本好きの下剋上|マインの記憶・神殿編 04|孤児院の朝が変わる日
孤児院長室の扉を開けると、
まだ少しほこりの匂いが残っている。
けれど、昨日とは違う。
窓が開いている。
光が入る。
子どもたちの声が、遠くから聞こえる。
最初に変えたのは、食事だった。
温かいスープ。
パンだけじゃない朝。
それだけで、空気がやわらぐ。
ギルが静かに動き、
デリアが戸惑いながらも手伝う。
フランは黙って整える。
誰も「ありがとう」とは言わない。
でも、食べる速さが違う。
マインは、部屋の隅で考える。
「わたしがいなくなっても困らないように」
仕事があれば、もっと変わる。
紙づくりの準備を始める。
繊維をほぐし、水を混ぜる。
失敗もする。
でも、笑う声が増える。
窯を使って、料理を試す。
チーズをのせた焼きもの。
外はこんがり、中はとろり。
「これ、うまい」
ギルの目が、ほんの少し丸くなる。
孤児院は、祈る場所だった。
でも今は、働く場所になる。
手を動かすと、顔が変わる。
マインは気づく。
本を作るには、人がいる。
人が笑うには、仕事がいる。
神殿の石は冷たい。
けれど、この部屋には、
湯気が立つ。
通いであることは、まだ変わらない。
夕方になれば、家に帰る。
母の声がして、トゥーリが迎える。
二つの世界を行き来しながら、
少しずつ形が変わる。
孤児院の朝が変わると、
神殿の空気も、わずかに揺れる。
次回。
図書館が荒らされた日。
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