見出し画像

始まりと途中と終わりのあるものを収納する(人のつくるものについて・04)

 前回の「歯ブラシ、つまようじ、マッチ棒(人のつくるものについて・03)」では、最後に次のような話をしました。

 線香花火と線香は、線は線でも直線なのに対し、蚊取り線香は普通は巻いたかたちをしています。始まりと途中と終わりのあるものには収納法があるのです――。

 その収納法の一つが、直線状のものを巻くなのことです。始まりと途中と終わりのあるものを収納するには、他にどんな方法があるでしょう?

 この連載でつかっている「お題箱」に入っているものを見て考えてみましょう。

 小説、物語、詩、俳句、辞書、電話帳、おみくじ、紙幣、楽曲、映画、漫画、アニメ、ゲーム、お芝居、瞬間芸、写真、鏡、ガラス、絵、地図、地球儀、ボール、サイコロ、ルービックキューブ、彫刻、時計、カレンダー、年表、物差し、巻き尺、温度計、秤、スマホ、茶碗、鍋、箸、綿棒、歯ブラシ、歯磨き粉、人形、観覧車、自動車、道路、下水道、電線、歴史、人生。

 たとえば、本として存在するものがあります。

・小説、物語、詩、俳句、辞書、電話帳、写真、絵、地図、年表

 本というのは、原則として文字列という始まりと途中と終わりがある直線状のものをおさめています。

 おさめる、収める、納める、収納する

 本とか書物と呼ばれるものにどんなものがあるかを考えると、文字という直線の収納法が分かるかもしれません。


紙、本、書物


 小中学生の頃、授業で習ったことの復習です。文字はどんなものに書かれていたでしょう?

 地面、土、粘土、壁、板、竹、パピルス、皮(動物・植物)、紙……。

 こんな感じでしょうか。

 そう言えば、巻物なんていうのもありました。絵巻物という言葉も思いだします。

 話を広げすぎないために、紙で考えてみます。

 紙をつかった本や書物がどんなふうにつくられて、どんなかたちをしていたか。それを考えれば、始まりと途中と終わりのある文字列という直線状のものの収納の仕方が分かりそうです。

     *

 直線上に並べられた文字列は直線状ですから、下のような処理をすれば、収納できるでしょう。

 巻く
 折る、折り畳む
 切る、割る、分ける
 重ねる、束ねる、綴じる

 確かに、直線である文字列を上のような処理をしたものが、各種の本や書物だと言えそうです。

物差し、折り尺、巻き尺


 直線状の物を収納するとか、使いやすい形にする工夫は、物差し、折り尺、巻き尺を思いだすと分かりやすいでしょう。

 そうしたたぐいのものは、さまざまな分野でさまざまな形で用いられています。漠然とした曖昧な言い方で申し訳ありません。

 思いつくままに、具体例を挙げてみます。

     *

折り尺、折り畳みナイフ、折れ線グラフ、パンタグラフ、マジックハンド。
・テープ、セロテープ、マスキングテープ、包帯、フィルム、レコードの溝。
・フィルム、リール(フィルム)、カメラ、映写機、キャメラ(映画用カメラ・撮影機)。
・胃カメラ、大腸用内視鏡カメラ、ファイバースコープ、釣り用リール。
・糸車、織機、機織り機、編み機、ミシン。

 上の例を見ているうちに、直線状の物という言い方に語弊があるようにも思えてきました。硬くなくても、つまり、柔らかい物、ふにゃふにゃした物がたまたま直線である場合もあります。

     *

 糸や帯がそうです。糸状の物とか帯状の物と言えば、もっと対象が広がるはずです。

 糸と言えば、繊維や線維があります。織物になります。

 そう言えば、「織る」と「折る」は似ています。「折り畳む」の「畳む」は、「畳」と関係ありそうです。

 むしろやたたみは織物にも見えないことはありません。そう言えば、糸車と映写機もよく似ています。

 収納法の話をしているうちに、話が広がりすぎて、収まりがつかなくなってきました。収拾がつかないというやつです。

 話を絞ります。

折る、織る、織物・テクスト・テキスト


 編む、紡ぐ、綴る――こうした言葉は、繊維からなる織物と線状の文字列である文章に共通してもちいられています。

 英語やフランス語では、文章をテキストとかテキストと呼ぶこともあります。

 text のきょうだいである texture(テクスチャー)を英和辞典で調べると、生地、織地、布、織物、織り、織る、織り込む、という日本語訳があることが分かります。

     *

 紙を巻く。紙を折ったり、折り畳んだり、切断する。切断した紙を束ねて綴じる――。

 布を巻く。布を折ったり、折り畳んだり、切断する。切断した布を縫い合わせる――。

 糸を巻く。糸をより合わせて紡ぎ、織ったり、編んだりする。織った物や編んだ物を継ぎ合わせて、敷物や服をつくる――。

     *

 上のように書くと、文章をおさめた書物(本)と、織物(布)を継ぎ合わせた着物(衣服)がとても似た物に思えてきます。

 そうした物にかかわるさいの振り(身振り)が似ているのです。共通した仕草と動作が見られます。

     *

 文章と繊維に共通して用いられる言葉で好きなのは、やはり「紡ぐ」と「綴る」と「編む」です。文章をつくるのが手と指を動かしての仕事であることを実感させてくれます。

 あと気になる言葉としては、「あや・文・綾」や「もよう・もんよう・模様・文様・紋様」があります。英語の pattern に通じるイメージを感じます。

 パターンと似た言葉の style・スタイル も、文体や作風という日本語が当てられるし、服飾関係でも用いられているようです。

川端康成作『雪国』


 川端康成作の『雪国』の最終章では、その前半に、縮(ちぢみ)・縮織(ちぢみおり)の話が出てくるのですが、それと織物としての文章について書いた拙文「織物のような文章」があるので、よろしければお読みください。

 一部を紹介します。

 縮む時間をつむいだ文章の糸をほどいて、もとにもどし復元したり、その構造を分析するのではなく、その縮んだ織物である文章の皺と襞を、指と手のひらでなぞって延ばす。延ばしながら、なでて手触りを楽しむ――。
 そんな感じで読んできましたが、川端の文章に、私は美しい模様が丹念かつ周到に織り込まれた織物の趣を感じます。

 このアカウントで記事を書き始めた初期の文章で、とても愛着のあるものなのです。

     *

 始まりと途中と終わりのあるものの収納法については、話が長くなりそうなので、今回はここまでにしておきます。

 また、来てくださいね。

(つづく)

#紙 #本 #書物 #織物 #直線 #文字列 #糸 #フィルム #収納 #川端康成 #雪国