#9薄明スピンオフ『九条稜真の恋』
こちらの物語は、先日完結した長編恋愛小説『薄明』の番外編(スピンオフ)ですが本編をお読みになっていない方でも単体でお楽しみいただける内容になっていますので、本編未読の方もぜひ気軽にお読みください。
前回のお話はこちら
薄明スピンオフ『九条稜真の恋』
第9話
「あの……、お楽しみのところ大変申し訳ございません。
……そろそろ、閉店のお時間となっておりまして…」
店のスタッフが申し訳なさそうに告げに来た頃には、二人のグラスはそれぞれ4〜5杯ほど空き、ラストオーダーで頼んだティラミスとエスプレッソもすっかり平らげられていた。
「あっ…、すみません長居してしまって……うわっ、もう23時?!」
腕時計に目を落とした稜真が、驚きに目を見開く。
二人の会話はあの後も尽きることなく、大切な話も他愛のない話も夢中で語り合った。
気づけば、時の経過さえ忘れてしまうほど楽しい時間が流れていた。
「いえいえ。お二人がとても楽しそうにお話しされていたので、ついお声がけが遅くなってしまって。
どうぞ、ごゆっくりお仕度なさってください」
穏やかに微笑むスタッフの言葉に、理華は「ごめんなさい」と言いながらもにこにこと嬉しそうに笑っていた。
稜真は、そんな彼女の柔らかい表情を見つめ、胸の奥に灯った淡い温かさに安らぎながら、伝票を手に取る。
………
「ありがとうございます、ご馳走になってしまいました。
本当に素敵なお店ですね。全部、すごく美味しかった!」
店を出て通りに並んだ瞬間、理華が楽しそうに、小さく頭を下げて礼を言った。
冷たい夜風が火照った肌を優しく撫でるけれど、足元は心地よいアルコールのせいで少しだけほわほわと浮ついている。
「良かった、気に入ってもらえて。僕のお気に入りの店なんだ。
でも本当にびっくりしたな。確か店に入ったのは18時くらいだったと思うけど……、まさか5時間も経っていたとはね」
「うふっ、そうですね。楽しくて私も一瞬でした。
それにしても、あんなに飲むなら、最初からボトルで頼んでおけば良かったですね」
アルコールの熱でほんのり頬を染めた理華が、可笑しそうに笑う。
稜真は、彼女が自分と同じ気持ちでいてくれたことがたまらなく嬉しくて、思わず上機嫌な笑みをこぼした。
「理華さんはお酒が強いんだね。
でも、グラスのおかげで色んな種類を試せてすごく楽しかったよ。
……あ、そういえば最後、エスプレッソ大丈夫だった?
僕は慣れてるけど、今夜眠れないんじゃない?」
そう口にした瞬間、稜真はハッとした。
これ、妙な誤解を生む発言じゃないだろうか?
「あ……っ! いや、その、酔い覚ましにもなるしね、カフェインは。
あはは、変な意味じゃなくて……」
慌てて早口で付け加える稜真を、理華は長い睫毛を揺らしながら、実に面白そうに、愛おしそうに眺めていた。
23時。
翌日は仕事が始まる月曜日。
別れ難いけれど、もう一軒どこかへ、という時間でもなかった。
帰らなくちゃいけない。
帰らせなくちゃいけない。
──でもこのまま終わらせたくない
稜真はぐっと拳を握ると意を決して振り向き、理華にまっすぐ向き合った。
「あの……理華さん。
連絡先、交換してもいいかな。
また時々、こうして食事をさせてもらいながら色々話せたら嬉しい。
すごく楽しくて……また、会いたいんだ。
もし迷惑でなければ、その…
友達に、なってくれないかな」
真摯な眼差しで、理華の切れ長な美しい瞳を見つめる。
どこまでも不器用で、どこまでも誠実な、九条稜真という男の精一杯の言葉。
理華は視線を外さず、彼の眼差しを真っ正面から受け止め──そして、ふっと視線を流した
「え……、残念」
「えっ?!」
冷や水を浴びせられたように、稜真の身体が硬直する。
しかし次の言葉は思いがけないものだった
「私は、友達以上になりたいです」
「……え?」
想定外の言葉にポカンと口を開けてフリーズする稜真に、理華は一歩、歩み寄った。
「私、もっと、稜真さんと一緒にいたい」
「…………」
もう一歩。
硬直して言葉が出ない稜真に理華がさらに追い打ちをかける
「……私の家、この近くなんですけど。
よかったら……うちで、もう少し飲みません?」
「……、っえええっ……!?」
あまりの展開に、絵に描いたようにうろたえる稜真。
さらにもう一歩理華が近づく。
2人の距離は、息がかかるほど近くなった。
彼の手を、理華は自分の細い指先でそっと包み込むように握り、上目遣いで稜真をじっと見つめ問いかける。
「……ダメですか?」
────ダメなわけが、なかった。
つづく
次回は明日21時頃更新予定です
行ったれ稜真!
薄明の物語を最初から読んでみたい方はこちら!
あらすじもございます
理華(エリカ)が出てくるのは18章「仮りそめの愛」です↓
よろしければこちらだけでもお読みくださると、スピンオフをもっと深く楽しめるかも!
それでは明日をお楽しみに♡♡♡
