ナチスが手本にしたのはアメリカだった…人種差別の裏に潜む見えない身分制度『カースト』
人種差別ってじつは人種差別じゃない。
そんな本が衝撃だったので、今日はその本を紹介しようと思います。
たとえばアメリカで起きている黒人の差別って、人種差別だって思いますよね。
でも、それはじつは違くて、どちらかというと、カーストに近い、という話。
ようは、アメリカ自体が目に見えない強固な身分制度によって、成り立っている。
人種(肌の色など)は、そのシステムを隠すための「表向きの看板」に過ぎない。
特定のグループを上に、別のグループを下に固定し、支配を正当化する本当の仕組みこそが「カースト」なのです。
それを書いてピューリッツァ賞を取った作家がいます。
イザベル・ウィルカーソン。
そして、2020年の大ベストセラー『カースト:アメリカに渦巻く不満の根源』です。
今日はこの本を徹底的に解説します。
イザベル・ウィルカーソンってどんな人?
著者のイザベル・ウィルカーソンは、1961年にワシントンD.C.で生まれたアフリカ系アメリカ人の女性。
ニューヨーク・タイムズ紙の記者として活躍し、1994年にはアフリカ系アメリカ人女性として史上初めて、ジャーナリズム界の最高名誉であるピュリッツァー賞を受賞しました。
彼女の取材スタイルは、単に事実を並べるだけでなく、取材相手と生活を共にし、その人の感情や人生を読者に追体験させるという特徴があります。
前作の『The Warmth of Other Suns』では15年もの歳月をかけて黒人たちの「大移動」の歴史を描き、オバマ元大統領からも高く評価されました。ほんとはこちらを先に紹介したかったのですが、英語しかないです。
本作『カースト』は、その歴史の根底にあった「逃れられない身分制度」の正体を解き明かした渾身の一冊です。
アメリカ、インド、ナチス・ドイツの共通点
この本が画期的だったのは、アメリカの差別構造を、インドの身分制度(カースト)とナチス・ドイツのユダヤ人迫害という、世界の代表的な2つの差別システムと比較したことです。
なんと、ナチス・ドイツがユダヤ人を迫害する法律を作った際、彼らがお手本にするために熱心に研究したのはアメリカの黒人隔離法(ジム・クロウ法)でした。
ナチスでさえアメリカの法律は厳しすぎると驚いたという歴史の事実は、アメリカのシステムがいかに残酷に計算されたものだったかを物語っています。
また、著者はアメリカの現状を理解してもらうために、2つの分かりやすい例え話を使っています。
古い家の例え
現在のアメリカ人は、先祖が建てた古い家(国)に住んでいます。
土台が腐っていたり、柱が傾いていたりするのは、今の住人のせいではありません。
しかし、今そこに住んでいる以上、その欠陥から目を背けず、修理する責任があるという教え。
自分より前の人たちが人種差別の法を作ったから自分は関係ない、とはいかないってこと。
シベリアの永久凍土の例え
地球温暖化で氷が溶け、太古のウイルスが復活するように、現代のアメリカで再び白人至上主義などのヘイト(憎悪)が爆発しているのは、新しい問題ではなく、氷の下で眠っていた「カーストの病原菌」が環境の変化で再び表に出てきただけだという指摘です。
差別を長続きさせることとは
これも最悪ですが、筆者はカーストというシステムが崩れないように支えている8つの柱(ルール)があると説明しています。
神の意志と自然の法則
「この身分は神様が決めたことだ」
「これが自然の摂理だ」と思い込ませる。
遺伝性
生まれつき身分が決まっており、一生、そして子孫の代まで抜け出せない
結婚の制限
違うグループの人同士の結婚や恋愛を法律やルールで固く禁じる(仲間意識を持たせないため)
純粋と汚染
上のグループは純粋で、下のグループは汚い(触れると汚染される)というイメージを植え付ける
職業の制限
下のグループには、最もきつく、汚く、給料の安い仕事を強制する
非人間化(人間扱いしない)
下のグループから人間らしさを奪い、番号で呼んだりして、ひどい扱いをしても良心が痛まないようにする
恐怖による支配
下のグループが反抗しないよう、見せしめとして暴力やリンチを行い、恐怖を植え付ける
生まれつきの優劣
上のグループは賢くて美しく、下のグループは劣っているという「嘘の常識」を社会全体に広める
差別とは「性格の悪い個人のいじめ」ではなく、これら8つの柱を使って権力者が自分たちの地位を守ろうとする「システムそのもの」なのです。
日常生活に潜むカースト
本の中では、難しい理論だけでなく、胸が痛むような具体的なエピソードもたくさん紹介されています。
キング牧師の体験
有名な公民権運動のリーダー、キング牧師がインドを訪れた際、現地の学校の校長先生から「彼はアメリカの不可触民(カーストの最底辺)です」と紹介されました。
キング牧師は最初はショックを受けましたが、アメリカでの黒人の扱いを考えれば「まさにその通りだ」と納得させられました。
プールでの少年
1950年代、少年野球で優勝した白人チームがプールで祝賀会を開いたとき、チームに1人だけいた黒人の少年は水に入ることが許されませんでした。
「プールの水が汚れる」という理不尽な理由で、浮き輪に乗ったまま「絶対に水に触るな」と命令されたのです。
最近映画になった
ちなみにこの本は、2023年に映画『Origin』として映像化されました。
もしかしたら、何年かしたら日本語でも見れるかも。
難しい社会の本をそのまま映画にするのではなく、「著者のイザベル・ウィルカーソン自身が、主人公として本を書き上げるまでの道のり」を描くドラマ仕立てになっています。
映画の中では、彼女が愛する夫や母親を次々と亡くすという個人的な深い悲しみと、世界の差別の歴史という人類の悲しみが交差しながら進んでいきます。
世界と日本での大反響
2020年にこの本が出版されたタイミングは、奇しくも「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動が世界中で盛り上がっていた時期でした。
有名な司会者オプラ・ウィンフリーは「全人類が読むべき、これまでで最も重要な本」と大絶賛し、自腹で500冊を買って全米のリーダーたちに配りました。
日本でも2022年に翻訳版が発売されると、新聞の書評などで大きく取り上げられました。
日本にとっても、被差別部落の問題や、外国人に対する差別など、日本社会の底に潜む「見えない壁」について考え直すためにも読むべき本。
目に見えない壁を壊すために
じつは学校、法律、住宅など、社会のあらゆる土台が「カースト」を前提に作られているため、法律で差別を禁止しても、人々の無意識の中には差別が生き残り続けます。
そして、この身分制度は人間が作ったものだからこそ、人間の手で壊すことができる。
そのためには、まず歴史の真実から目を背けず、自分たちの中にある「特権」に気づくことが必要です。
そして、違うグループの人たちに対して深い共感を持つこと。
それをしないと地獄みたいな社会になってしまう。
だから本を読むべきだと思うんです。
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