思い込んでしまう。
もし後から「坂木は女性でした」と明かされたら、頭の中に描いていた映像がひっくり返りますよね。これが叙述トリックの基本です。
文字(テキスト)だからこそできる魔法
なぜ小説で叙述トリックがこれほど効果的なのか。それは、小説が文字だけの情報だからです。
映画やドラマなどの映像作品では、登場人物の性別や年齢、顔立ちがパッと見でわかってしまいます。
しかし小説では、あえて曖昧な表現を用いたり、重要な情報を伏せたりすることで、読者の頭の中に勝手なイメージ(思い込み)を作り上げさせることができるのです。
最近では映像化不可能と言われた作品が映画化されることもありますが、やはりまずは原作の小説で、文章ならではの騙しを体験するのが一番のおすすめです。
不思議な世界」から現実へ真っ逆さま
読者の思い込みを極限まで利用した作品の一つが、道尾秀介の『向日葵の咲かない夏』です。
この小説を読み始めると、動物が喋ったりする、少しファンタジーや超常現象が混ざった不思議な世界の話なんだな、と思い込みます。
そして、この不思議なルールの世界で、どうやって事件が起きたのだろう?と推理を始めます。
しかし、終盤でその前提は完全にひっくり返ります。
実は…
次の見出しまでネタバレ注意
不思議な現象が起きていたわけではなく、極限状態にある主人公の心が見せていた「幻覚」や「極端な思い込み」のフィルターを通して世界を見ていただけだったのです。
客観的に見れば、現実と何も変わらない残酷な世界だったと気づいた時の衝撃は計り知れません。
〜ネタバレ終わり
見事に叙述トリックにやられた、と感じる名作です。
自分の偏見に気づかされる
もう一つ、ステレオタイプ(固定観念)をうまく突いたのが、殊能将之の『ハサミ男』です。
主人公は、美少女を殺して首にハサミを突き立てるという猟奇殺人鬼「ハサミ男」です。
彼は、自分のやり方をそっくり真似て人を殺した別の犯人(模倣犯)を見つけ、自らその犯人探しを始めます。
読者は「連続殺人鬼」「猟奇的な犯行」という言葉から、勝手に主人公の性別や年齢、体格を想像してしまいます。
そして「誰がハサミ男の真似をしたのか?」という謎解きにばかり気を取られてしまいます。
しかし、本当の罠は「真犯人は誰か」ではなく、ハサミ男(主人公)とはいったい何者なのか、という部分に隠されています。
自分の抱いていたイメージがひっくり返る、何度も読み返したくなる精巧なミステリーの傑作です。
「騙しますよ」と宣言されても騙される
普通、叙述トリックは「これは叙述トリックです」と事前にバラされると、読者が警戒してすぐに気づいてしまうため、ご法度とされています。
しかし、あえてタイトルで「これは叙述トリックです!」と高らかに宣言しているのが、似鳥鶏の『叙述トリック短編集』です。
読者は「絶対に騙されないぞ!」と一言一句を疑いながら読み進めますが、大胆不敵な予告にもかかわらず、必ず騙されてしまいます。
なぜなら、読者が「ここが怪しい!」と集中している隙に、全く警戒していない「当たり前の設定」の部分で大きな仕掛けを爆発させるからです。
手品みたいなテクニックが光る、叙述トリックの世界にどっぷり浸りたい人にぴったりの一冊です。
何重にも仕掛けられた罠
最後に紹介したいのが、読者を罠にハメる天才・折原一の作品です。
彼の仕掛けは「折原マジック」と呼ばれ、物語の骨組みそのものが何重にもひっくり返るのが特徴です。
『七つの棺 密室殺人が多すぎる』
密室マニアの警部による事件簿という形をとっていますが、実はこれは事件解決の記録ではなく、究極の密室愛の記録へとすり替わっていきます。
本来なら一番信頼できるはずの警察官の狂気に、読んでる人らは翻弄されます。
『叔母殺人事件 偽りの館』
犯人が書いた手記(完全犯罪へのカウントダウン)という形で進む物語です。
読者は犯人の頭の中で暮らすような体験をしますが、そもそも「この手記は本当にその犯人が書いたものなのか?」という前提ごとひっくり返されてしまいます。
『叔父殺人事件 グッドバイ』
インターネットの闇に素人探偵が放り込まれるお話です。
ネットの匿名空間は、性別も年齢も偽れる「叙述トリック」の宝庫。
物語の土台から覆る折原マジックが炸裂します。
騙されることの快感
絶対に騙されないぞ」と身構えて読んでも100%騙されてしまうのは、「自分は文章を正しく読めている」「自分の常識は正しい」と無意識に信じ込んでいるからです。
叙述トリックの小説は、頭の中にある思い込みや先入観を取り払ってくれるから、読むべき本なんです。
仕事にもつながる。
ぜひ、どれか一冊でも読んでみてくださいね。
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