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#10 薄明スピンオフ『九条稜真の恋』

こちらの物語は、先日完結した長編恋愛小説『薄明』の番外編(スピンオフ)ですが本編をお読みになっていない方でも単体でお楽しみいただける内容になっていますので、本編未読の方もぜひ気軽にお読みください。

前回のお話はこちら



薄明スピンオフ『九条稜真の恋』
第10話



僕はなぜか幼い時のことを思い出していた。


夏になると、毎年どこかから水蜜桃が送られてくる。

白い緩衝材の上で、ひとつひとつ発泡ネットに丁寧に包まれ収められた可愛い桃。


僕はそれがいつも楽しみだった。



理華のマンションは、2人が食事をしたイタリアンの店から歩いて15分ほどの場所にあった。

大通りから一本入った、閑静な住宅街に佇むハイセキュリティの高級マンション。


洗練された大理石のロビーを通り、エレベーターで上がった先にある彼女の部屋の前で、理華がバッグから静かにキーを取り出す。

​カチャリ、と静かな電子音が響きドアが開いた。


「どうぞ」


理華が僕を招き入れる





母がいつもその桃を、いくつか食後に剥いて切り分けてくれる

僕は父や兄と一緒にそれを頬張るのが常だった


でも本当は、まるごとひとつ食べてみたい


次の日僕は母にわがままを言った


ねえお母さん、その桃、ひと玉全部僕が食べたらだめ?






理華がコートを脱ぐ


広々としたリビングは、いかにも理華らしい洗練されたインテリアで統一されていた。


センスの良い北欧調の家具に、無駄のない美しいレイアウト。

サイドボードに飾られた小さな花や、ふわりと香るどこか落ち着くアロマの香りに、彼女がここで確かに暮らしているという微かな生活感が滲んでいて、
それが妙に僕の動悸を激しくさせる。






母は困った顔をして笑い、「特別ね」とひとつの桃を丸ごと僕の手に差し出した。


僕は嬉しくて、きらきらと瞳を輝かせ、その桃をてのひらで大事に包む





ソファの端に腰掛けたものの、落ち着かずに視線を彷徨わせる僕に、理華がグラスを差し出した。


​「お酒、……ウイスキーでもいいですか? あと、お水も」


​「あ、ありがとう……」



​受け取ったウイスキーを、喉を湿らせるようにひとくち飲む。


グラスを置いた瞬間、すぐ隣に座った理華と、まっすぐに目が合った。


​アルコールの熱のせいだけではない、潤んだ、何かを覚悟したような強い瞳。


心臓の音が頭の中で鐘のように鳴っている


わずかに指が触れる



僕らは磁石のように吸い寄せられ、どちらからともなく、自然と唇が重なった。






僕はしげしげとその桃を観察した。


産毛をまとった淡い乳白色の果皮。

僕はそれをそうっと撫でてみる。


傷つかないように、だいじに、だいじに、撫でてみる。


手触りを確認して、その下にあるずっしりと水分を蓄えた瑞々しい果肉を想像したら、もうたまらない気持ちになった。



早く食べたい。








ああ、だめだ

止まらない



なんの準備もしていないのに



どうしてこうなったんだっけ

だって僕はさっきまで、

つい夕方まで、


いつものようにたったひとりだった


さみしくて、孤独で、冷たかった。


それなのに。



頭が追いつかないまま手を伸ばす







僕は桃が潰れないように注意深くその皮を剥いた

たったそれだけなのに充分に熟した甘い水蜜桃からあふれるつゆで手が濡れる


喉が鳴る


この美しい果実を独り占めして、口いっぱいにほおばったらどんなに幸せだろう


それが今から僕に訪れるなんて、夢みたいだ







理華の口から、甘い声が漏れる

その声が耳をくすぐる

だめだ、だめだ


たまらない






僕はむいた桃を鼻先へ運び、甘く芳醇な香りに目を細めた。


唇をゆっくり近づけて、柔らかな桃に軽く触れる。



歯を立てた瞬間、張った果肉がぷちゅっとほどけた。


果汁が堰を切ったように溢れ、手のひらや指先を濡らしてゆく。



透明な雫が頰を伝ってあごに伝い落ちた


ぽた、ぽた、ぽた。。。






「あ……っ…、あ…稜真さん…っ」



「っ……理華…さん……」






口の中でじゅわじゅわと濃厚な果汁が体温に溶けていく





「稜真…さん…」





僕はそれを夢中になって食べた

食べ終わるのがもったいなくて、
泣いてしまいそうだった






「私…ピル飲んでるから…」






最後は種の周りの果肉まで惜しむように味わった



満たされて、胸がいっぱいで、
途方もない幸福に


僕は恍惚とする。













ああ







すごく美味しい





続く





続きは……




隙を見てアップ出来ないこともないけど、明日からシンガポール行ってくるので
どうか稜真と一緒に今しばらくこの余韻に浸っていてくださいませ🙇🏻‍♀️

あー最高に好きな官能シーンが描けた

続きはそのうちに…!


補足

​【低用量ピルについて】
低用量ピルは、避妊目的の他、月経周期のコントロールや生理痛の軽減、肌荒れ改善など日常的な体調管理のために服用する薬です。
理華は海外ツアーの同行や出張など多忙なスケジュールをこなす仕事の都合上、日常的にサイクルをコントロールするために服用しています。

はぁ…やっぱシンガポールに合わせて生理始まってしまったなあ…😮‍💨
こんなことにならないように理華はピル飲んでます
ちなみに40代以降は血栓症のリスクが高まるため服用は推奨されません。

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それではまた✋️










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