米中の地政学1
文藝春秋スペシャル2017春から、「“南シナ海で米中対決”を予言! 1942年イエール大白熱授業」の要約の途中。
著者は地政学・戦略学者奥山真司氏。
米中の衝突は近年繰り返されてきている。台湾海峡危機、海南島事件、音響測定艦インペッカブルへの中国人民解放軍による進路妨害。
さらに中国は南シナ海において実効支配の範囲を拡大しているが、南シナ海は世界貿易の重要な海上交通路であり、このことが米中間の衝突の最大要因となっている。
以上のような状況を国際政治学者ニコラス・スパイクマンは70年以上前に予言していた。彼の予測は正確で、1941年12月31日、つまり真珠湾攻撃直後に「アメリカはこの戦争が終わったら、日本やドイツと同盟を組まなければならない。そして、ソ連に対抗していくべきだ」と演説し、怒号に包まれた。
彼はその演説の翌年に亡くなっているが、死後にまとめられた本でも、戦後はアジアのパートナーを中国から日本に変えざるを得ない、と記している。
彼の戦略家理論の核は「リムランド」だった。戦略的に最も重要なのは、ユーラシア大陸の沿岸部一帯(リムランド)だと唱えた。
地政学の祖のマッキンダーは、ハートランド論においてハートランド(大陸内部)を制するものが世界を制すとしたが、同時にリムランドの重要性も指摘していた。
地中海を支配していた古代ローマ帝国に見られるように、大国や列強は自国の周辺の海を囲い込むように支配を確立し、域外へ展開した。太平洋戦争では、太平洋を内海とすべく、日米が争った。
スパイクマンは1942年の時点で、「アジアの地中海」という概念を提唱している。シンガポール、台湾、オーストラリア北岸という三辺に囲まれた島だらけの海域も一種の内海であり、このエリアを抑えられるかどうかがアメリカの世界支配の鍵となり、このエリアが単一国家によって支配されてはアメリカにとって都合が悪い、と指摘している。
ここまでの感想・考察
スパイクマンの1941年12月の演説には、その内容にも、それをあの時点で発表する剛胆さにも、度肝を抜かれる。学者の確信は、世間の常識や感情など考慮しない。
地政学は危険な学問というイメージが強いが、実際には非常に納得させられることが多い。ハートランドのランドパワーとリムランドのシーパワー。こういうことを当てはめて出来事を照らすと、「なるほど!」と思わせられる。
シーパワーとランドパワーの両方の獲得に成功した国はないという。フランスもロシアもシーパワーにチャレンジしては失敗し、イギリスはランドパワーを手にしていない。ルイ14世もビクトリア女王も果たせなかった海と大陸の両方の覇権確立、今後米中いずれかがそれを成し遂げるのか。そのとき世界はどうなるのだろうか。米中のそのための手法が最近とみに極端に異なることも興味深い。中国は一帯一路から、最近行われた上海協力機構の会議など、方向性を変えたように見える。欧米以外を大集合させているが、報道の仕方が原因なのか、唐突に感じられる。翻ってアメリカは、トランプ大統領が独裁主義を思わせる強権的イデオロギーを強烈に発している。そして、そのいずれにも賛同し得る理念が見えない。
