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余白ノート|本好きの下剋上 領主の養女丨第3話|領主の城とイタリアンレストラン

お城に移ったローゼマインが、最初に気にしたのは、やはり図書館だった。

カルステッドの家からエーレンフェスト城へ移動して早々、「図書館はどの建物ですか?」と尋ねるあたりが、いかにも彼女らしい。場所が変わっても、身分が変わっても、彼女の関心だけはぶれない。その一本気なところが、この物語の芯なのだと思う。

出迎えたのは、ジルベスターの筆頭側仕えノルベルト。

城では新たな顔ぶれも一気に登場する。護衛騎士として兄のコルネリウスとアンゲリカ、側仕えとしてリヒャルダとオティーリエ。なかでも印象に残るのはリヒャルダだ。フェルディナンドを「お坊ちゃま」、ローゼマインを「姫様」と呼ぶ、その呼び方だけで、この城の時間の積み重なりや人間関係の濃さが伝わってくる。

湯浴みやリンシャンで髪を洗う場面も、ただの生活描写ではない。

神殿から城へ。暮らしの質感そのものが変わっていく。ローゼマインが新しい環境へ運ばれていく様子が、こういう細かな描写でじわじわ実感できるのがいい。

義理の兄弟として、ビルフリート、シャルロッテ、メルヒオールも登場。

特にビルフリートは、以前ローゼマインを連れ回して気絶させてしまった件を謝る。こういうところもこの作品らしい。ただ事件が起きるだけではなく、そのあとにちゃんと関係を整え直す。人物同士の距離が、少しずつ編み直されていく。

そして星結びの儀式。

七の鐘の中で、ローゼマインはまたしても派手な祝福を放つ。もはや規模がローゼマインである。結果として寝込んでしまうのも含めて、祝福の大きさと身体の弱さがいつも隣り合わせにあるのが彼女らしい。フェルディナンドから「優しさ入り」の回復薬をもらう場面もよかった。あの人は厳しい顔で、だいたい優しい。

今回、さりげなく好きなのは、ローゼマインがブリギッテやダームウェルを気遣うところだ。

自分が城に上がり、立場が変わっても、共にいた人たちへの目線を失わない。しかもブリギッテの衣装をローゼマインが手掛け、それが流行につながっていく気配まである。文化を作る人というのは、こういうところにも現れるのだろう。印刷だけではない。服飾も、食も、習慣も、彼女は触れた先から少しずつ世界を書き換えていく。

そして後半。

今回の見どころをひとことで言うなら、**「イタリアンレストラン回、開幕」**である。

馬車の中で、下町の揺れと匂いにジルベスターが鼻を押さえる場面は、ちょっとおかしい。領主と下町の距離が、理屈ではなく身体感覚で示されるのが面白い。そこからレストランに着くと、ベンノ、商業ギルド長グスタフ、フリーダたちが出迎える。神殿、城、商人社会がここで一堂に会する感じが実に本好きらしい。

ロジーナのフェシュピール。

試食。

ふわふわパン。

コンソメスープ。

この流れが、もう強い。

ふわふわパンのレシピをフリーダが求めるも、ジルベスターが「流行にするため」と却下する場面には、食がただの食事ではなく、領地経営や流通戦略の一部であることがはっきり出ている。ここがこの作品のおもしろさだ。美味しいだけで終わらない。美味しさの先に、商売があり、権力があり、文化の拡張がある。

そしてコンソメスープ。

何も入っていないように見えるのに、美しい。しかも美味しい。フェルディナンドが大絶賛し、その後の好物になるという流れまで含めて、実に印象的だった。派手な料理ではないのに、一口で価値が伝わる。これは料理の場面でありながら、「洗練とは何か」を見せる場面でもあった気がする。

さらに話は食で終わらない。

ハッセで進まない印刷事業を前に、ジルベスターとフェルディナンド、そしてローゼマイン一行は、イタリアンレストランを騎獣で飛び出す。ここから一気に領主の仕事モードへ入るのが鮮やかだ。

そして、領主一族だけの魔術によって、ハッセに小神殿を作ってしまう。

この展開はかなり大きい。神殿の孤児院と同じ方式で印刷工房を動かせるようになるということは、ローゼマインが神殿で築いてきた仕組みが、領地経営のモデルとして外に持ち出されるということだからだ。つまり今回は、ローゼマインの個人的な工夫が、ついに地域を動かす制度へ変わる回でもあった。

次回は寄付集め。

文化を広げるには、理想だけでは足りない。人も、場所も、資金もいる。本を作るために、社会そのものを少しずつ編集していく。そんな『本好きの下剋上』らしさが、今回もしっかり詰まっていた。

城に入っても、祝福して倒れても、スープに感動しても、結局ローゼマインが向かう先はいつも同じだ。

本へ。

印刷へ。

そして、それを支える世界そのものへ。

今回は、そんなローゼマインの「文化を動かす人」としての輪郭が、ぐっと立ち上がった回だったと思う。


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